48 ホワイトデーの話題。女子と男子
どっちが得か
「はい、ホワイトデーのお返し」
「わーい。ありがとうございます!!」「ありがとう!!」
父さんに続いて、僕も妹たちにホワイトデーのお返しを渡す。中身はクッキーの詰め合わせ。もちろん市販品だ。僕はクッキーの詰め合わせだけど、父さんは少し高いチョコ菓子の詰め合わせと、ハンカチの入ったポーチなんかを渡していた。僕もそのうち、お菓子と何かをセットで渡す事になるのだろうか。それはいったい何歳ごろから、なのだろう。
「雪ちゃん、その桜トリュフと、こっちの抹茶チョコを交換しない??」
「いいですよ。桜2個と抹茶3個のトレードでどうでしょうか」
うーん。悩むなぁ。でもまあ、それでいいや。
という感じで。春奈も雪奈も、お菓子の食べ方を検討しているところだった。味と量、どうトレードしたら自分にとって得になるのか、みたいな事をやっているけど。雰囲気的には雪奈は量を重視、春奈はどちらかと言えば味の好みを重視しているように見えた。
「ホワイトデーの時は、『女子で良かったなあ』と思うよね。そのうち元手に対して『3倍返し』とかも期待できるみたいだし」
「上手に投資できる雰囲気があれば、いいですよね」
元手とか、投資とか。そういう言葉を持ち込んで欲しくないんだけどなー。
「でもなぁ。うーん、どっちが得なんだろ」
「桜と抹茶ですか??」
「じゃなくて。男の子と女の子、どっちが得なのかなー、と思ってさ」
「ほおー」
春奈はピンク色のチョコを指でつまむと、少しだけかじり、雪奈は薄緑色のチョコを口に放り込んで、口をモゴモゴと動かしている。食べるのは雪奈の方が早そうだ。
「力は男子の方が強いし、足も速いよね。でもオシャレして映えるのは女子の方だしね。大人になると、もっと色々ありそうだし。どっちが得なのかなーって。バレンタインとホワイトデーだと、女子の方が得なのは分かるんだけど」
「……それは難しい問題ですね」
春奈は少しずつチョコをかじっている。雪奈は次に食べるチョコを選んでいた。やっぱり雪奈の方が消費スピードが速い。
「やっぱり難しいかな??」
「共通の話題であれば、『 どっちが利益率が高いか 』みたいな感じで比較もできますが、男女それぞれ別の話題であれば、もう単純に比較できません。『 得な事 』に関してもそうですが、『 面倒な事 』となると、もう比較のしようがありませんよ。要領のいい人、そうでない人でも、だいぶ違いますしね」
「面倒な事、かぁ……」
「仮に、ワタシ達が全員、ハタチくらいの大人だったとします」
「ふんふん」
「お兄ちゃんが庭先で、上半身ハダカで下は短パン一枚の恰好で、缶ビールを飲みながらバーベキューをしていたとしても、前の道を通りかかる人は『いいなぁ』とか思いつつも、チラ見する程度で済むでしょう」
「お兄ちゃん、だらしない恰好だなぁ」
例え話の中の、想像上の僕がディスられていた。
「しかしワタシが上半身ハダカで下はパンツ一枚の恰好で、庭先で缶ビールを飲みながら焼き鳥を焼いて食べていたとしたら、前の道に見物人が集まってくるかもしれません」
「女の子がそんな恰好して外に出ちゃダメでしょ!!上着くらい着なきゃダメ!!お兄ちゃんのマネしなくていいから!!」
ラフすぎる恰好で庭先に出ていたのは雪奈なのに、僕がディスられる流れになっていた。もちろん想像の中の話なんだけど。
「これが一例です」
「うーん、女子って面倒くさいのかなぁ」
「女子が得な事もありますよ。現代だと、女性客を積極的に取り込むために、女性だけを割り引きする『レディースデー』というのを映画館や旅館とかで採用している所が多いと聞きますが、メンズデー、というのはあまり聞きません。商売的な優遇措置、という事に関して言えば、女性の方が有利なのかも。現代日本に限っての事かも知れませんが」
「レディースデー、いいね!!」
メンズデーって、ホントにないの??なんで??あれなの??ひな祭りは女子のものだけど、子供の日は男女兼用みたいな感じのヤツ。そういう事なの??そういえば、今年のひな祭りの時も、僕と父さんは、お客様というかオマケ扱いな感じだった気がする。
「まあ、カンタンには比較できません。昔だったら女性の社会進出率が低かった事もあり、女性の権限が大きくありませんでした。まあ、ここでいう『社会』というのは、もともと『男社会のナワバリ』だった部分ですから、当然と言えば当然なのですが。現代では男社会が女性に侵食されている、というのが正しい見かたなんじゃないですかね。社会での女性の権利をもっと認めろ、とかいう話が出てきたのはウーマンリブとか言い出されて以降の話ですし。まあ『男社会に女性が進出している』ので、『女性がどんどん男らしくなっている』という事なのでしょうけれど」
「えぇー」
「『女のナワバリの女社会』ってのも昔からあるんですけど、規模が縮小されたり、地域や家庭によっては女社会そのものが消滅しちゃってるみたいですし」
またネット知識??みたいな事を雪奈が言っている。
「近年だと、住んでる環境次第では隣近所の付き合いも少ないですし、両親と同居している人も減ってますよね。結果、子育てで新米奥さんが疲れちゃったとしても、手伝ってくれる同居の両親も、自分の子供といっしょに面倒みてくれる隣りの奥さん友達もいない、なんて事になって。全部自分達でやらなきゃならないもんだから、育児休暇を取ってもらって、旦那さんに手伝ってもらわないといけないんでしょう??下手すりゃ育児ノイローゼで旦那さんとケンカになって、大モメにモメるとか。イヤな話です」
「そうなの??」
春奈が母さんに振り返る。そうだったんだろうか。
「我が家の場合は、それほど面倒でもなかったわね。大樹が小さい頃は、お父さんの実家へお世話になって、おじいちゃん達に手伝ってもらっていたし。春奈が生まれたばかりの頃は、おばあちゃんが手伝いに来てくれてたから」
「ウチはうまくやってますね。お姑さんと仲がいいのは良い事です」
あと、雪奈は夜泣きとか全然しなかったから、すごく手間がかからなかったらしい。そういう事だった。
「あと、女性で面倒くさいのは……えーとほら、化粧とか。美肌スキンケアとかも。化粧はともかくスキンケア関係は、そろそろ、お姉ちゃんも気にした方がいいかも知れません」
「そうなの??」
「色白でシミ一つない肌、というのは女性の武器ですよ」
「おお――」
「昔から、『 色の白いは七難隠す 』とか言いましてね。色白の美人だったら、多少の問題点は目をつぶってくれるのが男性というモノなのです。美人だったら性格が多少悪かろうと、大抵の事は許されるのです。そういうモノなんですよ。まずは色白美人を目指しましょう」
「おお――――!!」
「色白美人の女子大生だったら下僕を複数抱えるのも、お茶の子さいさい。現代風に言うと……逆ハーレム??でしたっけ??悪役令嬢……は少し違いますか。とにかく色白美人に対しては、男を中心とした世間が甘いのは、今も昔も大して変わりません。美人は女王様でも許されるのです。ガングロヤマンバが好きな人とかは例外という事で」
「こないだ言ってたヤツだ!!あたしも逆ハーレム目指す!!」
「「それは、やめなさい」」
母さん達がツッコミを入れていた。雪奈の言動には少しだけ注意しておかないと。そんな会話をしながら、少し遅いオヤツの時間は過ぎて。夕ご飯が食べられなくなるから、チョコはまた明日にしなさい、と言われる妹達だった。
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いつもの山村家の、食事後のまったりタイム。お茶を飲みながら、今日の学校の話なんかをしていると。雪奈がふと、思い出したように。
「お姉ちゃん、ご飯の前に話していた『女と男で、どっちが得か』という話で、ちょっと思い出した話があるのですが」
「うん」
「テイレシアス(Teiresias)という、ギリシャ神話の登場人物がいましてね」
「ふんふん」
「この人、ひょんな事からリアルな性転換をする事になりまして。成人男性から成人女性へと姿を変え、何年か過ごした後にまた成人男性へと戻ったのです。そういうお話があります。ちなみにギリシャ神話だと、いちばんエライ神様の大神ゼウスが、神通力で自在に色々な動物に変身したり、神様が人や妖精の願いを聞き入れて、人間を色んな形に変身させたりするエピソードが時々出てくるので、変身そのものは不思議ではない世界です」
「へえー」
「このテイレシアスという方ですが、本人の好奇心とか見た目の良さとか何とか色々とあったんでしょうが、男性的な『 経験 』は以前からあったのでしょうが、『 女性的な経験 』も性転換中に、充分に経験したようでしてね??子供はいなかったみたいですが」
「ふーん????」
「大神ゼウスと、その妻ヘラとに『男と女、どっちが良かったか』と聞かれたところ、『 女の方がずっとずっと良かった 』と答えたという事です」
「へえー。女の人の方が良かったんだ」
「「雪奈ストップ」」
父さんと母さんから、素早くストップがかかった。何か問題があったらしい。
「9倍ぐらいだそうです」
「ストップストップ」「別の話にしなさい」
あまり掘り下げてはいけない話らしい。それにしても9倍か。神話時代のギリシャでは女性の方が優遇される社会だったんだろうか??男性の基準がよく分からないけれど、男性の9倍だったら、女性はお得だと思う。
「えーと、それじゃあ……ワタシもクラスの子に時々聞かれるネタなのですが、『将来何になりたいか』という話題が、お姉ちゃんのクラスで持ち上がったんでしたっけ。ほら、授業でも二、三年に一回くらいは授業の作文ネタになったりするアレです。高学年だと『卒業文集に綴じて将来の黒歴史ネタにして将来悶絶させてやるから、いっちょう書いてみなさい』と必ず書かされる、例のネタです。人によっては10年後くらいに発見した文集を、衝動的に焼却処分にしてしまったり、地面に穴を掘って埋めてしまったりする例のヤツです。該当ページを破り取ってしまったりとか」
「うぉお――――」「あぁあ――――」
父さんと母さんが額に手を上げて、ちょっと痛そうな声を上げていた。小学生の頃を思い出しているのだろうか。それにしては痛そうな感じだけど。少し顔をしかめているし。
「えぇえ――?!そんな事する人いるの?!」
「いるんですよ、お姉ちゃん。これも個人差が大きいですけどね」
春奈が驚きの声を上げ、父さんと母さんにチラリと視線を飛ばして、すぐに戻した。
「学校によっては低学年の時と卒業前と、2回くらい書かされて卒業文集に両方とも綴じられるネタだと思いますけど、たいていの場合は文書の保管の関係もあって、卒業前の1回だけですよね。お兄ちゃんは、もう書きましたか??」
「いや、僕はまだ書いてないなぁ。もうすぐ書くことになると思うけど……」
今のうちから覚悟しておいてください、と言う雪奈。うーん、将来、何になりたいか、というネタか……特にイメージが沸かないなあ。
「雪ちゃんはどう??なりたい職業とかは??」
「家から通える地元の中小企業にとりあえず就職して貯金を作り、お兄ちゃんが嫁さんをもらう事を考える頃には家を出ていけるようにするのが順当、というところじゃないでしょうか」
「えぇー」
「散財せずに貯金をして財産を作り、年を取りすぎないうちに結婚をして家庭を持ち、地価が安く治安の良い地域でマイホームを構え安心を得て、家族で無理の無い生活を送る。御近所様とも軋轢を起こさない、平凡と言える人生を望みます。そしてこれは、言うほどカンタンな事でも無いのです」
「雪ちゃんだったら、何かこう『でっかい事』とか出来そうな気がするけど」
「ときどき冒険したい気分になる事は否定しませんが、人生そのものは穏やかに過ごしていく事を望みます。平和がいちばん。ハイリスクハイリターンよりは、ノーリスクローリターンな生活を送りたいですね」
そういうものかなー。僕も雪奈だったら、何かやらかしつつ冒険の日々を送っても不思議じゃない気がするんだけど。でも逆に言うと、トラブルに巻き込まれたりトラブルを起こしたりする人間の場合、何事もなく平和に過ごす事の方が難しいとか、そういう事にもなるんだろうか??
「お姉ちゃん、変な男に引っかかっちゃダメですよ。特に将来の展望も実績も無いのに『俺は将来、とにかくビッグな男になる!!』みたいな妄言を吐く男なんぞ、いちばん関わってはいけないヤツです。あと基本的に、【 飲む・打つ・買う 】を趣味にしてるような男も避けるべきです。家庭が崩壊します」
「のむ・うつ・かう、って??何をするの??」
「飲むのは酒。大酒飲みの事です。打つのは博打。ギャンブル狂いの事です。買うのは女」
「人身売買?!それはヤバいよ!!」
「いえ、この場合の『 買う 』っていうのは春」
雪奈ちょっと来なさい。ひょえー。
と、雪奈が母さんに連行されていた。何かちょっとまずい方向に話が進んだらしい。
とにかく今日も平和な家庭の一幕だったと、そう思う。僕は将来、どんな人生を送る事になるんだろう。仕事は何をするのかな。すごくやりたい事も思いつかないし、雪奈を見てたり話を聞いてたりすると、平和って大事なんだなー、とか思ったりするし。
兄妹でやってる動画配信の副業で一発当たらないかな、などと。よくありがちな事を考えてしまう僕なのだった。将来の展望は、まだ、無い。
よくある『男子と女子、どっちが得なの??』という話題に流れた話でした。まあ9倍とかいうのも主観の話らしいので、現代医学でも数値化するのは難しい(というか本気で研究しているのは米国の大学教授くらいなものだと思っています)らしいですけれど。ちょっとオトナな話題が混ざってくる事がある、15禁タグをつけられている当作品なのでした。
当作品は子供の日常風景を、まったりと描く、ゆるーい日常系フィクションです。寛容な気持ちで、ゆっくりとお楽しみ下さると幸いです。




