チーミング
「ナナにはそんなに詳しくシューティングゲーム界隈の事情を把握してもらう必要はないと思うので、簡潔に説明しますね」
スーちゃんはそう言って「チーミング」について説明してくれた。
チーミングとは、まあ字面の通り「チームを組む」行為を指す言葉らしい。
ただしそれはゲームシステム的に結成されるチームのことではなく、本来敵であるプレイヤーと結託して擬似的なチームを組むことを指すそうだ。
例えばバトロワ系のシューティングゲームだと自分以外全員敵なのが普通だけど、同じキャラや武器を使っているという理由で親近感が湧いて、敵同士なのについ協力プレイをしてしまうこともある。
マイナーなキャラ同士だと、それだけでなんとなく連帯感が生まれて楽しかったりする訳だ。
バトロワではないけど私も打撃武器使いの女の子がいたらちょっと嬉しくなるから、その気持ちはよくわかる。
こういうのは基本的に「馴れ合い」と呼ばれて、チーミングの中では咎められるほどでもない軽微なもの。なんなら対戦ゲームの醍醐味でもあるから、積極的に狙って遊ぶ人もいるくらいだという。
問題は、チーミングをその場限りのお遊びではなく本当に結託して実行してしまった場合に、それが「不正行為」と見なされることにある。
そもそもゼロウォーズに限った話じゃなくて、大抵の対戦ゲームにはランキングを競い合うランクマッチというものがある。
試合に勝ったり、一定以上の成果を上げるとポイントが貰えて、そのポイントが高ければ高いほどランキングが高くなる。そのランキングの高さを競い合い、そのゲーム内での実力を証明する訳だ。
スーちゃんはゼロウォーズVRの中で12シーズン連続のランキング1位だったことがあるって話だから、それだけ長い期間ランクマッチで一番の成果を上げたってことになるね。
そして、不正になるチーミングの手順はこう。
まずそこそこランキングの近いプレイヤー2人、またはもっと沢山のプレイヤーを用意する。
その中のひとりはランキングを上げたい人。そして残りはその人をサポートする人だ。
あらかじめスタート位置や使用するキャラクターの情報、作戦やサインといった情報を共有して、ゲーム内時間の全く同じタイミングでバトルのマッチングを開始する。
この手の対戦ゲームは大抵、同じくらいの時間にマッチングを始めた人を一緒くたに試合に放り込む仕様になっているので、そこそこの確率で同じ試合に参加できてしまう。
あとは最初の作戦通りに合流して、2人以上の擬似的なチームで他のプレイヤーに対して人数の有利を取り続けて、ランキングを上げたい人の勝率を上げていくという寸法だ。
もちろん毎試合必ず成功するなんてことはないけど、数試合に一回でも成功すれば十分ランキングを上げられる。
ちなみに今の説明は他のツールを介入させにくいVR用の手順だから、作戦共有は事前に行う必要がある。煽り行為を防ぐために、ほとんどの対戦ゲームでは他人にチャットや通話を送れなくなっているから、どうしても仮想空間に入る前に情報共有の必要があるってことらしい。
とはいえ実際の戦闘中は味方の動きを見ていれば何をしたいのかわかるのがトッププレイヤーだから、合流までの作戦会議というのが正確らしいけどね。
そしてこれがコンシューマーゲームやPCゲームだともっと酷くて、プレイしながら外部の通話ツールを使っての連携は当たり前なんだって。
運営側も対策はしているけれど、それはもう多彩な手段でやられるせいで中々防げないのが現状らしい。
「結局のところ、チーミング行為が不正と言われる最たる理由は公平性の問題です。ボクが言うと信じにくいかもしれないですけど、基本的に対人シューティングゲームは人数が多い方が強いゲーム性です。チーミングひとつで勝率はドカンと上がりますからね」
「なるほどね〜」
「まあ、基本的に嫌われる行為なんだと認識してもらえればいいです。絶対に肯定していいことではないですが、今はチーミングの是非について議論するために話してる訳じゃないので」
「うん、わかった」
絶対に、という部分に力を込めてスーちゃんはそう言った。
スーちゃんの説明では、チーミングが実際にバレたらどうなるのかみたいな話は丸っと抜けていたから私にはわからないままだけど、バレたらきっと酷い目に遭うんだろう。
わかりやすくキツいペナルティだとアカウント停止とかかな? せっかくランキングの上位になるくらい頑張ってきたのに、一度の不正行為で努力がパァになってしまうのだとすれば、十分過ぎるほどのペナルティだと思う。
「それで、結局決勝ラウンドでチーミングが起こるって、具体的にどんな感じのことをされるの?」
何をどうしてチーミングが起こることになるのかとかどんな仕込みをしたのかは一旦置いておくとして、私は特に気になっていたことを聞いてみた。
「そうですね、具体的にはチーミングを受けいれたチームが《リトゥ》を使わなくなります」
「ふむふむ………………えっ、それだけ?」
「それだけです」
当然のことのように頷くスーちゃんを見て、私は思わずキョトンとしてしまった。
なんだかこう、わざわざ不正行為をされるんだぞという前置きの割にはとても単純というか、拍子抜けする内容だったからだ。
「ナナはボクが得意なキャラはなんだと思いますか?」
「え、そりゃあずっとリトゥしか使ってないし、リトゥなんじゃないの?」
「違います。ボクは基本的にゼロウォーズVRに存在する全キャラクターを同じ練度で使えます。だから得意なキャラクターはひとりもいないんです」
「要は全部が得意なのよ。ナナがなんでもできるから得意なスポーツはないって言うのと同じことよ」
「わ、私はルール知らないスポーツはできないし……」
「はっ、そういう事にしといて上げるわ」
「雑に流された!」
咄嗟に出た言い訳は、リンちゃんに鼻で笑われて流された。
「んんっ、でもスーちゃん練習の時からずっとリトゥ使ってるよね。スーちゃんが敵として出てる動画は何個も見たけど、なんならここ数ヶ月はずっとリトゥ使ってるんじゃない?」
「はい。12シーズン連覇してからはずっとです。だからその印象自体は間違ってないですし、むしろその印象を植え付けるためにずっとリトゥを使って来たんです」
私が知っている限り、スーちゃんがリトゥ以外のキャラを使っているのは何ヶ月も前の動画だけで、最近の動画では全くと言っていいほど別キャラを使うシーンはなかった。
そんな印象は正しかったようで、スーちゃんは私の疑問に焦らすことなく頷いた。
「全キャラを同じ練度で扱えるとは言いましたけど、あくまでもそれはキャラそれぞれの100%を引き出せるだけです。リトゥやメテオライトのように能力の絶対値が高いキャラの方が、100%を引き出した時の勝率は高いに決まってる。予選でも7割くらいのチームがリトゥを編成に入れていて、メテオラも半分程度は入っているのを見ればキャラパワーの差はわかりますよね?」
「それはまあ、わかるけど」
リトゥは自分にバフをかけてゴリ押す、シンプルに強いキャラクター。
そして今話に出てきたメテオライトは、名前の通り天から即死級の威力を持つ流星を呼び寄せる、AA特化のアタッカーキャラクター。
共にゼロウォーズVRで二強と呼ばれる強キャラクターで、人気も当然高い。私が使っているスナイパーキャラのルーファの不人気さから比べると天と地ほどの差があると言ってもいいだろう。
なんと言ってもルーファはスナイパーキャラとしてもほぼ上位互換のキャラがいるからね。悲しいけど、強いキャラはそれだけで人気なのだ。
「間違いなく、リトゥを使っている時のボクがどのキャラよりも最強です。そして、ここ数ヶ月の戦績を見ればわかりますけど、ボクはずっとリトゥだけを使ってきた。だからこそ当然他チームはボクがリトゥを使うと思っている。……逆に言えば、他のチームからすればリトゥを使わなければ、それだけでボクを炙り出せるんです」
「ああ、なるほど。全チームがリトゥを使わなければ、リトゥのいるチームが……というかフィールド内のリトゥがスーちゃんだってわかるから、袋叩きにできるってことだね」
「その通りです。たまたま一試合だけチーム編成からリトゥを抜くだけのことであれば、チーミングとしても指摘は難しいですし。コスい手ではありますけど、保身と実利を兼ね備えた面白い作戦だと思います」
「とにかくスーちゃんを潰すことにかける訳か〜。確かに、私たちだけでトッププレイヤー集団に勝つのは難しいもんな〜」
ゼロウォーズVRでは、1チームに複数人同じキャラを編成することはできない。だからうちのチーム以外の全チームがリトゥというキャラを使わなければ、逆にリトゥを炙り出せてしまうわけだ。
もちろん、これは諸刃の剣に近い。スーちゃんが言うようにリトゥはシンプルにパワーの高いキャラクターで、それをチームから抜くのは自ら弱体化するのに等しい行為だからだ。
それでも、スーちゃんを炙り出せるならお釣りが来る。そう思っているからこそ、そんな作戦が立てられるんだろう。
「ちなみに、11チーム中7チームくらいはチーミングに与すると思います。残りのチームに関しても、そもそも本戦以降リトゥの使用率はチーミングに関係なく下がりますし」
「どういうこと? チーミングに参加しないならリトゥ入れた方が良くない?」
「どのチームもボクを殺したいですから、優先的にリトゥを狙います。そうなると中身がボクであるかに関わらずリトゥを使ってるだけで集中狙いされるのは間違いない。チーミング関係なしに、そもそもそういう空気が生まれてるんです。だからこそチーミングをしてもバレないなんて考えもあると思います」
「なるほど、集中狙いされるってわかってて使いたくないってことかぁ。……なんかスーちゃんめちゃくちゃ警戒されまくってて笑っちゃうね」
「ボクはその方が楽しいです。どんな作戦であれ、挑みに来てくれるだけで心が踊ります。……まあ、全部踏み潰しますけど」
「あら、心強いわねぇ」
まるで他人事のようにのほほんと呟くリンちゃんに、思わず笑みがこぼれる。
強者故の孤独なんて大袈裟なものじゃないだろうけど、王者の余裕ではある。色んな人に狙われても戸惑うことなく嬉しそうにしているその落ち着きこそが、スーちゃんの強さを表していた。
「ここまでの説明で何となくわかったと思いますけど、決勝ラウンドでのボク達の作戦の肝は……」
「ウチもリトゥを使わない、でしょ?」
「はい!」
相手がキャラを使わないことで対策してくるのなら、こちらだって使わなければいいだけだ。
仮にチーミングが無くてこの手が裏目になったとしても、それならそれで構わない。それでも勝つのは自分だと、スーちゃんの目が語っていた。
「ふっふっふ、それじゃあ決勝ラウンドでの作戦会議です。まずは……」
スーちゃんはとても機嫌よさげに、そして悪そうな笑みを浮かべながら、決勝ラウンドでの作戦について話し始めるのだった。
あんまり重い話にしたくないのと、ナナ達がそういうのに敏感じゃないのでゆるっとした内容になりました。
チーミングとかスマーフとかブースティングとか、不正にも色々な呼び方ややり方があります。ゲームによっては不正になったりならなかったりもします。
でも、ホントはやっちゃダメなことです。ちょっとのズルで信用も友情も何もかもなくなっちゃいますよ。





