思わぬ再会
「じゃーね、明日も来るからね」
「キュルゥ」
「ん、いい子いい子」
『さよなら水竜ちゃん、また逢う日まで』
『明日定期』
『見慣れると愛くるしかったな』
『称号でNPCの好感度を上げる効果って馬鹿にできんのやね』
時刻は6時ちょっと前くらい。
遊び疲れたのか、満足げではあるものの少し眠そうな顔で湖に帰っていった水竜ちゃんを見送った私は、始まりの街に戻ってきた。
すっかり日も暮れて、街全体が明るく照らされている。ここに来るのは拘留されてた時以来だ。
「せいぜい2週間だけど、ここに来るのも久しぶりに感じちゃうな〜」
『夜の街は初めてなんちゃう?』
『始まりの街も鯖分けのおかげで随分落ち着いたな』
『うーんいいね』
『スクナもすっかりカンストプレイヤーさんやからなぁ』
『そこらのプレイヤー殴ったら即死しちゃうね』
「なんでそんな怖いこと考えるの?」
確かに始まりの街にそんなに強いプレイヤーはいないだろうから、軽くデコピンしただけでも死んじゃう可能性はあるけどさ。
「この後どうしよーね〜」
『決まっとらんのかい』
『森に行くんじゃないの?』
「いや〜、一応配信予定はあと2時間取ってるけど、よく考えると果ての森って結構遠いんだよね。往復だけで時間なくなっちゃうくらい」
そう。
名前の通り地図上の世界の果てにある果ての森は、始まりの街から徒歩で1時間はかかる場所にある。
そりゃあもちろん走っていってもいいんだけど、ある程度の速度を超えると配信水晶くんが酔わないように気を利かせて少し引きの構図を取るんだよね。戦闘中と同じ感じで。
そうするとなんかこう、配信としてはすごいシュールな感じになるんだ。イメージとしては年末年始の駅伝をテレビで見てるような感じかな。
「仮に果ての森に着いたとしても『果ての祠』はサービス開始から2ヶ月くらい経った今でも一度も見つかってないらしいし、私の感覚があってもパッとは見つからない……というか、多分クエストとかじゃないと行けないタイプの場所っぽいんだよね〜。直接森に行っても何の成果も出せないんじゃないかと思うんだ」
『なるほど』
『じゃあクエスト探そ』
『割と初期にあっさり脱出してたし改めて始まりの街を散策して欲しい感』
『今日のリスナーはWLO初見勢も多いしここは案件と思ってひとつ観光ガイドを』
『観光ガイド(ほぼ初見)』
『赤狼との戦いも遠い昔に感じるな』
「始まりの街の散策かぁ……それもいいかもね。明るくて綺麗だし」
言われてみると確かに、この街の思い出ってメインストリートのポーション屋さんとスキルショップと武具を買ったデパートみたいなところしか無いかも。
「じゃあ行こうか……ん?」
リスナーと相談して久しぶりに始まりの街を改めて散策する運びになったところで、こちらに向かって勢いよく走ってくる人の姿が見えた。
小さい身長、そして見覚えのある獣耳。
メルティとの話題でも名前が上がったばかりの剣士。
「アーちゃん!」
「応よ!」
『アーサーちゃん!?』
『相変わらずちっこいな』
『あっ、剣聖の人だ』
『スクナがアーサーさんと仲いいの羨ましい』
『げぇっ、アーサー!?』
『気付いてしまった。スクナって割と誰でもちゃん付けしないか?』
『↑リンネですらリンちゃん呼びだからな』
「初めての人のために紹介するね。この子はアーサー、このゲームで二番目に大きなクランのリーダーさんだよ」
「うむ、ワシが《円卓》のクランリーダーのアーサーじゃ。このゲームのプレイヤーで最強の剣士を自負しとる。剣を学びたい、あるいは剣が好きな者はこぞって我がクラン《円卓の騎士》に入ると良いぞ。ノルマのない気楽なクランじゃからな」
クラン《円卓の騎士》のクランリーダー・アーサー。
身長140センチくらいで、狐と狼の間の子みたいな獣耳としっぽが付いた獣人族の少女プレイヤー。
私がこれまでの人生で見た中で、彼女は間違いなく最強の剣士だ。
「ゼロノアに向かったと思ってたんだけど」
「とっくに着いとるわい。月狼戦から五日空いとるんじゃぞ。今やセフィラへの道も確立しとるし、一つ手前に着くぐらいはどうとでもなる。それに月狼戦で良き物も手に入れたからのう」
アーちゃんはそう言って、全身を見せるようにぐるっと回って見せた。
元々は西洋系の軽鎧にちょっと和の雰囲気が入ったような装備をしていたけど、今ではすっかり和装になった。
一際目を引くのは月色の剣士羽織。下地の黒い道着と相まって、とても綺麗な和装だった。下がミニスカ風になっている私の中途半端な和装とは違う、いわゆる侍の佇まいって奴だ。
「ノクターンの《魂》、防具に使ったんだね」
「うむ。本当は武器にしたかったんじゃが、お主にも見せたあの『神器開帳』はロストできる武器でないと使えんのでな」
アーちゃんが持っているエクストラレアスキル《剣聖》の秘奥義。それは私の《終式》と同じ、特級の切り札だ。
ネームド装備は耐久が無くなってもロストしない。だからその『神器開帳』を使うためには、ネームドウェポンを作る訳にもいかないってことだね。
「どうじゃ?」
「似合ってるよ」
「淡白じゃのう」
「そうかな?」
「ま、お主にそーいうのは期待しとらん。どうじゃ? お主のリスナーの反応は。突然の美少女剣士の登場で沸いとるんじゃないか?」
ドヤ顔で両腕を組むアーちゃんを配信水晶の画角に入るようにしつつ、何となく目についたコメントをピックアップしてアーちゃんに見せてみる。
『七五三みたいで可愛い』
「だってさ」
「そこまで小さくないわい!」
べシィ! とアーちゃんはどこから取りだしたのか分からない扇子を地面に叩きつけた。
『草』
『草』
『コントかよ』
『ノリいいなぁw』
『服に着られてる感はあるよな』
『これがゲーム内最高の剣士プレイヤーだなんて……』
そんなコントのようなやり取りが地味にウケたのが落ち着いたあたりで、改めてアーちゃんが来た理由を聞くことにした。
「……で、結局何しに来たの?」
「果ての祠を探すんじゃろ? ワシも付き合おうと思ってな」
「要するに暇なんだね」
「そうとも言う。なに、スクナもちょうど手持ち無沙汰になりかけとったんじゃろーが。賑やかしのひとりくらい居たってええじゃろ」
「せっかくならリンちゃんの方が良かったって言ったら怒る?」
「怒る」
「じゃあ言わないでおくね」
「もう言っとるんじゃよなぁ……」
『テンポがいい』
『相変わらず仲良いな』
『話が進まねぇぞこいつら』
『リーダー暇そうで草』
『結構周りの目引いてるよね』
『↑二人とも装備が明らかに初心者のソレじゃないからな』
『始まりの街に居るレベルでは無いからね』
『ちなリンネはさっきデスラビットの群れに狩られてたぞ』
『↑草』
「リンちゃんやられたんだ……ちなみにアーちゃんはなんか果ての祠についての噂とか聞いたことない?」
「祠自体はわからんのう。じゃが、始まりの街に関しては面白そうな情報を拾ってきたぞ」
「ほほう?」
勿体ぶった口調のアーちゃんの言葉に耳を傾ける。
私は果ての祠とそれに関連するクエストの存在についてしか調べてないから、私の知らない情報を拾ってきてくれるのは素直にありがたかった。
「南区画は比較的空き地の多い場所でな。プレイヤーやNPCがマイホームを建てるための居住地として有名なんじゃが……夜になるとソコに出るらしい」
「出るって、幽霊?」
「いや、幽霊ではない。昨日まで何も無かったはずの空き地に、突如として建造物が現れるそうじゃ。日によって建つ場所も違えば建物の種類も異なるし、建つ数も安定せん。ある日は西洋風の一軒家じゃったり、またある日は古風な日本家屋じゃったりとな」
「不思議な現象だねぇ」
「うむ。更にはその建造物、訪ねてみてもとんと反応が返ってこんのじゃと。人の住まう気配はなく、空き家としか言いようもない。……と、そんな不特定多数の幽霊建造物を毎日記録してはアップロードしとる好事家がおってな。その中にひとつ面白い建物を見つけたんじゃ」
アーちゃんが見せてくれたのは、その奇特な好事家さんがアップロードし続けているという写真のひとつ。
ソレは確かに、見覚えのあるものを写し出していた。
「これ……ノクターンと戦った禁足地のお社……!」
「そうじゃ。多少コンパクトではあるが、あの時の社に相違ない。どうじゃ、何かしら可能性はあると思わんか?」
『スクナがぶっ壊したやつ?』
『↑月狼に吹っ飛ばされたんだから悪いのは月狼の方だ』
『あの時の神社みたいなやつか』
『よく覚えてんなみんな』
『今日のリスナーは大半知らんのじゃないか』
「ああそうか……詳しくは私のチャンネルの月狼ノクターン戦の攻略動画を見てね!!」
『クッソw』
『露骨な宣伝すなー!』
『雑ゥ!』
『まあ口で説明できることでもないんだが』
『スクナがちゃんと宣伝するようになって俺嬉しいよ』
『配信初心者め』
だってそう言うしかないじゃない。
実際ノクターン戦で私が吹き飛ばされてこっそり酒呑にも会ったあのお社については、言葉で説明するより動画で見てさっきの写真と見比べてもらった方が早いしさ。
「じゃあ、とりあえず南区画に行ってみる?」
「その前に腹ごしらえじゃ! 始まりの街にはワシ、イチオシの店があるんじゃよ!」
「じゃあそうしよっか。まだ時間はあるしね」
『あっ⋯⋯(察し)』
『まずい』
『スクナァ! 逃げろォ!』
『あかんこれじゃリスナーが居なくなるぅ』
『悪 夢 の 再 来』
『アーサーイチオシはマズイですよ!?』
アーサーのおやつはバタフライマギの蛹漬け。つまりは。





