70.イタチのエリアボスと戦ってみました
「エンラ、すまないの……水刃がいる場所はわらわのエリアではない故、わらわは助太刀はできそうにないのじゃ」
「分かってるよ、キュビカさん。俺一人で何とかするさ」
「頼んだぞ。彼奴はああ見えても嘘はつかない奴じゃ。だからお主を殺しはしないという事は信じていいじゃろう」
「殺しはしない、ね。その言葉をどこまで信じていいんだかな」
殺しはしないと言っても、死ぬ間際までボコボコにするような事は出来てしまう訳だし、あまり安心はしない方が良いだろう。
それに所詮は口約束だしな。
今まで嘘をついていなくても、今回も嘘を言わないとは限らないしさ。
「とにかく何とか穏便に済むように頑張ってみるわ」
「うむ。無理を言って済まないが、エンラ、よろしく頼むのじゃ」
俺は片手を上げてキュビカに返事をし、そしてそのまま本物のイタチがいる方向へと向かっていった。
そしてそのままイタチの正面までたどり着く。
「覚悟は決まったか、ドラゴンさんよ?」
「覚悟も何も、お前と戦わないとみんなを殺すつもりなんだろ?」
「殺すだなんて物騒だな。別にオレはお前との戦いを楽しむ為の舞台を整えただけだぜ? 戦いを楽しむ事さえ出来ればオレは他の事なんてどうだっていいんだ」
どうやら本当に俺と戦う為だけにこの状況を作り出したらしい。
何がそこまでこのイタチを戦いに駆り立てるのか俺には理解出来そうにもないな。
「こいつらから聞いたぜ? お前、タイダルウェーブを吐息で蒸発させたみたいじゃないか」
「そうみたいだな。俺はその様子は遠くに行って見えなかったが。もしかしてその事を怒っているのか?」
「いや、その逆さ。むしろ心が躍ったんだよ。オレが本気で戦えるほどの化け物が現れたってな」
まあ、確かにあの大波を蒸発させる生き物なんて聞いたら普通に化け物だと思うよな。
俺もまさかそんな事になるとは夢にも思わなかったしさ。
「なんでそんなに戦いを望むんだ?」
「楽しいから。その一言に尽きるな。命と命の奪い合い。自分の全力を相手にぶつけ、しのぎを削り合う。これほど興奮する事は他にないだろう!?」
嬉しそうな顔をして熱弁するイタチ。
どうやら本当にこのイタチは戦う事が好きらしい。
「ここ最近は退屈だった。こちらの能力を制限して戦っても余裕でオレが勝つ勝負ばかりだったからな。だからこそ、お前には期待している。オレを興奮させてくれるような熱い戦いをさせてくれよっ!?」
そう言うとイタチは二本足で立ち上がり、手を前に出し、水の塊を俺に発射してきた。
すると猛スピードで水の塊が俺に襲いかかってくる!
俺は反射的に高速飛翔を使って空に飛び上がり、何とかギリギリそれを避ける事ができた。
「ほう。この攻撃を避けきる、か。面白いぞ! こういう相手をオレは待っていたんだ! もっともっと楽しませてもらおうじゃないか!」
イタチはそう叫ぶと立て続けに水の塊を作り出しては俺にぶつけようとしてきた。
どれも高速で発射される水の塊ではあるが、高速飛翔を使う事によって俺は何とかそれを避け続ける。
そんな状況が数分。
いくらなんでもこのままではラチが明かないので、そろそろ行動を起こすとするか。
相手の攻撃の規則性も分かってきたしな。
「アイスニードル!」
俺は周囲の空間のあらゆる所に針状の氷を出現させ、それを水の塊にぶつけた。
すると水の塊は威力を失い、その場で雫となって地面へと落ちていく。
そうやってできた空間を使って俺は一気にイタチの近くへと迫り……
「アイアンクロー!」
鋼に変化させた爪でイタチの体を引き裂いて、そのまま空へと距離を取った。
今の攻撃は手応えを感じたが、イタチの様子はどうだ?
そう思った俺はイタチがいる方向を見てみると――イタチがいない。
えっ、どういう事だよ?
「いい攻撃してくれるじゃねえか。ならこれはお返しだ! アクアスピア!」
この声は―――背後から聞こえる。
イタチの奴、いつの間に背後に!?
空に飛び上がった俺の更に上空から繰り出されたイタチの攻撃は容赦なく俺の体に叩き込まれた。
そして俺はそのまま水の槍を受けて地上へと落とされる。
「まだまだこんなもんじゃねえだろ!? アクアチェイサー!」
空から聞こえるイタチの声。
どうやらまた何か追撃をしてくるらしいな。
全く容赦ないものだ。
少しは手加減してくれないものだろうか。
だが俺としてもただやられる訳にはいかない。
「グランドウォール!」
俺の周囲にせり立つ壁がイタチの遠距離攻撃の妨げとなった。
しかし、無理に使った魔法だからか、イタチの攻撃を受けた壁はあっさりと崩壊し、そして俺の周辺を覆っていた壁は瓦礫となって崩れ落ちている。
だが、これで良い。
「グラビティテイル!」
俺は自らの尻尾にありったけの反重力をかける。
すると俺の尻尾から遠ざかるように瓦礫は猛スピードで移動を開始した!
それはつまり―――
「ぐはっ!?」
あらゆる方向に向かって瓦礫が飛んでいくという事になり、イタチにその瓦礫が直撃する事になるのだ。
イタチに当たる瓦礫はごくわずかだが、当たらない瓦礫にも意味もある。
瓦礫によって生まれた死角。
そこを使って移動すれば……
「グラビティテイル!」
「なっ!? 上から……だとっ!?」
イタチに認識されずに移動する事も可能という訳だ。
高速飛翔によって死角を使って素早くイタチの頭上の空間にたどり着く。
そしてその位置から自らの本来の重力に加え、技による重力を上乗せした尻尾の叩きつけがイタチにクリーンヒットしたのだ!
地面に強く叩きつけられるイタチ。
かなりダメージは負ったようで、立ち上がったものの、ふらついているようだ。
そんなイタチを見て俺は一回地上に降り立った。
「今の攻撃を受けてもまだ立ち上がるのか……さすがはエリアボス様だ」
「今のはさすがにまずかったぜ。お前、本当に強いんだな。長く戦ってもこれはオレに勝ち目が薄そうだ。なら次で一気に決めさせてもらおうじゃねえか」
そう言ったイタチは目をつぶり、前足から青い光を放ち始めた!?
そして詠唱しているのか、何かをぶつぶつとつぶやいている。
一体何をするつもりなんだ……?
それからイタチがいる地面に巨大な魔法陣のようなものが出現する。
そしてその魔法陣が輝き始めた。
これはヤバい予感がぷんぷんとするぞ。
イタチは本当に次の一撃にかけているようだ。
そしてしばらく経つと、イタチは目を開き、俺の姿を見据えた。
「さあ準備は整った。覚悟はできたかよ、ドラゴンさんよぉ!? それじゃいくぜ! タイダルキャノン!」
イタチが二本足で立ち上がり、そしてその右前足には水の塊ができる。
そして、その水の塊からはひどく不快な感じが漂う。
濃い魔力を浴びると不快な感じがするらしいから、あの水の塊にはよっぽど魔力濃度のある水が集まっているのだと推測できるだろう。
こりゃ俺もイタチと同じように、全力の一撃を放つ必要がありそうだな。
「熱風吐息!」
俺はイタチに向かって体内エネルギーを全て絞り出し、今出せる全力の熱風を吐き出した。
そんな熱風がイタチの水の砲弾とぶつかり合い、周囲は蒸気で包まれる!
そこら中に充満した蒸気は容赦なく俺自身にも襲いかかった!
熱い……。
体中が蒸気に包まれて全身が火傷しそうだ。
でも、それでも俺は熱風吐息を使い続ける。
地獄のような熱気を耐え続けていると、次第に周囲が晴れてくる。
すると俺の前に現れたのは―――倒れたイタチの姿であった。
どうやら俺はイタチとの勝負に勝ったらしい。
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