27 サングラスとスーパーカー
もう持ってるでしょ、と言われつつも。お気に入りの商品を手に取る。
父さんの実家への帰省という年中行事を終えた僕たちは、久しぶりに家に帰ってくると熱のこもった家のあちこちを見て回ったり、手製の自動給水装置の水がほとんどなくなって干からびる寸前だったキュウリに水をやったり、太り過ぎたキュウリを急いで収穫したりと(太いキュウリは手巻き寿司のネタになる予定だ)、ひとしきりバタバタしてから、少しばかりの息抜きにと、近くの大型ショッピングモールへと買い物に出かけた。
「100均は、どんどん進化してますねえ」
「ホントだね。安く買おうとしたら100円ショップだよねー」
「おおっと、それは違いますよ、お姉ちゃん。専門用品だったら、ホームセンターとかで買ったほうが安い事が多いのです。まとめ売りの品物とかはとくに。園芸用品なんか、ホームセンターの方が安くて性能のいいのが売ってますよ。キュウリ用ネットとか」
「へー。それは知らなかったよ」
ちなみに雪奈と春奈が話しているのは、100円ショップの店内だ。そういう話は、少し声を小さくして話して欲しいと思う。
ただ今、ショッピングモールの一角にある100円ショップに寄っている所だ。僕もそうだけど、雪奈や春奈も100円ショップが好きだ。手頃な価格で色々と面白いものが置いてあるのが楽しい。だからといって、欲しいだけ買えるわけじゃないんだけど。
「……これ、いいですねぇ」
「サングラスかー。その形がいいの??」
雪奈が黒くてシブい感じのサングラスを手に取っている。
「サングラスといったら、ティアドロップ型です。映画やTVに出てくるイケメンのお兄さんも美人のお姉さんも、シブいオジサマもみんな、この形のサングラスをかけていたものです。あと、やっぱりサングラス姿だけならボスよりも団長の方がカッコいいですよ」
「そうなんだ。団長ってよく分かんないけど」
雪奈が、手に持っていたサングラスをかける。妙に似合っていた。
「ハルさん!!事件だ、現場へ向かうぞ!!」
「オーケー、団長!!」
などと、雪奈と春奈が何かのゴッコ遊び的なものをやっていた。……警察組織か何かかな。何かの刑事ドラマでも見たんだろうか、ネットで。
「ねーねー、お兄ちゃんも仲間にする??」
「お兄ちゃんはやめときましょう。若い男性の場合、かなりの率でじゅんしします」
ろくでもない刑事ドラマみたいだった。
「お父さーん。これ買ってぇー」
「ひとつだけね」
雪奈団長は父さんにサングラスを買ってもらっていた。
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「たらおー。かつおー。わかめー。そしてなーみへぃ」
「雪ちゃん、なんなのその歌」
「ドラマのテーマソングに、かってに歌詞をつけたものです。このあと、さざ恵、マス男、ノリ助とつづきます」
「どっかで聞いた事ある単語だなぁ」
買い物の終わった僕達は、今は父さんの運転する車で帰宅中だ。その車内で、雪奈団長は買ってもらったサングラスをかけて何か変な歌を歌っていた。『勝手な歌詞』の部分の単語は僕も聞いた事がある気がするけど、何だったの微妙に思い出せない。
「例の、若い男の刑事が死んじゃうやつ??」
「はい。軍団系の刑事ドラマでは、たいてい若い男はじゅんしします。そして女性の刑事はだれも死なないのがルールです。どこかへ異動します」
どうも若い男の扱いがヒドイ刑事ドラマのようだった。
「話がマンネリになると、誰かをじゅんしさせて、お涙ちょうだい。若い女を混ぜてテコ入れ。あきたら交代する。長寿番組のドラマでは、よくある展開ですよ。でもそれがいいのですよねー」
「テレビ番組は非情だなー」
「まあ数年とか、10年以上とか続けようとすると、ドラマ的には仕方のない事ですよ。もっとも今どきのドラマは、いいとこ2クールもやれば長い方ですし。何年も続くドラマなんて、めったに出て来ません。視聴者があきっぽくなったというのもあるでしょうが、ネットの普及などで、余暇の選択肢が増えたのも原因なのかも。今どきは、ヒマさえあればスマホ触ってますしね。老若男女とわず」
「だよねー」
そういえば最近は、刑事ドラマって見なくなりましたねぇ。などと言う雪奈だった。
「お兄ちゃんは、将来は刑事とかになりたいと思いますか??銃が撃てますよ」
「この流れで??」
僕は仕事中に死にたくはないんだけど。
「警察官は地方公務員ですよ??公立の学校の先生と同じで日の丸親方です。めったな事ではクビになりません。安定した職業として、女の子にアピールできるかも。まあ高給取りになるのは難しいかもしれませんが」
「ちょっと考えさせてよ……」
「学校の先生と、お巡りさんって仲間だったんだ……」
春奈が少し驚いていた。まあ、僕も知らなかったんだけど。
「はい。詳しくは知りませんが、かなり階級が上がらないと、国家公務員にはならないはずです。……ところでお兄ちゃんは、自分がしょうらいクルマに乗るとしたら、どんなのに乗りたいと思いますか??やっぱりスーパーカーでしょうか??男の子的に」
「公務員でスーパーカーは無いと思うよ??」
どう考えても学校の先生や警察官のお給料で、スーパーカーは無理があると思う。僕はそんなにクルマに詳しくないけれど、外国の有名スポーツカーとかなら、1000万円とか、2000万円とかするんじゃないだろうか。ちょっと買えないと思うよ。
「それを言うなら、雪奈はどうなの??スポーツカーとか、雪奈なら似合いそうだけど」
「あ、それはあたしも思う!!雪ちゃんがサングラスかけてスポーツカーとか似合いそう!!何か乗りたいクルマとかある??ちょっとカッコいいやつで!!」
雪奈に話題を振り返したところ、春奈も話に乗ってきた。確かにオープンカーにサングラスかけた雪奈とか、なんか似合いそうな気がする。かなり適当なイメージだけど。
「うーん……しゅみで選んでもいい、という……仮定の話なら……初期のダッツンZとか」
「「なにそれ」」
いきなり知らないのきた。
「ちょっと昔の国産スポーツカーですよ。当時のポルポルみたいなカタチをしているやつです。色は白か金色がいいですね」
「ぽるぽる??」
「フランスの有名メーカーですよ。戦時中は戦車のエンジンも作ってました」
「へー。他には何かある??」
「こっちも古いスポーツカーですが、トヨダ2000GTとか。やっぱり色は白がいいですね。あれカッコいいですよ」
「それも知らないなぁ……ちなみに、それっていくらくらい??」
「バブル期には良い程度のやつがオークションで1億円くらいしたらしいんですが、今なら5000万円しないんじゃないですかねぇ」
「「たかい」」
予想外に高いのきた。ちょっとした新品のスーパーカー並みというか、もっと高いかもしれない。プレミアつきのクラシックカーというやつ、なのかな。
「あとは……まだ見ない未来のクルマ、とか」
「おお!!どんな感じのクルマ??」
変わったネタに春奈がくいついていた。今度は未来的なクルマかあ。
「AI装備で、ドライバーと会話できるやつです」
「おおー!!未来っぽい!!」
「もちろん自律走行できます。無線で呼べば来てくれます」
「それいいね!!あたしも欲しいなー」
「車内にはテレビゲームが完備されていて、ヒマつぶしもできます」
「いたれりつくせり!!」
「分子結合殻と呼ばれるナゾの装甲で覆われていて、厚さ60センチのコンクリートを体当たりでぶち破りながらもキズひとつつかず、最高速度は時速300マイル(約500㎞)出す事ができて、ターボブーストというナゾの装置でジャンプ可能で、ロケット弾とレーダー、各種分析装置とビデオ録画装置、緊急脱出装置もついています」
「それ本当にクルマ?!」
クルマはクルマでも、戦車とか装甲車の間違いじゃないんだろうか。
「昔の海外ドラマで出てきたクルマなんですよ。でも現代のギジュツで、機能のほとんどは再現できるんですよね……時代は進歩したものです。分子結合殻とターボブーストだけじゃないですかね、足りないのは」
「そうなんだ……未来はすぐそこなんだなぁ……」
その分子結合殻??っていうのが、SF世界の技術だと思うけどなあ。
「まあ、ドラマで出てきたクルマで、再現できて乗れそうなのは、例の警察ドラマに出てきたクルマですかね。初期のダッツンZです」
「パトカーじゃないの??」
「ふくめんパトカーなので、ライトをつけなきゃ車検を通るていどの改造と、とそうで再現できますよ。ちょっと手に入れるのがむずかしいパーツもありますけど」
「へー。どんなの??」
「小型の機関砲です。口径が小さいので、マシンガンかもしれませんが」
「それ絶対にダメなやつだよ!!」
でも団長が乗ってたんですよー。と、少し残念そうな顔をする雪奈だったけど。法的にまずいものを入手してクルマを改造とかしないで欲しいと思う。本気で思う。
「ガルウイングの初期型Zとかって、今いくらするんですかねぇ」
「雪奈が大人になるころには、また変わってるよ」
僕の言葉に、それもそうですね、と言う雪奈だった。そんな風におしゃべりをする僕らの乗る車が、とある外車ディーラーの前を通りかかる。ショーウインドーの向こうに、派手で鋭角ラインのスーパーカーが飾られていた。ドアがオープン状態でディスプレイされている。
「あ、あれでしょ雪ちゃん!!ガルウイングのドア!!」
「お姉ちゃん、あれは『シザースドア』です。ガルウイングというのは『カモメの翼』の事ですから、ちょっとちがいます。カモメの翼のように開くか、ハサミのように開くかなので、イメージすれば分かりますよ」
と、軽くスポーツカーの変形ドアについて説明する雪奈だったが。
「まあ初心者は、中古の安いクルマに乗るべきですね。最初は電柱や壁が向こうの方から寄ってくるものです。新車をスリキズだらけにしたら、やってられませんよ。ミニカー感覚でスーパーカーを並べる石油王じゃないんですから」
と、体験談みたいな事を言って締めくくっていた。……壁や電柱が向こうの方から寄ってくる、というのは……たぶん、うっかりぶつける、という意味だろうけど。ぶつけちゃう人ってのは、たとえ相手が動かない無機物でも、そういう言い訳をするものなのかな。
僕は将来、運転免許を取ってクルマを持つ事になっても、常に安全運転を心がけていこう……と、そう思いつつ雪奈をチラ見してから、辺りの景色に目を向けた。クルマは武器でも凶器でもなく、安全な乗り物でありたいと、そう思うから。
間違っても、それがモデルガンだとしてもマシンガンとかを取り付けようと思ってはいけない。将来的に雪奈がクルマに乗るようになったら、変な改造をしないように注意しないといけないな、とも思ったりした、そんな僕だった。
まあ団長と言えど例外ではないのですが。
スーパーカーの変形ドアとか、子供なら一度は『すごい!!』と口にしてしまうものかと。
最近はスーパーカーでなくとも空気抵抗の小さいフォルムの車が増えてきましたね。単に燃費向上の関係で。未来のクルマはどうなるんでしょうか。やっぱり空飛んだりするんですかねー。




