38.九尾は取引の不平等さに気付いていたようです
ターガと一緒に空を飛んで行き、ついに俺は九尾と対面することになった。
最初に出会った時と同様に、九尾が張った結界のようなものにヒモがついていて、それを鷹が上へ持ち上げている状態だ。
九尾のあまりの重さ故か、鷹達が安定してヒモを持ち上げることができず、九尾の体はフラフラしており、相変わらず危なっかしい。
「久しいのう、お主」
「そうですね。十数日ぶりといった所でしょうか」
九尾はカンカンに怒っているのかと思いきや、意外と平静を保っているようだった。
とはいえ、九尾が今何を思っているのか予想がつかない。
気を引き締めなければ。
「お主と話がしたい。ここではなんじゃから、この辺りの開けた土地にでも降りてもよいかのぉ」
「はい、構いませんよ」
そういえば以前、九尾が少し動いたら鷹が持っているヒモが切れて地上に落下した事があったっけ。
今回はその二の足を踏まないようにしようってことか。
鷹達もだいぶ疲弊しきっているようなので、もうあまり長く空中にとどまることもできないだろうしな。
別に九尾を意地悪しようとも思わないので、言われた通り、地上に降りて話し合うことを承諾しておいた。
周囲を見渡し、比較的スペースのある所に降り立つ俺達。
そしてしばらくそこで落ち着いた所で、九尾が話を切り出し始めた。
「わらわがお主の所へ向かおうとした理由は分かっておろうな?」
「……いや、何の事か分からないですね」
「とぼけおって。お主、わらわからこやつら鷹どもを取り上げようとしているんじゃろ?」
「へっ!? いや、それは誤解ですから! 鷹達は俺の仲間にしてほしいと言ってきましたが、俺は仲間にはできないと断っていますよ!?」
「なるほど……やはりそういう事なのじゃな……」
ふむふむと納得している様子の九尾。
いや、こちらとしては全く話が見えないんですけど。
「そういう事ってどういう事ですか?」
「いや、すまないのぉ。ちょっとわらわはお主にカマをかけてみたのじゃ。実は今日、鷹達が帰ってくるなり補佐役をやめたいと言い出してのぉ。それでお主と鷹に何らかのやり取りがあると思ってな」
「鷹達が補佐役をやめたいなんて言ったんですか!?」
「そうじゃ。それに理由を問うても全く答えるそぶりも見せぬ。お主が原因かと勘付いたわらわは鷹達にここまで連れてこさせたという所かの。嫌がっていたが、無理にでも従わせた甲斐があったわ」
「それじゃあ、九尾さんが俺の所に来た理由って……」
「お主に鷹が補佐役をやめたいと言い出した真相を聞く為じゃな」
なんだ、そういう事か。
てっきりいきなり戦いを挑んでくるのかと思っていたけど、そうではなかったようだ。
っていやいや、まだ安心はできないぞ。
俺が詳しく事情を話したら、激昂して攻撃してこないとも限らないしな。
ここは言葉を選んで慎重に話さないと。
「分かりました。その真相とやらを話せばいいんですね?」
「そうじゃ」
「俺が鷹の気持ちを分かっている訳ではないから、憶測にはなりますが、それでも構いませんか?」
「それでよい」
「分かりました。では話しますよ―――」
俺は鷹とどんなやりとりをしていたのか、そしてどうして鷹が補佐役をやめたいと思っているのか自分の考えを伝える。
九尾は俺の話を冷静に時折うなづきながら聞いていた。
鷹達にも食べ物を与えていたという部分を俺が話している時、九尾がギラリと鷹達の方をにらんだ以外は特に目立った反応を九尾は見せなかった。
九尾ににらまれた鷹達はブルブルその場で震えていて恐れていたけど。
「なるほどのぉ。確かにお主が提供してくれる食べ物は美味いからそうなるのも無理ないかもしれないのぉ」
「そうでしょう? だけどそれじゃ九尾さんに迷惑になると思ったから断ったんですよ」
俺がそう言うとウルウルと涙目になりながらこちらを見つめてくる鷹がいるようだった。
そんなに見つめられても……できないものはできないんだよなぁ……。
「おい、お前達、補佐役をやめたいというのはこのドラゴン殿の仲間になりたいというのが理由なのじゃな?」
九尾がそう鷹達に問いかけると、みんなこくりとうなづいていた。
九尾が黙っていないのなら、九尾に許可を得てから俺の所に来ればいい、か。
いやぁ、でもそんな理屈通るはず―――
「分かった。ならば、お前達はドラゴン殿の仲間になるがよい」
ちょ、ちょっと!?
何勝手に言ってくれちゃってるんですか、九尾さん!?
それだと九尾さんのお世話をする役割の人が誰もいなくなってしまいますよ!?
「きゅ、九尾さん? それだと九尾さんを補佐する役割の人が誰もいなくなってしまうと思うんですが……」
「なに、お主、自分の立場が分かっておらんのか? お主も我の補佐役じゃ。つまり、補佐役に仲間が増えた所でただ指示系統が変わるだけで問題ないじゃろう」
「指示系統が変わるだけって……つまりそれは俺が九尾さんの世話をしろという事でしょうか?」
「端的にいえばそういうことになるのぉ」
「へっ!? それって話が違いますよね、九尾さん!?」
俺に補佐役をつとめてほしいと九尾が頼んできた時、俺に世話しろとは言わないと九尾自身が言っていたはずだ。
だから今の九尾の発言は聞き捨てならないんだよな。
「九尾さんは俺に世話をしてもらう必要はないと言っていたはずですよね?」
「確かに言ったのぉ。だから何じゃ? まさかお主、補佐役をおりるなんてことは考えてはおるまいな?」
「……前提条件が違うんだから、断る権利は俺にあるはずですが?」
「そうか。お主、わらわの温情について気付いておらぬようじゃな」
「九尾さんの温情?」
「そうじゃ。お主、わらわからずっとぼったくっておったじゃろう? 鷹どもに何回食料をあげても問題にならないほどにな。まさかわらわがその事に気付いていないとでも思っておったか?」
ギクッ!?
九尾、気付いていたのか。
つまり九尾はそれを分かっていた上で、取引をしてくれていたと。
「取引が不平等だって言いたいんですね。だったら俺と取引をしなければいい話だと思うのですが?」
「……お主、話が分かっておらぬようじゃな。別に多少なりともお主が得をするのは構わないのじゃ。第一、お主が出す食べ物はお主にしか出せないじゃろう。その分多少色をつけて取引する事には別に構わないと思っておる。じゃが、少し位わらわに温情をかけてくれてもよいのではないか?」
「というと?」
「わらわもお主の仲間に入れてほしいのじゃ。そして仲間として、わらわはお主が得できるように行動する。お主もその分わらわが快適に過ごすための生活の場を提供する。相互協力、これがわらわの望む事なのじゃ」
相互協力、か。
まあそれなら全然こちらとしても断る意味はないよな。
九尾と戦わずに済むのなら、それはありがたいことだからさ。
最悪対立するようなら、どこか別のボスがいるエリアへ逃げようかと思っていたけど、その必要もなさそうだ。
あまりに不利な条件を要求されるようなら逃げてしまおうと思ったけどな。
「相互協力ってことは、俺は九尾さんの補佐役としてではなく、九尾さんの仲間として対等に接していればいいんでしょうか?」
「そうじゃな。ただし、わらわに美味い食物を提供し続けるのは絶対じゃぞ?」
「そこは問題ありません。俺に任せて下さい」
「あと、対等な立場になるんじゃから、そんなわらわに敬意を払わなくてもよいのじゃぞ?」
「そ、そうですか……」
「わらわに対しても他の者と同様に接するがよい。遠慮なくな」
「わ、分かった。よろしく頼む」
俺と九尾はそう言葉を交わした後、握手をして、互いを仲間として受け入れることに。
その様子をターガも含めた鷹達は嬉しそうに見つめていた。
九尾にため口をきくというのは何だかはばかられるが、まあ本人がそうしろというのならそうするとしようか。
変に気遣わなくても良いのならそっちの方が楽だしな。
さて、これで九尾と戦わずに済んだのはいいのだが、これからどうしようか?
九尾と鷹達を仲間に入れたと言う事で、仲間のメンバーが俺含めて五人だったのが二十一人に膨れ上がってしまったのだ。
住む場所、食料など、どうしていけばいいものか……
うーん、悩ましい。
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