59.キュビカにもできない事はあるようです
翌日、いつも通りキュビカ達の獲物の売却、そしてみんなで朝食、そして店舗の開店を行う。
今日も店の前に動物達が行列を作っていて、忙しく販売をする俺。
販売をしたり、依頼を受けたりして大忙しだ。
黒板に依頼の紙がある程度貯まると、コクリがその黒板を持っていく。
その後コクリがターガに黒板を渡し、ターガが依頼の内容をみんなに伝える。
そして依頼を受ける仲間がペアストーンを持って出かけていくと。
もうその一連の流れはスムーズにできているようだ。
そして少しすると早速キュビカがペアストーンを持って俺の所へやってくる。
「相変わらず早いな、キュビカさん。持っているのは5番のペアストーンだな? ちょっと待って―――」
「エンラ、大変じゃ。この依頼、わらわでは達成出来そうにない」
へっ?
キュビカが達成できないだと!?
様々な依頼を猛スピードでこなすキュビカでもできない依頼とは一体……?
「分かった。店が落ち着いた後に話を聞くからそれまで待っていてくれ」
「了解じゃ。できるだけ早く頼むぞ」
そう話した後で、俺は再び接客に戻る。
そして少しすると待ちのお客さんがいなくなったので、キュビカに話を聞きに行く事にした。
「待たせたなキュビカさん。で、どうして依頼を達成出来ないんだ? 確か5番の依頼は探し物を見つけて欲しいという内容だった気がするんだが……ある場所が分からなかったのか?」
「いや、場所の見当はついておるのじゃ。じゃがその場所がの……」
キュビカは浮かない顔をしている。
一体どうしたというのだろうか?
「どういう場所にあるのか教えてくれないか?」
「うむ。探し物は空白の地、湿原エリアの方向にあることはわらわの術で判明しておる」
「空白の地? ならいつもキュビカさんが狩りに行っている場所じゃないか?」
「確かにそうじゃが……湿原エリアはちょっと事情が異なるのじゃ」
事情が異なる?
キュビカの反応からして、何か厄介な場所である事は何となく予想がつくな……
「キュビカさんも立ち入れないような場所なのか?」
「そうじゃな。立ち入れなくもないが、あまり行きたくない場所と言った方が正確じゃが」
「行きたくない場所か。理由を聞いても?」
「わらわがそこに立ち入りたくない理由―――それはイタチがおるからじゃ」
イタチ?
ああ、そういえば空白の地の湿原地帯で確かに遭遇した事があったな。
いきなり襲いかかってきてビックリしたっけ。
でもキュビカが恐れるほど強い奴らだとは思えないんだが?
「キュビカさんならイタチ位脅威にならないんじゃないか?」
「確かにイタチ個々の戦闘力は大した事はない。じゃが奴らの恐ろしさは個々の力ではなく、集団としての力なのじゃ」
集団としての力……
確かにあいつら、作戦みたいなものを使ってきていたな。
俺のウェイトチェンジを受け止める前衛、攻撃を仕掛ける後衛に分かれて襲ってきたっけ。
幻術魔法で何とか凌いだが、確かにちょっと危なかったかもしれない。
そういえばキュビカってエリアボスだから、自分のエリア内では無敵のバリアが使えるが、それ以外の場所ではそれが使えないのか。
となれば、空白の地での戦いはキュビカもダメージを負う可能性が十分あるし、危険だという事かもしれない。
「分かった。それならその依頼は俺が受ける。キュビカさんは他の依頼を受けてもらってもいいか?」
「了解じゃ。それでは頼んだぞ、エンラ」
キュビカは持っていた片割れのペアストーンを俺に渡してからターガの所へ移動していく。
そしてまた別のペアストーンを持って出かけて行った。
集団として強いイタチか。
幻術魔法が効く限りは俺がイタチに負ける事はないとは思うが、確かにあいつらは強いよな。
それに前回は俺がイタチとの戦いに勝って終わらせているし、あの戦闘好きのイタチならリベンジとか言ってまた襲いかかってきそうな気もする。
うーん、気が重いなぁ……
それからは特に何事もなく1日を終える事が出来た。
そして翌日。
俺はペアストーンを持ってコクリと一緒に依頼主に出会う。
探している物は水色の石みたいなものらしい。
コクリに依頼主の匂いを覚えてもらい、俺達は水色の石探索を開始した。
「コクリ、石の在り処は分かりそうか?」
「くんくん……ええ、大丈夫よ。ついてきて」
コクリがそう言ってどこかへと向かっていくので、しばらくついていく俺。
するとキュビカのエリアから外れたようで、荒地を通ったり、ちょっとしたオアシス的な所を通ったりした。
そして―――
「ここのもうちょっと先から匂いを感じるわ」
「なるほど、やっぱりキュビカさんの言う通りだったか」
匂いをたどって着いた先は、かつて訪れたことのある、空白の地の湿地帯であった。
周りを見回しても誰もいないように見えるが、油断をしてはいけない。
前回はそうやって油断させてから不意打ちを仕掛けられたんだからな。
「エンラ、あの辺りに何人か隠れているわよ」
「やっぱりそうなるよな。そこを避けて石の所まで行けたりしないか?」
「いや、厳しいわね……相手は既に私達に気付いているみたいで、距離をつめたり広げたりして調整してきているもの」
なるほど。
もし俺達が回り道をしようとしても、その先までイタチが先回りして立ち塞がってくるということか。
実に厄介だな。
こうなったらこちらがする事は―――
「ウェイトチェンジ!」
どちらにしろ戦う事になるのなら、こちらから仕掛ける。
その方が良いだろう。
だがウェイトチェンジによって体重増加の影響を受けているにも関わらず、全く相手に動きはない。
てっきりこちらから仕掛けたら反撃に来ると思ったんだけどなぁ。
「エンラ、相手が退いていくわよ」
え?
反撃に来るどころか逃げていくのか?
全く予想外の展開だな。
あんなに戦闘好きな奴らが戦いを避けるなんて。
まあ戦わずに済むのならその方が助かるけど。
ただ油断は禁物だ。
油断させた所を襲ってくるのが奴らなのだから。
ここは一定の距離を保って様子を見た方が良さそうだな。
「コクリ、相手と一定の距離を保ちながら石の方へ向かうぞ」
「ええ、分かったわ」
そう言葉を交わした後、俺とコクリはゆっくりと湿地帯の奥の方へと歩みを進める。
それにしても、俺には相手の姿を認知できないから、そこは完全にコクリ任せなんだよな。
気配感知が効かないっていうのは本当に厄介なものだ。
そしてしばらく歩いているとコクリがピタッと止まる。
「どうしたんだ、コクリ?」
「そろそろこの辺りからイタチのエリアに入る事になるわ。エンラ、覚悟はいい?」
「えっ、イタチのエリアに入るのか? てっきり空白の地の領域に石があると思ったんだが?」
「多分だけど、石はイタチが持っているんだと思うわ。さっきから私達と石の距離が縮まらないもの」
なるほどな。
落とし物が湿地帯にあるというだけで怪しいとは思っていたが、案の定イタチが探し物を持っているのか。
これは厄介だな……
「イタチのエリアに入るのはやっぱり危ないことなのか?」
「ええ。相手のエリアに入るって事は相手のホームグラウンドに入るという事。つまり、私達は相対的に不利な状況で戦う事になるの」
相手のエリアに入ると不利になる、か。
なるほどな。
相手の住処に立ち入るということ。
それは、相手にとっては勝手知ったる場所であるのに対し、こちらは全く知らない場所に入るということだ。
地形を利用した攻撃なども相手は繰り出してくるだろうし、不利になるのは明白だな。
それに恐らくイタチのエリアにはイタチのエリアボスがいる。
そんな奴と鉢合わせたら大変な事になるだろう。
エリア内にいるエリアボスの強さはキュビカさんを見ていれば分かる。
イタチのエリアボスがどのような能力を持っているのかは知らないが、とてつもなく強い事は明白だろう。
できれば出会いたくないものである。
「なるほどな。ちなみに具体的にどう不利になるのか分かるか?」
「いえ、分からないわ。私、イタチのエリアには入った事がなかったから、イタチの能力をあまりよく知らないの」
「あっ、そうなのか。すまないな、こんな事を聞いてしまって」
「気にしないで。それより、これからどうするの? このまま先に進む? それとも引き返す?」
どこから現れてくるか分からない上、集団で襲ってくるイタチ。
決して楽な相手ではないだろう。
それでも、俺の答えは―――
「決まってるだろ。俺は先に進む。コクリはどうする?」
「エンラが行くなら私も行くわ」
「分かった。くれぐれも無理はするなよ? この前みたいに俺をかばうなんて事はしなくていいんだからな?」
「ふふっ。心配してくれるのね、ありがとう。大丈夫、今回は無理はしないわ。石を手に入れたら早い所帰りましょう?」
「ああ、そうだな。さっさと終わらせて帰るとしようか!」
こうして俺とコクリは覚悟を決めて、イタチのエリアの中へと入っていくのだった。
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三十二日目:残金2262826B
収入:キュビカ達の獲物67000B
支出:食事など11000B
収支;+56000B
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