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アマーリエ達は、依頼をこなしながら順調にいくつかの村を越えて北上していく。景色はまだ春には程遠く平原が減り始め、森が多く見られるようになっている。日中の空気もひんやりとしていて、アマーリエ達はマントの下に厚い毛織物の服を着込むようになっている。

今日の御者は、ダリウスだ。荷台の幌の中にいると寝てしまうのがわかったリエは、余程のことがない限りは御者台にいることにしている。

「次の村は、小さな村でな。村長の納屋を借りることになる。そこに泊まって、魔力溜まりのある砦跡の処理をしたら、その後2日ほど進めばアルバンにつく」

「ようやくですねぇ。道途でいろいろ美味しい物が仕入れられてよかった。それぞれの村に転送陣も設置されたし、無くなったら欲しい物また送ってもらえるし、いやー良かった良かった」

「え、いいのかそれ?」

いつの間にそんな話になったのだとダリウスが目を剥く。

「いいんです。前の村で、転送陣使ってダールさんと相談いたしまして、領内の物流業務を組織化しようって話になりました」

ちなみに転送陣設置組は既にアルバンにも転送陣を設置し、そこからさらに、点在する村々に向けて出発している。早く設置し終えないとお家に帰れないから、超特急で仕事をこなしている。こんなところにもアマーリエの暴走の余波が出ているわけだ。まあ、あくまでご領主の内政のための決定なので、転送陣設置組はうすうす原因を感じながらも、宮仕えと割り切って粛々と自分の仕事をこなしてる。

「は?」

「それぞれの村に支店をおき、雇用機会として運送業務に携わる人を雇うことと冒険者に依頼を出す分とになりました。危ないところは護衛に冒険者の方も雇うそうです。」

「ふーん。領内で危ないたってたかが知れてるからな、ここは。初級クラスの仕事が増えるってことか」

「まあ、冒険者ギルドとも仕事がかぶってくるので縄張り争いにならないように調整しながらですが、どうも末端の方の物流がよろしくないとこの旅で感じたので、あえて領地の活性化のためにお願いしてみました。神殿の方も転送陣の設置にご協力いただけるようになりました。ご領主を通して海産物系や薬関係の不足の解消を打診したら、いいよって言ってくれましたし。ここはファルさんも噛んでます」

神殿は小さなものであっても一応どの村にも必ずあるからだ。そこに転送陣があれば、村役場すらない小さな村も漏れがなくなるのだ。もちろん神殿の株があがるよーという囁きはダールが行っている。

「リエさん、ありがとうございます。ここのご領地で上手く行けば、王国内でも発展するはずだと思うんです!」

ファルは頭を悩ませていた問題の一部が解決し、先が見えてきたことが純粋に嬉しいようだった。

「あー、なんかここ十年ぐらいのご領地の発展にお前さんが裏で噛んでるのがよくわかったよ」

冒険者の間でも辺境のはずのバルシュティンの発展具合は噂になっていたのだ。

「フフフ、実は子供の頃から影の実力者(フィクサー)なんです」

にやりとわざとらしく笑うアマーリエにダリウスはがっくりと肩を落とす。

「7つの子供が裏から操るとかねーわ。どうせ、美味しいもんが食べたいっていう欲望のまま、大人振り回して結果出してきただけだろう」

ダリウスは、周りが結局、子供のわがままに収まらせなかったのだろうと推測する。そこに商機を見出すあたりがここのご領地の大人たちの図太いところなのである。

「いやー、ご領主様もご隠居様も美味しい物好きでしたから。えへへへへ。ちなみに今御隠居様には王都で手に入るいろんなものお願いしてます」

今代に当主の座を譲った先代辺境伯は、現在王都のお屋敷で社交を頑張っている。先々代は領地に戻って、水戸のご老公のように領内漫遊中である。フットワークの軽さがこの一族の売りである。

「…最強タッグじゃねーか。しかも先代パシリなのか?ありえねー」

「まあ、権力者を後ろ盾に持つって大事ですよね」

「末恐ろしいガキンチョだったんだな」

「まあ、その結果が島流しというか、端っこで隔離というか。やり過ぎちゃダメってことですよねー」

要は隣の発展が気に入らない何者かがその要因を特定したということなのだろうとアマーリエは考える。

「おまえさん、やり過ぎたとか欠片も反省してないだろ?」

「わかります?ダンジョンから出る食材に期待が高まってます!後、王都に負けない技術者集団!3年ですべて堪能できるんでしょうか!面白いものいっぱいあったら延長しよーっと」

あれやこれやすでに妄想だけは暴走を始めているらしいアマーリエに、後ろで話しを聞いて、絶対アルバン村では一定の距離を置くんだと心に決めたベルンであった。

「おまえさんは人生楽しそうでいいなぁ。そのひずみがノールさんに行くわけか」

後半をポソリと呟いてユグの村で灰になりかけてた騎士の顔を思い出すダリウス。ダリウスにしてみればアマーリエとの深い関わりは依頼終了までだと思っているので、アルバン村での暴走は騎士に全てしわ寄せが行くんだろうとしか思っていない。ここにベルンとダリウスの思考の甘さの差がでたりしているのである。

ダリウスとベルンの顔をじっと見て、マリエッタが無言で首を横に振っている。

「ダリウスさん、享楽的に有りたいわけじゃないですよ。命を頂いていますからその命に対してお陰様であるってことを忘れたくないんです。奪った命に対して私なりに、顔向け出来るように有りたいのです。あなた達のおかげでわたしは人生悔いなく楽しく生きてこられた、ありがとうって死にたいんです。単に私のわがままなんです」

「そこまで開き直られたら、納得するしかないだろ、食われた方も」

「だからせめて、不味くだけはしたくないんです」

前世の某新教の罪にならないように不味く作るっていう発想だけは許せなかったアマーリエだった。アマーリエは自分が食べられてしまう運命なら、不味い顔で食われるよりは美味しいと食べられる方がマシだと思ったからだった。

「次の村もなんか美味しい物あるかなぁ」

「次の村かぁ。あそこはここのご領内ではいまいち発展具合が遅いなぁ」

「そうなんですか?」

「ああ、土地が痩せてる上に平地が少ないからなぁ。なかなか作物が育たん。だから余った若い奴が冒険者になってでてっちまう」

「なるほど。名物ができれば少しは発展向上するかな」

「どうだろうなぁ?だが冒険者のなり手が減るのも困るんじゃないのか?物流の組織化のためには」

「うーん、好きで出て行く人はいいですが、生まれた場所に居たいのに居られないって人が居たら、それはやっぱり嫌だなぁ」

「俺は、好きで出た口だからなぁ」

「ダリウスさんは引退とかは?」

引退したら故郷に戻らないのかと考えたアマーリエはダリウスに今後を聞いてみる。

「俺達みたいにクラスが上がり過ぎちまうといざ引退って言っても周りとの兼ね合いがなぁ」

「柵とかありますもんね」

「周りはいろいろやめた後の世話も考えてくれてるみたいだがな。いまいちぴんとこないんだよなぁ」

「冒険者ギルドで教官とか?後進の指導?とかですか?」

「ああ。後は商家の護衛や貴族の私兵だなぁ」

「うちのご領主からお誘いないんですか?」

「あの若様からは、アルバンに気が済むまで潜ってみないかとは言われてるな」

「ぐはっ。うちのご領主様ってなんで誘い文句が下手なんだろ」

だから未だに嫁が来ないのかなどと失礼なことを考えるアマーリエだった。実際アマーリエの婿取りの話が出た時に、わたしよりお前のほうが先だろうがと突っ込みたかったのである。場所が場所だけにさすがに突っ込めなかったのだ。

「まあ、そうやって声掛けてもらえるうちが花だからな」

「そうですねぇ」

「お、そろそろ着くぞ」

「着いたら、リルとハルの世話でいいですか?」

「おお、頼む」

「ダリウス、なんか村の方角から騒がしい雰囲気がする」

虎耳をピコピコ動かしてダフネが難しい顔で告げる。

「ん?」

「鎧をきて走り回る感じだ」

「血の匂いは?」

「しない。騎士たちに何かあったのかもしれない」

「リエ、幌の中に入ってろ」

「はい、ベルンさん」

リエが幌馬車の中に移動し、ベルンが御者台に乗る。グレゴールとダフネは荷台の後方に移動し、マリエッタが御者台の近くに移動する。ファルはアマーリエのそばにいる。

村の入口に近づくと、グゥエンたちとは別の騎士たちがいる。ベルンはあえて他人行儀に声をかける。

「どうかされましたか?騎士様方」

「おおこれは、銀の鷹の皆さん。賊が逃げてましてな。皆様方ならなにもないと思いますが、十分お気をつけ下さい」

ノールがこちらもまた、他人のふりでさらりと答える。

「そうですか。一応賊の風体をお伺いしても?」

「一見、そのへんの農民のように見えますが、なかなかの手練のようでしてな額に古い刃物の傷跡があります」

「そうですか。おい、聞いたな。一人にならず必ず二人以上で行動しろ。では騎士様、私達はいつも泊めてもらっている村長の納屋に居ますんで」

そう言って、ベルンが会釈し、ダリウスが村の奥へと馬車を進める。村長の家のそばにある納屋の横に馬車を止め、リルとハルを馬車から外す。

グレゴールについて、馬の手入れ道具を持ってアマーリエは馬たちの手入れを始めた。その一瞬だった。

アマーリエは後ろから羽交い締めされ、口元を覆われ、かなりの魔力が動き、転移の陣が展開するのを視界の端に移したところで意識が暗転した。


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