356.ドラゴンの俺が目覚めました
女神の歌声に聞き入る俺達。
女神の歌はさすがは自分で1000万Bを請求するだけあって、美しいものだった。
特に、バージェスにはその効果はてき面で、バージェスの体、つまりは俺のドラゴン態の体が白く輝きだす。
女神の歌が続く間、しばらく体が白く輝き続け、そして白い輝きが消える。
白い輝きが終わって間もなく、女神の歌は終わったようだ。
「……これで、エンラさんが望んでいた"ドラゴンの俺の魂を元に戻す"ことはできたはずですよ? バージェスさんの魂は安らかに天に昇っていきました。間違いなく地獄行きでしょうが」
「……ハハハ、そりゃどうも。でも、分かってるなら、なんで女神の鎮魂歌を最初からラインナップにのせてくれなかったんだ? ラインナップにのっていたら、俺は迷わずに買ったのに」
「うーん、だって、分からなかったんですもの。女神だって、全部覚えている訳じゃないんですよ? 仕方ないじゃないですか」
ごめんねと舌を軽く出して謝る女神。
……なんか色々と軽いな、この女神。
雰囲気といい、格好といい、全然女神には見えないんだよな。
「あっ、そろそろ約束の30分が来そうですね。では、またのご利用をお待ちしております、エンラさん」
女神は軽く頭を下げると、ボンッと突然白い煙が発生して、その場から消え去った。
……本当、嵐のように過ぎ去っていったな、女神は。
あっという間すぎて、本当に何が起きたのやらって感じではあるが。
俺がその場で呆然と立ち尽くしていると、倒れているドラゴンに動きがみられる。
「……う、うーん。ここは、どこなんだ? 俺は今まで一体……」
ゆっくりと起き上がるドラゴン。
というか、本体の俺。
多分だけど。
一応確認をしてみることにしよう。
「確認なんだが、エンラ……で間違いないんだよな?」
「お前は……分身体の俺か。ってことは、俺は今まで洗脳されてたってことかな? 俺、お前と戦ってた?」
「ああ、戦ってた。だけど、女神が色々と全部かっさらってた感じだけどな」
「……は? 女神? 一体どういうことなんだよ?」
本体の俺は、俺の女神発言にピンと来ていないようだ。
そりゃそうだろうな。
何せ、俺だってバージェスを真理の眼で見るまでは、女神のめの字も考えてなかったんだから。
俺はここまでの経緯を簡単に説明した。
ドラゴンが人間の町を襲ってきたこと。
人間達をイルカ達がいる湖に避難させたこと。
湖の近くでドラゴン達と戦闘したこと。
ドラゴンの王の魂が漆黒のドラゴンの体からエンラの体に乗り移ったらしいということなどをだ。
「なるほどな……。それにしても、ここはどこだと思ったが、イルカ達がいる湖の近くだったのか」
「ああ、そうだ。……って、早くフィールドクリエイトで元に戻してくれよ。俺の魔力じゃフィールドクリエイトは使えないんだからさ」
「ああ、そっか。悪い悪い」
本体の俺は頭をかくと、すぐに元の環境に戻してくれた。
それを確認した後、俺は仲間や人々を同じ次元に戻し、これで元通りに。
すると、仲間達は急いで湖から出てきて、本体の俺の所に集まってきた。
「……エンラ、エンラなんだよねっ!?」
「ああ、そうだぞ。心配かけたな、テレーナ」
「ようやく正気を取り戻したか。全く、世話かけやがって……」
「迷惑かけてすいません、トラージさん」
「……って、エンラ、丁寧語使うんじゃねー! おい、人間のエンラ! 約束ちゃんと守れよな!」
そんな感じで本体の俺に抱き着いて喜びをかみしめるテレーナと、ガミガミとうるさいトラージ。
二人とも態度は大きく違うが、喜んでいることに変わりはないようだ。
「お父さん、元に戻って良かった……。本当に心配したんだからね!」
「カトカ、大きな役割を任せてすまなかったな。よく頑張ってくれた。ありがとう」
「エンラ……本当に良かった。私、もう会えないのかと思ったんだから……」
「コクリも心配かけて悪かった。またせたな」
「エンラ、わらわに威圧してくるとは良い度胸じゃな。後でスペシャルパフェをおごってもらわんと気が済まぬのじゃ!」
「……ええっ、俺、そんなことしてたのか。身に覚えないけど、とりあえずごめんな、キュビカさん」
「エンラさん、正気に戻ってよかったんだな。ほっとしたんだな」
「ユニにも迷惑かけたな。心配してくれてありがとう」
カトカ、コクリ、キュビカ、ユニとそれぞれ言葉を交わしていく本体の俺。
そして少し距離を置いて、メイリスが本体の俺に近付いていく。
「あなたも……エンラなんですわよね?」
「ああ、そうだぞ。メイリス。……って、メイリスにとってはこの姿を見るのは初めてか」
「ええ、そうですわね。この雰囲気……姿形は違くても、同じエンラなんだってことはよく分かりましたわ。分身体を私と一緒にいさせてくれて、感謝いたします。それでは、失礼しますわ」
メイリスは軽く頭を下げた後、俺の所にかけよってきて、俺の隣に来ると立ち止まった。
メイリスにとっては、本体の俺は分身体である俺を遣わせてくれた存在どまりなんだろうな。
……まあ、それだけ俺に思い入れが強いってことだし、悪いことではないんだけど。
そして、最後にリスのぬいぐるみ―――ワルデスが本体の俺の方に近付いていった。
「エンラ……元に戻って本当に良かった。すまないな、色々と手は尽くしたんだが―――」
「もう終わったことだ、気にするな、ワルデス。ワルデスが色々と頑張ってくれていたのは、何となくだけど覚えてはいるし、感謝しているさ。謝ることなんてねえよ」
「……本当に、すまねぇ。そして、今度そういうことにあったら、助け出せるよう、俺様も精進することにするからな!」
「おいおい、ただでさえ強いワルデスがこれ以上強くなってどうするんだよ。本当にさ」
ワルデスは自分の無力さを痛感し、さらに腕を磨くことを誓ったようだ。
今回はワルデスの力の源のエンラがおかしくなっちゃうとか、色々と悪条件が重なったとはいえ、言い訳をしないで精進しようとするワルデスは素直にすごいなと思う俺なのであった。




