第5の街
大変遅れまして申し訳ありません。
六月いっぱい忙しい見込みでして……(白目)
可能な限り執筆しますが、もう少しお待ちを……。
「力がみなぎる」
『いきなりなんや』
『そうか〜』
『元気そうでなにより』
『まーあんだけ寝てればな』
『三日間寝てて寝言のひとつも言わないのはずるい』
『床ずれとか大丈夫だった?』
『俺たちは虚無を見ていたんだが?』
「身体はね〜、平気だよ。二日三日寝っぱなしなくらいでどうこうなったりしないって。私の身体はそんなヤワじゃないからねぇ」
私の身体はシンプルに強いから、ちょっとやそっとの摩擦で皮膚が弱ることもなければ、同じ姿勢でいることで血流が滞ることもない。
寝返りをしないのは、する必要がないからってだけだ。
「とりあえず今日は一応病み上がりってことで、緩くやってこー。第5の街を見て回りたいんだよね。他にも用事あるし」
『うい』
『どんな街だったっけ……』
『街の探索なんていつぶりですかね』
『俺たちはそのグリフィスとやらを何も知らない』
『マジでどこかわからん』
「第5の街だよ、第5の街。あー、そういえばこのゲームをあんまり知らない人も今は沢山いるんだもんね」
流石に月曜と火曜の配信ほどじゃないけど、週末だからか今日もリスナーの数は多い。配信を始めたばかりなのにもう15万人くらいいる。
平日に見にこられなかった人が休日に見に来るってこともあるだろうし、そうなるとこのゲームのことを知らない人っていうのは変わらず出てくるものだ。
と、まあそれはこの先何度も繰り返されることだからいいとして。
グリフィスって街に関しては、私も古参リスナーも初見リスナーとほとんど変わらないくらい知らないんだよね。
「今は始まりの街だから要するに第1の街にいるんだけど、街道をまっすぐ行ってダンジョンを踏破すると第2の街、第3の街って感じで繋がっていくんだ。その五つ目だから第5の街ってこと」
『なるほどです』
『そういえば前は寄り道しただけだったか』
『最近はほとんど鬼の隠れ里だったもんな』
『鬼の里に行くためのサブクエをすっ飛ばしたという』
「そーなんだよねぇ。メグルさんって人が鬼人の里まで直接案内してくれたから、キーアイテムを手に入れるクエストすっ飛ばしちゃって、翼のワープ先に登録するだけでスルーしちゃったの。だから今回はちゃんと街を見て回りたいなって思ってさ。それと、今日は二人会う予定の人がいるからそれもね」
『リンネか?』
『↑リンネは今日は配信休みの日やで。昨日告知してた』
『スクナの交友関係がよくわからんから濁されるとさっぱりだわ』
『HEROES所属なのにHEROESとの絡みがないよね』
『すうぱあとかトーカとかは?』
「スーちゃんは旅行でトーカちゃんはテスト期間だって。トーカちゃんは大学生だからねぇ……そういえばスーちゃんは中学生なのに学校行ってないな……勉強もしてないような……」
『わーくにには義務教育って言葉があってぇ……』
『サラッととんでもねぇカミングアウトしてて草』
『女子中学生を手篭めにするな』
『今どきは学校行かない子もぼちぼちいますよ』
『ナナも中卒なのにもっと下とは』
『実はHEROESって闇深くない?』
「あー……はっはっは」
突っ込もうかと思ったけど、心当たりしかなくて笑って誤魔化す。
リンちゃんは高卒認定。そして私は中卒。スーちゃんはそもそも学校に通ってない。多分名義上はどこかの小学校と中学校を卒業した扱いにはなるんだろう。
リンちゃんが後ろ盾である時点で、スーちゃんがそういう煩わしいことに時間を使う必要もなくなってる。
私はリンちゃんと一緒だったから学校も楽しめたけど、スーちゃんはそうじゃないしね。
とはいえそれが「普通」じゃないのは分かってるし、「普通」を否定する理由もない。
何よりスーちゃんの経歴は、スーちゃん自身に非はなくとも真っ黒もいいところだからね。
そんなこんなで配信を始めつつ、雑談を続けるだけではいつまでたっても話が進まないからと「翼」を取り出して、さっさとグリフィスへと移動することにした。
一瞬で景色が変わり、赤錆の目立つ街の風景が目に入ってくる。土曜日だからかそこそこプレイヤーは多くいて、他のプレイヤーの視線も結構突き刺さるのを感じた。
「ほい到着。ほんとこのアイテム便利だよねぇ」
『ちょっと高いねんな』
『初心者には手が出ないんじゃよ』
「あー、それはそうかも。3万くらいするんだっけね」
『最近値下げして2万イリスになったんですよ』
『スクナけっこー金持ちだからな』
『成金スクナ』
「2万イリスじゃ初心者には手が出ないね〜」
簡単に他の人里に移動することができるとはいえ、2万イリスは決して安い金額じゃない。
そのくらいの金額をぽんと出せるようになるのはフィーアスとか、それこそグリフィスに辿り着けるような中堅プレイヤーになってからだ。
ただ、確かダンジョンから抜け出すための別のアイテムが販売されたとか、一番最後に寄った人里まで帰還できるアイテム(ダンジョンの外でしか使えないらしい)なんかも別に販売されてるんだとか。
いつの間にか移動面での便利度が飛躍的に上がっててびっくりするけど、プレイヤーの時間が有限である以上そういう時短ツールが増えてくのは当然なのかも。
「鉱業の街なんだよね、グリフィスは。パッと見大きな鉱山はないんだけど、街の中にある二つのダンジョンの中に超巨大な地下鉱床があるんだってさ。だから鍛冶師を含めて鉱石の加工技師が他の街より比較的多いのと、大規模な共同工房があるらしいよ」
数多の初心者を収容できる巨大な都市、始まりの街。
多様な自然に囲まれ、始まりの街からの旅人の憩いの場となっているデュアリス。
湖上に建つ要塞都市であり、まさに水の都とでも言うべきトリリア。
この大陸を大きく支配する帝国の首都であり、始まりの街に匹敵するサイズであるが故に光と闇を孕む帝都フィーアス。
そしてここグリフィスの特産こそが、大規模な地下鉱山。
この大陸に流通するあらゆる鉱物の五割を産出するという、一大鉱業都市だった。
『はぇ〜』
『意外と調べてんだね』
『何となくそんな雰囲気あるわね』
『街中にダンジョンあるって怖いですね』
『スタンピード起きそう』
「とはいえ実力のある鍛冶屋が多いのかって聞かれればそうでもなくて、詐欺まがいの粗悪品を売ってる店も多いんだって。普通なら掘り出し物を拾うには目利きがいるのかもだけど、ゲームだとステータス見たら一発で分かりそうだよね」
「それがそうでもないんですよねぇ……」
「うぉぅ……おはよ、はるる。そろそろ正面から来てくれてもいいんだよ?」
リスナーにグリフィスの説明をしながら目的地に向かっていると、目的だったはるるがいつの間にか後ろに居た。
気を抜いてたとはいえ、相変わらず気配を消して懐に入り込むのが上手だ。そのスキルに関しては美春さん並かもしれない。
「おはようございますぅ……約束通り案内に来ましたよぉ……」
「助かるよ。あ、月曜日に見てた人は知ってるかもだけど、これは私の武器を作ってくれてる鍛冶師のはるるね」
「物みたいな言い方はやめて欲しいですねぇ……どうも皆さん、鍛冶師のはるるですぅ……」
はるるとは月曜日にも会ったばかりだけど、彼女を知らない人もまだまだ多い。
はるるもそこのところはわかっているからか、配信用の水晶に向けてにへっと笑いながらゆらゆらを手を振っていた。
「とりあえず私の工房に行きましょうかぁ……子猫丸も後から来ますからねぇ……」
「あ、そうなんだ。おっけー、案内よろしく」
今日グリフィスに来た最大の目的は探索ではなく、はるると子猫丸さんに会うことだ。
はるるに関しては武器の修理と新しい武器の補充を、子猫丸に関してはそもそも月狼討伐後に一度も会っていなくて、色々と素材を融通したり防具の相談をしたかったからだ。
「そういえばさっきの、目利き云々の話の続きだけど」
「そんなに難しい話じゃありませんよぉ……このゲームには《偽装》スキルってものがありましてぇ……《看破》スキルを持っていないとステータスを誤魔化されることがあるんですぅ……」
「へぇ〜、なんかロウとか持ってそうだね」
「ご明察ですねぇ……彼女は『隠す』系統のスキルを多数持ってますよぉ……」
相変わらずダボっとしたボロ布を纏いながらふらふらと歩くはるるに付いていきながら「目利き」の話を膨らませる中で、ふとロウのことを思い出した。
後から聞いた話だけど、あの時のロウは50ものレベルを代価にデッドスキルを発動させたんだって。
殺人プレイヤーであるロウは、デスをするか他プレイヤーに殺されるかNPCに捕まるか、どのルートを通っても基本的には監獄送りだ。
このゲームでは殺人されたところでほとんど失うものは無いけど、それでもロウはそれなりの恨みを買っているプレイヤーでもある。
レベルが低い今の状態のロウを狙ってるプレイヤーも少なくはない。
まあ、ロウのことは心配しなくてもいいや。強いし、狡猾だもん。易々とはやられないだろうしね。
ああ見えてロウはとても綺麗な殺人術を振るう。
対面で切り合う技術と、出し抜いて殺す技術は違う。ロウは前者もそこそこ鍛えてるけど、後者が特に巧い。
知らないと出し抜かれる技術が結構あるんだよね。
多分それなりに、人を殺すための術を勉強してる。怜さんみたいに趣味で殺人術を追求してるタイプなんだ。
「正規の武器店に置いてあるものやプレイヤーの販売品の偽装を疑う必要はないですけどぉ……掘り出し物を探す時は気をつけた方がいいですねぇ……《看破》スキルはレアなのでなかなか手に入るものでもありませんしねぇ……」
「まあ、プレイヤーの製作品が詐欺だったら信用なんて吹っ飛ぶしね」
「そういうことですねぇ……とはいえ《偽装》は逆に弱く見せることもできますからぁ……有名な鍛冶師が遊び半分で偽装品を闇市に流すこともあるんですよぉ……」
「本物の掘り出し物もあるわけね。じゃなきゃワンチャン狙って買ったりしないか。後でリスナーのみんなにアンケートで目利きでもしてもらおっかな」
『突然こっちに振るな』
『我らゲームの外ぞ?』
『看破スキルが必要なんじゃないんですか????』
『任せろ、粗悪品掴ませたるで!』
「相変わらず仲良しですねぇ……着きましたよぉ……」
そんなこんなで連れてこられたのは、ドーム球場一個分はあるんじゃないかと思えるほど巨大な共同工房……の脇道からしばらく進んだ先にある、石造りの一軒家。
デュアリスにあった工房と見た目はそんなに変わらない。
ただ、溢れてくる熱気は桁違いに強い。
一軒家を改造して鍛造用の設備を併設したと言った感じがあった前の工房とは違う。
明確に、鍛冶場として建てられた工房なのがわかった。
「おぉ……デュアリスのに比べてなんというか、こう、本格的だね?」
「鍛冶をする上で工房のぉ……特に炎の質は重要ですからねぇ……」
重たそうな石の扉を開けて中に入っていくはるるの後を追うと、轟々と燃え盛る黒い炎が目に入る。
炎の質が大切だとか言ってたけど、あそこまで行くともう炎の質というか、種類が違うんじゃないのかな。
「雑談は後に回すとしてぇ……《魂》の使い道について話しましょうかぁ……」
「うん、そうだね」
不思議そうに黒炎を見つめている私に気付いたのか、はるるはぺちぺちと手を叩いてから話を本題に引き戻した。





