23.日本語の会話を教えてみました
十分少々飛び続けると、独特な匂いのする所までやって来た。
俺やコクリが拠点にしている薬草地帯の付近に来たということだな。
俺が薬草地帯に着陸をすると、近くにいたコクリが迎えに来てくれた。
「あら、おかえり、エンラ。リスさん達は守れたの?」
「ああ、大丈夫だ。俺が留守にしている間、大丈夫だったか?」
「ええ、大丈夫よ。それよりエンラ、カトカったらついに自分で食べ物をとれるようになったのよ!」
「おっ、それは本当か!?」
するとコクリのモフモフした毛からひょっこりとカトカが顔をのぞかせて小さな虫を食べている様子が見えた。
どうやらそういう虫を自力でとれるようになったんだろうな。
てっきり俺が食べ物をあげちゃったから、自分で食べ物をとらなくなっちゃうかと心配していたが、そこは大丈夫そうでよかった。
「ありがとう、エンラ。そういえばそちらにいる鳥さんはどちら様?」
「ああ、紹介が遅れて悪かったな。こいつはターガという鷹なんだ。俺のもとで働いてくれるらしい。まだ何をしてもらうかは決めていないが、今後コクリとも一緒に過ごしてもらうことになるからよろしく頼む。勝手に決めてしまってすまないな……」
「いや、別に構わないわよ。でもそうなるとやっぱり言葉が通じないのが不便よね……」
そうなんだよな。
動物達それぞれの言葉が違うから、意思疎通がとれないっていうのが問題なんだよな……
俺がみんなと意思疎通がとれても、今後一緒に過ごす仲間が増えれば増えるほど言葉が通じないことによるトラブルは増えて行ってしまう。
今の俺みたいに翻訳機があれば意思疎通はとれるようになるだろう。
だが、もし翻訳機が故障してしまった場合はどうする?
翻訳機は俺が女神ショッピングで購入するしか入手手段がないし、そもそも翻訳機は非常に高価なものだ。
今後いくつもの翻訳機が必要になるか分からないし、翻訳機に頼った生活をするのはできれば避けたい。
翻訳機を使わなくても意思疎通をできるようにするには、両者が理解できる共通の言語というものが必要だな。
少なくとも、仲間内では翻訳機なしで意思疎通がとれるようにしておきたい。
翻訳機なしで意思疎通をとる方法。
それはやはり共通の言語を使ってもらうしかないだろう。
そういえばリス達に日本語の文字を少し教えていたが、それの言葉バージョンの教育ができて、みんなに覚えてもらえればいけるんじゃ……!?
でも、肉体の構造的に日本語を発声することができないとかいう可能性もあるよな。
……いや、くよくよ考えていても仕方ない。
一回試してみるしかないだろう。
「なあ、コクリ。これはいつも何と呼んでいるんだ?」
俺はショルダーバッグの中から一つの木の実を取り出した。
「何って……木の実でしょ?」
「そう、”木の実”だ。ただその言い方だと、オオカミ語の”木の実”だよな? ちょっと違う言い方をしてみるから、俺と同じように発声してみてくれないか?」
「? ええ、いいけど……」
訳が分からないという様子で首をかしげているコクリ。
まあ今更木の実の言い方なんてと思うかもしれないが、大事なことだから協力してほしいんだ。
もうちょっと付き合ってくれな。
俺は翻訳機の入ったバッグを遠くへ置いてきて、再び木の実を持ってコクリの前に立つ。
そして日本語で”木の実”と言ったのだ。
……ベビートカゲの時は発声できなかったが、ドラゴンの今なら発声できたな。
ベビートカゲの時は何を言おうにも”クピャア”とかになっちゃったからさ……
さて、コクリは発声できるのか?
『き、の、み?』
おおっ!
発声できてる!
これは望みがあるんじゃないか!?
俺は翻訳機の入ったバッグを再び肩にかけて、コクリに話しかける。
「すごいぞ、コクリ! 日本語話せているじゃないか!」
「えっ? ニホンゴって何?」
「えっと、そうだな……そう、俺達だけの秘密の言葉ってやつだな! 他の動物や魔物達では決して分からない、俺達だけの言葉ってやつだ!」
「私達だけの言葉……?」
「そうだ。この言葉はきっとこの世界の人間だって知らないだろう。そしてこの言葉を使えば、俺はもちろん、他の種族の仲間とも会話ができる可能性を秘めているのさ!」
「他の種族とってことは、このカトカとも、あの鷹のターガとも話せるかもしれないってこと?」
「その通りだ! な、素晴らしいだろ?」
「そ、そうね……本当に、そんな事ができたら素晴らしいわね……!」
コクリはあまり理解していないようだが、何やらすごいことができるかもしれないということを感じ取ってくれたようだった。
まあどういう仕組みかとか理屈はあまり重要ではないから、とりあえずやってみるというのが大事だな。
ちなみにコクリと同様の方法でターガにも試してもらったのだが、ターガも日本語の発声をすることができるようだった。
となれば、少なくとも俺とコクリとターガの間では、日本語を使うことによって会話ができる可能性が高いということになる。
それだけでもかなり大きな収穫だな。
カトカはベビートカゲの今では発声できないだろうが、進化すれば話は別だろう。
俺みたいにドラゴンになればもちろん、その前のサラマンダー、トカゲになっても発声できるかもしれない。
つまり、望みはあるっていうことだ。
まだ日没まで時間はあるし、日本語でいう簡単なあいさつなどをコクリとターガに教えることに。
だが、この教育というものは想像以上に難しかった。
まず、日本語を伝えるには翻訳機を外して言葉を発声する必要があるのだが、意味を理解してもらうには翻訳機を通さなくてはならない。
自分としては常に日本語を話している感覚なので、伝わっているのか伝わっていないのかよく分からなくなってくることがあるのだ。
ただ、苦労の甲斐あって、少しずつだが、二人とも日本語を話し始めることができた。
その証拠に今まで言葉を交わすことのなかったコクリとターガの様子を見ていると……
『あなた、ターガ?』
『おれ、ターガ。あなた、コクリ?』
『わたし、コクリ』
ぎこちないながらも言葉を交わすことができている。
まあ名前とか、自分達の呼び方とか基本的な事しか教えられていないから、実際に会話できるのはまだまだ先だろうけどな。
頑張っている二人をねぎらう意味をこめて、途中でランチセットを俺の分含め三人分注文し、そしてたらふく食べた。
あっ、もちろんカトカに米粒と水をあげることも忘れていない。
カトカは自力で飛び回っている虫とかを食べられるようになっているから、食べ物の方はそこまで必要ではなさそうではあったが。
食事を終えた俺達はまた日本語の勉強を始め、それは日が沈むまで続いた。
「さて、今日も夜が来た訳だが、見張りはどうする?」
「私に任せて。エンラは寝てていいわよ」
「おれに任せろ。敵襲があったら真っ先に知らせるぞ!」
二人ともやる気いっぱいのようだな。
なら、ここは二人に任せることにするか。
一人よりも二人の方が敵の見落としとかないだろうしさ。
「じゃあ二人に見張りを任せる。コクリは地上を重点的に、ターガは空中や遠方を重点的に頼んだぞ。見張りを交代してほしかったり、危険を察知したらすぐに俺を起こしてくれ」
「ええ、分かったわ!」
「おう、任せとけ!」
自信たっぷりの二人の返事に安心した俺は一足早く寝ることにした。
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五日目:残金62698B
収入:なし
支出:ランチセット3000B
収支;ー3000B
※カトカ用の米と水は100粒の余ったものを使用したため購入はしていません
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