66.狩り対決の決着が着きました
「あと1分ほどじゃな……狩りの準備は整ったのかの、エンラ?」
「ああ。後はその時を待つだけだ。俺達の狩りにふさわしい舞台がやってくる時をな」
「”俺達の狩りにふさわしい舞台”じゃと? こんな悪天候でよくそんな大口が叩けるものじゃな。大したもんじゃ」
「あれっ、気付いていないのか、キュビカさん? ほんの少しだが、雨の勢いが弱まっているとは思うんだが?」
「ん? 確かに言われてみればそんな気もするのぉ」
叩きつけるように降っていた大雨は今やポツポツと降る小雨へと変化している。
そしてついには雨は止み、上空には青空が広がり始めた!
「あ、青空……じゃと!? この一帯が晴れている所なんて見た事ないというのに!?」
「ふふっ、舞台は整ったな。鷹達、もうすぐ時間になる! 今のうちに水気を振り払っておけよ!」
鷹達もキュビカ同様に驚きの表情を浮かべていたが、すぐさま気持ちを切り替え、これから行う勝負の時に備えていた。
「キュビカさん、そろそろ時間か?」
「ああ、そうじゃな。ではカウントダウンを始めるぞ。3、2、1、スタートじゃ!」
キュビカさんの合図と共に一斉に飛び立つ俺と鷹達。
そして俺はすぐさま鷹に指示を出す。
「イチガはさらに上空へ向かって状況把握! ターガは左20メートル先にいる二体の獲物を狙え! ニーガは右手30メートル先にいる三体の獲物を! サンガはニーガの援護を!」
鷹達は俺の指示に従い、一斉に飛び立つ。
鷹達はそれぞれの隊ごとにまとまって目的の場所へと向かった。
イチガ隊は周囲の状況を俺に伝えてくれた。
強敵がどこにいるのか。
どこにどれだけの獲物が存在するのか。
他の隊が今どのような様子なのか。
イチガ隊の情報を頼りに俺は矢継ぎ早にそれぞれの隊長に指示を飛ばしていく。
三体いるうちのどの獲物から仕留めていくのか。
どのような戦法で獲物を追い詰めていくのか。
そういった細かい事をな。
ちなみに指示はトランシーバー的な物を通して鷹の隊長に飛ばしている。
さすがに距離が離れすぎていると、直接指示を飛ばすのは厳しすぎるからな。
鷹と狩りの練習をしている最中に指示を飛ばすのに苦労した事から、女神ショッピングで俺と隊長分のトランシーバーを買っておいたのだ。
値段は五つで50000B。
機械だからやっぱり高いんだよな。
あとむき出しで使うとトランシーバーがすぐに壊れてしまいそうなのでそれぞれ小さなバッグの中に収納する事に。
そしてそれでは声が届きにくいので、拡声の役割を持つクリーンボイスという魔法を購入して、機械に魔法をかけてある。
そうする事で、機械に配慮しながらも鮮明な声で鷹達とやり取りする事ができているのだった。
「ターガは左5メートル先にいる獲物を倒したら獲物を回収して俺の元に戻れ! ニーガは前方15メートル先の獲物を倒して回収。サンガは周囲にある獲物を回収して戻って来てくれ! イチガはターガが倒した獲物を回収!」
鷹達による連携のとれた行動により、あっという間に目標の数の獲物をほぼ仕留める事ができた。
後は獲物を回収させて集めるだけ。
周囲の把握が完了しているので、偵察役のイチガ隊も獲物の回収に回す。
そしてついに―――
「エンラさん完了致しました!」
「キュビカ! 獲物を16体狩ったぞ! タイムは!?」
「……1分32秒じゃ」
「ということは、俺達の勝ちという事だな? よっしゃあ!!!」
この瞬間、俺達の勝利が確定した。
すると俺だけでなく、鷹達も喜びの声を上げる!
対してぶーたれた顔をして不満をあらわにするキュビカ。
さっきからわらわのおにぎりがーというような事をぶつぶつ言っている。
「エンラ、ズルいのじゃ! わらわは天候が悪いからこの地を選んだというのに、その天候を変えてくるなんて酷すぎるじゃろう!?」
「別に俺は天候を変えないなんて一言も言ってないぞ? それに俺はキュビカさんとの約束通り、獲物には一切手出しはしてない。獲物を狩ったのは全部鷹達自身だ」
「そ、それはそうじゃが、でも!」
「以前は天候が良くたって、キュビカさんよりも鷹達の狩りのペースが遅かった。それが鷹に指示する事によってキュビカさんよりも早く獲物を仕留め、回収する事が出来た。これは疑いのない事実だろ?」
「そ、それは確かに否定できないのじゃ。以前の鷹達はわらわよりも全然狩るスピードは遅かったしのぉ。でもここで諦めたら、わらわのおにぎりが……」
がっくりとうなだれるキュビカ。
よほどおにぎりが食べられない事がショックだったのだろう。
もう勝負はついた事は分かっているが、何とかしておにぎりをもらえないか色々ぶつぶつ言いながら考えているようだ。
「まあ、その、なんだ。キュビカさんとの勝負、なかなか楽しかったぞ。さすがにおにぎり1000個はあげられないが、これからみんなで一緒におにぎりでも食べて宴をしないか? 一勝負終わった後の飯は格別だぞ?」
「うたげ……じゃと? そうじゃな、それはいい考えじゃ! エンラ、今すぐに宴をするのじゃ!」
「ノリが良いな、キュビカさん! だけどここでやるのはやめた方がいいだろう。時期に天候が悪くなるからな」
俺は空を見上げる。
すると先程は青空を見えていたにも関わらず、今や厚い黒雲に覆われ、ポツポツと雨が降り始めるのだった。
「なっ、もう雨が降り始めているじゃと!?」
「そういう事だ。ほら、さっさと俺達の住処に戻ろうぜ」
俺はフィールドクリエイトという大技を使って、一時的にこの周囲の天候を変化させた。
具体的には3分後に自分の周囲、半径500メートルの天候を晴れにするという事を念じてな。
ただ、このフィールドクリエイトには弱点がある。
消費魔力があまりに膨大ということだ。
事実、この天候をおよそ二分保っただけでかなりの精神がすり減った感覚がある。
多分この天候をもう五分維持しようとしたら俺の精神がすり減りすぎて俺の体は抜け殻になってしまうだろう。
それ位ごっそりと気力を持っていかれる技なのだ。
だがその技のおかげでキュビカとの戦いに勝つ事ができた。
ちょっと頑張って使った甲斐があったっていうもんだな。
という事で、狩った獲物をササッと売却し、天候が元に戻る前に住処に戻ることにした。
自分の家の近くに到着すると、家の中からコクリがお出迎えに来てくれた。
「あっ、エンラおかえり! 勝負はどうだった?」
「おお、コクリか。何とか勝ったぞ。でもキュビカさんはやはり手強かったな」
「そんなこと言う割には全然余裕そうな顔をしておったではないか、お主」
「いや、ただの強がりだよ、あれは。俺も絶対に勝てる自信があったわけではなかったさ。でも鷹達を俺は信頼していたからさ」
俺がそう言うと鷹達がキラキラした目線で俺を見てくる様子が見えた。
うーん、この十日間でずいぶんと信頼されたもんだよな、俺。
そんな事を思っていると、イチガが一歩前へ出て俺の所に近付いてきた。
「私達がこれほどの力を発揮できたのはエンラさんの優秀な指揮のおかげです!」
「はは、そんなに褒められるとさすがに照れるな」
「大げさではありません! 事実、エンラさんが指揮をする前の私達には動きに無駄がありすぎました。そのせいで私達が束になってもキュビカ様の狩りのスピードには遠く及びませんでしたし……」
まあ、確かにそうだったな。
俺が初めてキュビカと鷹達の狩りに同行した時はイチガの言う通りの状況だった。
多少は俺の指導による影響もあったんだろうが、でもキュビカを超える事ができたのは間違いなく鷹達の潜在能力の高さによるものだろう。
「ですから、その……これからも私達を導いて下さいね、エンラさん!」
「いや、それはできない」
俺の否定の言葉に凍り付く鷹達一同。
えっ?
何でそんな反応されなきゃいけないんだ?
だって元々俺がキュビカに勝負を仕掛けた理由は、キュビカに鷹達を指揮してもらう為なんだぞ?
それはつまり俺は鷹達の指揮をしなくなるという事で―――
「どうしてですか!? エンラさんなら、私達の能力を最大限まで引き出せる事は証明されたのに!?」
「あのなぁ、イチガ。元々この勝負はキュビカさんにお前達を指揮してもらう為に仕掛けたものであって―――」
納得をしないイチガ達を説得する俺。
俺の事を信頼してくれるのは嬉しいんだが、俺が毎朝狩りに出かけなければいけなくなるのはちょっとな。
「だいぶ鷹達に信頼されておるようじゃのぉ、エンラ。もういっそのことお主が鷹を指導すれば良いのではないか? わらわはこの体であれば単独でも十分生きていけるしのぉ」
「ほう、キュビカさんまでそういうことを言うか。分かった。それなら俺と鷹達で毎朝の狩りは行うとしよう。その場合キュビカさんには朝の狩りによって銅貨一枚の収入さえも入らなくなるが、それでも良いのか?」
「え、ええっ、今まで通りもらえるのではないのか!? そんな事は聞いておらぬぞ!?」
「当たり前だろ。今までは俺が鷹と狩りの練習をする為に、特別にキュビカさんには狩りをしなくてもお金をあげていた。でももうそんな事をする必要は無い訳だからな」
「むむむ……そう言われればそうじゃな。ならば、わらわは絶対狩りをする! お金がもらえなくなるのは嫌なのじゃ!」
それからはキュビカが説得に加わってくれたおかげであっさりと鷹達を鎮めることができた。
やはりキュビカさんって食べ物第一だよなぁ……
そこが一切ブレないから、考えが分かりやすくて、こちらとしては助かるんだけど。
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四十四日目:残金1303326B
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支出:なし
収支;+48000B
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