39.九尾に名前を付けることになりました
「さて、みんなを仲間に入れるのはいいんだが、みんなにどこに住んでもらうかが問題だな……」
俺が住処にしている薬草地帯にはそこまで広いスペースがある訳じゃない。
だから九尾と鷹達全員と全く同じ場所で過ごす事はできないんだよな。
だけどターガだけ俺の近くに住まわせると不公平感が残ってしまう。
ならどうすればいいか……
あっ、そういえばターガは木にとまって見張りをしてくれる事が多いよな。
そんな感じで木にとまってくれるのなら十数羽全員近くにいられなくもないか。
「鷹達が大丈夫ならの話だが、俺の住処の周辺の木に生活してもらうっていうのは可能だろうか? それならほぼ一緒の場所にいられることにはなるが。もちろんターガもそこで生活してもらう」
「……なるほど。それなら私は構いませんが、九尾様はどうお考えでしょう?」
「わらわは構わんが……わらわはどこに住めばいいのじゃ?」
「九尾さんには俺達の住処で一緒に生活してもらう。九尾さん一人位だったらまだスペースに余裕はあるだろう」
「分かったのじゃ。では出発するとしようかの。では皆の者、わらわをまた飛ばすのじゃ!」
そう言った九尾はバリアを張った。
いつもこうやってバリアを張って、そこにヒモをくっつけてから九尾を飛ばすんだろうな。
だけど九尾の意気込みとは裏腹に、鷹達は行動を起こそうとしない。
「皆の者、どうした? 早くわらわを運ばんか!」
「私達は今ドラゴンさんの配下です。まだドラゴンさんから指示は受けていません」
「なっ……!? お、お主、早く鷹どもに命令を出すのじゃ!」
あっ、そういえば鷹の指揮権を俺に移譲すると九尾が言ったんだっけ。
よくよく考えればなんて面倒な事をしてくれたんだ……
そしてその言った本人がその指揮権の移譲によって一番不便になっているという。
言っちゃ悪いが、九尾って意外と馬鹿なのか?
時々考え無しに決めてしまう所があるしさ。
でも俺との取引の不平等さに気付いたり抜け目ない所もあるからそうとも言い切れないんだよな。
うーん、やっぱり不思議な人だな、九尾さんって。
俺は鷹達に九尾を運ぶように指示をする。
そして鷹達が九尾を空へ運び、俺は住処まで先導して飛ぶことになった。
少し飛ぶと、住処が見えてきたので、俺はそこに着地をする。
九尾も遅れて着地。
「え、エンラ、この人ってまさか……九尾さん?」
「ああ、そうだ。この一帯のエリアボスでもあるな」
エリアボスという言葉を聞いてどよめくコクリ達。
まあいきなりエリアボスを住処に連れて来たら驚きもするよな。
「おい、お主。このオオカミ、このエリアの出身ではないな?」
「ああ、そうだ。訳あって、このエリアに来ているみたいだな。あっ、もちろんエリアを乗っ取ろうなんて思いはないだろうから攻撃しないでくれよ!?」
「そんな事は分かっておる。大体乗っ取る目的で来るのなら、一人でこんな所まで来るなんて愚かなことはしないじゃろう」
一人で乗っ取りにくるなんて奴がいるなら、そいつはよほど腕に自信がある奴ってことになるだろうな。
一人で周囲を壊滅させるほどの圧倒的な力を持つ存在。
こういうファンタジー的な世界ではいてもおかしくはないから怖いよな。
そもそも自分自身が強大な力を持つドラゴンだという時点で、この世界にドラゴンが存在するのは確定だしさ。
俺よりももっと強力なドラゴンが現れてこの地を荒らしていくという事も考えられなくはない。
そんな事が起きたらもう逃げるしかない訳だが、それは起きてから考えればいいだろう。
起きていない事を考えても仕方がない。
乗っ取り目的という点で考えるのなら、偵察という線も一応は考えられる。
けど、コクリがそんな事をするとは思えないんだよな。
ずっと俺達と一緒に過ごしてきているし、こんなに俺達と馴染もうと頑張ってくれているのだから。
「わらわがこのオオカミと話す必要がいつかあるかもしれぬ。その時はお主に通訳をお願いしてもよいか?」
「ああ、そういえば九尾さんは自分のエリアの生物としか話ができないんだったな」
「そうじゃ。だが一緒に暮らすとなれば、会話する必要も出てくるじゃろう」
「そうだな。そういう時は俺を呼んでくれれば喜んで協力するぞ」
なるほどな。
分かり合う為に会話が必要、か。
九尾さん、ただ単にワガママに居座るというような感じではなく、しっかりと溶け込もうとしてくれようとしているのかもな。
そうしてくれるのならだいぶ助かるわ。
九尾を運び終えた鷹達は近くの木にとまって休んでいるようだ。
ちなみにターガもその中に混じっている。
ターガ、他のみんなとうまくやっていけるかどうか……
結構他の鷹達から恨みを買っていたからちょっと不安だな。
それとなく九尾さんからも気を付けてもらえるように後で伝えておくか。
九尾とのごたごたも終わって、しばらくその場でくつろぐ俺達。
カトカは九尾の尻尾が気になるみたいでツンツンとつついたり触ったりしている。
九尾が怒らないか心配だったが、意外と九尾は微笑みながらカトカの事を見ていたので、心配は不要のようだ。
意外と九尾って面倒見がいいのかもしれないな。
そして11時頃になると、カリス達が俺達の所に遊びに来た。
『おはよう、エンラ先生!』
「おっ、おはよう、カリス。それに他の二人も。カリスはもう日本語マスターしているみたいだな」
『ぼくも頑張ってるよぉ。カリスだけじゃないんだよぉ?』
『わたしも負けてないんだよぉ……』
「はは、分かってるって。みんなよく頑張ってるよな」
日本語を教え始めてから十日ほどしか経っていないが、カリス達、リス達はほとんど日本語を滞りなく話すことができている。
正直驚異的なスピードだ。
それはリス達だけでなく、コクリ、ターガも同様なのだが。
この世界の動物は前世の世界の動物とは脳や体の作りなどがだいぶ異なるのかもしれないな。
でないと、そもそも日本語の発声すらできないだろうしさ。
ちなみにカリス達が日本語を話しているかどうかは何となく感覚で分かる。
言語理解のスキルで翻訳されて聞くときは何となく言葉に少し違和感を覚えるのだが、日本語で直接聞くときはその違和感がないのだ。
なので日本語でやりとりした方が個人的には話しやすかったりする。
まあ贅沢な話だとは思うんだが。
「エンラさん、そこにいるのは誰なのかなぁ?」
「ああ、この人は九尾さんっていうんだ。この辺り一帯のエリアボスをやっているんだぞ。俺の仲間になったんだ」
「え、え、エリアボスだってぇ!?」
エリアボスという言葉を聞いた途端、慌てふためくリス達。
やっぱりこの地に生きる者にとって、エリアボスっていうのはそれだけ大きな存在なんだろうな。
俺が知らなかっただけで。
「ごきげんよう、小さき者達」
「こ、こんにちは、九尾さん。オレはカリスって言います。よろしくお願いします」
「ボクはクリスと言うんだよぉ。よろしくねぇ」
「わたしの名前はコリスなんだよぉ……」
「みんなそれぞれに名前があるのか。珍しいのぉ。誰に名前をつけてもらったか教えてもらってもよいか?」
「オレ達の名前はみんなエンラさんにつけてもらったんですよ!」
「ほう、そうなのか」
そう言うと九尾は俺の方をニヤニヤしながら見てくる。
な、なんだよ。
そんな変な目で俺を見ないでくれよ、九尾さん。
「そんなに名前をつけるっていうのは変なのか、九尾さん?」
「いや、確かに変わってはおるが、悪くはないと思ってな。そうじゃ。せっかくじゃから、わらわの名前もお主に決めてもらおうかの」
「……へっ? 九尾さんは九尾さんでいいんじゃないか? 別に呼び方に困っている訳でもあるまいし」
「九尾は種族名じゃ。わらわと同じ種族の者は極めて少ないが、存在しないことはない。じゃから名前があった方が良いじゃろう」
「それはそうかもしれないが、でもエリアボス様に名前をつけるなんて……」
「わらわにエリアボスという務めがあるのは事実じゃが、わらわはお主の仲間の一人に過ぎないのもまた事実。じゃからそう重く考えるでない」
うーん、仲間の一人に過ぎない、か。
一応補佐役ではあるから俺は九尾の配下にあたるような気もするんだけど、その扱いはよく分からないから、この際置いておくとしよう。
それにしても、九尾の名前かぁ。
どんなのがいいんだろうな?
今まで何となくで決めてきちゃったから、改めて名前をつけようと身構えると、どうすればいいのか分からなくなっちまうよな。
……あんまり考え込んでも良い名前が思い浮かばない。
やっぱりいつも通り、直感で決めるしかないだろう。
もし気に入らないのなら、九尾の方で嫌と言ってくるだろうし、とにかく名前を決めようか。
「分かった。なら九尾さんの名前はキュビカでどうだ?」
「キュビカ……どういう経緯でそうなったのか聞かせてもらえるかの?」
「うっ……。えっと、九尾から”きゅび”、鷹から”か”をくっつけた名前だ。九尾さんと鷹ってセットのイメージだしな」
「なるほど、気に入ったのじゃ。なら、これからわらわの事はキュビカと呼ぶがよい」
あっ、気に入ってくれたのか、九尾さん。
名前の由来を聞かれた時は気に入られなかったのではないかとドキドキしていたのだが。
とにかく、何とか無難に名付けを終えられて良かったわ。
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