48.この世界のイタチは戦闘狂みたいです
空白の地という場所を駆け回り、大体どんな生物がいるかをざっと観察した俺。
すると、空白の地とは多種多様な環境が混在するエリアであるという事が分かった。
同じ空白の地といっても、隣接するエリアボスの領域によって環境は変わるようだ。
キュビカのエリアに隣接する地域は自然が豊富で、キュビカのエリアに比べると草木は減るものの、植物は十分生い茂っていた。
雷虎と呼ばれるエリアボスの領域の近くでは激しい雷雨が発生していたし、不死鳥と呼ばれるエリアボスの領域の近くでは砂漠が広がっていた。
ちなみにエリアボスについての情報はコクリから聞いた。
エリアボスって色々いるもんなんだな。
みんなキュビカ並みに強いんだろうか?
どちらにしろ、あまり敵対したくはないものだが。
そしてエリアボスの領域から離れた所はほとんどが荒野地帯になっていたが、一部では小さな森のようになっている場所が存在した。
ちなみにそのような所に生息しているフォレストラビットやツインヘッドを発見。
そこには川も流れていたし、やっぱり自然豊かな所に生物は集まるのかもしれない。
肝心の生息数については、大体の生き物については10体以上は確認できたが、ツインヘッドは4、5体ほどしか見受けられなかった。
やっぱりキュビカ達が狩りすぎた影響なんだろう。
狩りをもう少し制限しないとダメそうだな。
見つける事ができたのが4、5体というだけで実際はもっと生息しているのかもしれないが、数が少なくなっているのには変わらないからな。
空白の地を大体見終えた俺は、現在いる湿地帯からキュビカのエリアに戻ろうとする。
だが、何か様子がおかしい。
「エンラ。私達、何者かに囲まれているみたいよ」
コクリはそう言って周囲を警戒している。
俺の感知能力では周囲に生物の気配は感じない。
だが、何となく何者かがいそうな直感が働いているのだ。
隠密や偽装を使っていたら見破れるはずなんだが、どうやって隠れているんだろうか?
いや、そんな事は今はどうでもいい。
この湿地帯の周囲にいるであろう何体かの敵対勢力。
だがどこにいるんだ?
俺はコクリと共に周囲を警戒する。
するとある時、周囲から一斉に水の塊が襲い掛かってきた!
逃げ場はない。
となれば―――
「ウェイトチェンジ!」
俺は襲い掛かってくる水の重さを一気に増やした!
すると水は重さに耐えきれず、俺達の所まで届くことなく、地面に落ち、勢いを失った水が俺達の足元にゆっくりと流れてくる。
「ふーん、不思議な力を持つんだな、アンタ」
声がした方を振り向くと、透明なうきわみたいなものを首に巻き付けたイタチのような奴が現れた。
「コクリ、あいつらは何なんだ?」
「あいつらは水刃と呼ばれる奴の手下でしょうね。かなり好戦的だとは聞いていたけど、まさかいきなり襲い掛かってくるなんてね……」
好戦的、か。
そういえばイタチって見た目とは裏腹に凶暴な性格をしていると聞いた事があるな。
この世界でも同様に好戦的なのかもしれない。
実に厄介だな……
「俺はお前達と敵対するつもりはない。だからそこを通してくれ」
「嫌だね。せっかくお目にかかれたドラゴン様だ。また山に引き籠られたら数年は出会えないっつーの。嫌でもじっくりオレ達の相手をしていってもらうぜ!」
山に引き籠られる?
この世界のドラゴンは山でひっそりと暮らしているものなんだろうか?
俺は元々はただのトカゲで、ドラゴンとして生まれた訳ではないからよく分からないんだけど。
「エンラ、どうやらこのイタチは退いてくれそうにないわね。目から強い意思を感じるもの」
「はぁ、厄介だな……つまり、戦闘不能になるまで立ち向かってくるという訳か?」
「そういう事でしょうね」
うわぁ、面倒だな。
戦える限りは戦おうとしてくるって訳か。
身が持つ限りは戦いを挑み続ける。
そこに信念や守りたい物があるからではなく、ただそこに戦いがあるから。
うーん、戦闘狂の考えはよく分からねえな。
「何ぼさっとしているんだ? そちらから来ないのならこちらからいかせてもらうぜ! アクアカッター!」
「だからこちらに戦う気はないんだって。ウェイトチェンジ」
イタチが放った攻撃はまたしても地面に衝突して無力化された。
効かないと分かっているならもうそんな攻撃はしないでもらいたいものなんだが……
「遠距離攻撃はダメか。……ならっ! お前達、布陣パターンAでいくぞ!」
周囲を取り囲んでいる複数のイタチが俺の方に一気に近付いてきた!
でもそれがどうした?
ウェイトチェンジの対象が水からイタチ本体に変わるだけなのに……
「ウェイトチェンジ」
俺が襲い掛かってくるイタチにウェイトチェンジをかけると、イタチは地面に倒れこんだ。
だが、それだけでイタチの攻撃は終わらなかった。
倒れこんだイタチの影からまた別のイタチが飛び出してきて、今にも俺に鋭い爪で攻撃しようかと襲い掛かってくる!
ちっ、油断したな。
だが……
俺は周囲に幻術魔法を放った。
するとイタチの攻撃は空を切り、そして地面に降り立つと、何もない所を延々と攻撃をし始める。
「これで勝負はついたな」
「エンラ、さっき一体何をしたの?」
「幻術魔法を使ったのさ。それもとびきり強力なものをな。奴らは今、俺の幻と戦っている最中って訳だ」
そう、俺がしたのはイタチに幻術をかけただけ。
ただ幻術にかかったイタチは攻撃対象である俺を正確に認識できなくなるから、戦いにすらならなくなるって訳だ。
それでも流れ弾が来ないとも限らないからさっさとこの場を抜けさせてもらおうかな。
「あばよ、イタチさん。もう無駄な戦いなんてしないようにな。命がいくらあっても足りないぜ」
俺はそう言って、幻と戦い続けるイタチを残し、キュビカのエリアへと帰っていくのだった。
しばらくして、ようやく見慣れた住処周辺の薬草地帯へと戻ってきた。
やっぱりこの場所は安心するわ。
もうここまでくれば安心なので、この段階でイタチにかけた幻術魔法を解く事に。
さすがにずっと拘束し続ける訳にはいかないからな。
俺を見つけたキュビカが俺に話しかけてくる。
「エンラ、戻ったか。で、様子はどんな感じじゃったかの?」
「ほとんどの生物はそれなりに生息していそうだ。だが、ツインヘッドだけはあまり見かけなかった」
「うっ……やっぱりそうじゃったかの……?」
「ああ。だからしばらくはツインヘッドの狩りは禁止な」
うげっという表情を浮かべるキュビカと鷹達。
だから狩りすぎるなって言ったんじゃないか。
キュビカ達が高い価値のあるツインヘッドを狩れない事は俺としても痛手だしさ。
「そうなると、これからはリトルベアーを16体狩る事になるのじゃな?」
「い、いや、どうしてそうなるんだよ。バランスよく狩れって言ったよな、俺? そんな事したら今度はリトルベアーも狩れなくなっちまうぞ!?」
「うっ……それは嫌じゃのう……」
「それに見た感じキュビカ達が狩ってくる以外にも多くの種類の生物がいたから、他の生物を狩ってみるのもいいんじゃないか?」
「おっ、その手があったか。もしかするとツインヘッド並みの価値がある奴もいるかもしれないのかのぉ?」
「その可能性は十分あるだろうな」
今までキュビカ達は同じような生物を狩ってもってきていた。
だが、生息している生物は他にもいる。
できるだけ多種多様な生物を少しずつ狩っていった方が生態系に影響を与えにくくなると思うんだよな。
「なら、早い所価値の高い別の生物を見つけて狩る事にするのじゃ! いくぞ、お前達!」
「おおー!」
「い、いや、ちょっと待てよ!? 俺が買い取るのは1日16体までっていう事忘れてないよな!?」
「もちろんじゃとも。じゃが、わらわ達が食べる分として狩るのは別に構わんのじゃろう?」
「ま、まあ……それはそうだが」
「そしてその獲物の価値をみてもらう事だけは流石にしてくれるじゃろうな?」
「……そ、そうだな」
「なら何の問題もあるまい。では早速出発じゃ!」
そう言ったキュビカ達は北の方へと消え去ってしまった。
……本当に抜け目ないな、キュビカは。
明日からの収入も多くする為に、今のうちにどの生物が高い価値を持つのか見定めようって事だもんな。
食への執着、いや、この場合は金への執着が半端ないというべきか。
そういえばキュビカの奴、自分のエリアを放っておいて大丈夫なんだろうか?
空白の地はキュビカのエリアじゃない訳だし、キュビカが空白の地に行っている間は、キュビカのエリアには力が注がれなくなると思うんだが。
……まあ、そんな事はキュビカも分かっているだろうし、多分少し離れる程度では影響はほとんどないんだろうけど。
そんな心配を俺がする必要はないだろう。
そこはキュビカに任せればいい事だ。
「ねえ、お父さん」
「ん? どうした、カトカ?」
急に話しかけてきたのはトカゲのカトカだ。
一体どうしたんだろう?
「キュビカ達、みんな働きに行っちゃった。僕も何か働きたい」
「働きたいか。そうだな……カトカにはまだ狩りは早いもんな……」
キュビカ達は働きに出た訳ではないんだけどな。
いや、今後の仕事の為に行動している訳だから働いているのか?
……今はそんな事はどうでもいいよな。
話を戻そう。
カトカは小さな虫位であれば倒せるが、ほとんどの動物や魔物に勝つ事はできないだろう。
となれば、戦闘系の仕事を任せる事は出来ないな。
何か他に良い仕事は……
うん、あれがあるな。
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二十日目:残金6926576B
収入:なし
支出:なし
収支;+0B
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