#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ
ツイッターで表題のタグが賑わっていて楽しかったので、便乗しようとして思いついた小ネタ。
人間さんの一人称からどうぞ。
ヒュー! 絶景かなー!!
いやぁ良かった、霧だか雲だかに呑まれてやべえと思ったけど、無事に見晴らしのいいとこに出られたぞー!
うん、知らない景色だけどな!!
はーやれやれ、こりゃ完璧に迷ったな……皆ともはぐれちまったし。
俺は背負った荷物をよいせと下ろし、手近な岩に腰を落ち着けた。とりあえず、なんか食おう。腹へった。空腹は人間を悲観的にするからいかん。
燃料セットして湯を沸かして……っと。
おもむろに取り出しましたるは、大好物のカップ焼きそば! ぺりぺり蓋をはがす時点でもう、だいぶ気分が上向いてきた。
小袋を取り出して、かやくを開けて。ソースと中華スープの素は横に置いて。
湯はまだかな。お、よしよし、沸いた沸いた。こぼさないよう慎重に線まで注いで蓋を閉め、ソースの袋を温めついでにおもしにする。
待ってる間にスープの素をマグカップに空けてスタンバイ。時間は長めに4分……5分待つかな? なんかここ、えらく見晴らしいいし。
山の上でカップ麺つくったら、湯が100度じゃないから麺が戻りきらなくて不味い、っていうけど、長めに待てば問題ない。ちょっと伸びるのは仕方ないが、幸い俺はむしろ伸び気味のが好きだし。
何より、額に汗して登った山で、広大な眺めを楽しみながら食うのはなんだって美味い。まぁ知らない景色だけど。あとなんか絶対日本じゃねーだろって感じだけど!
よし、もういいだろ。湯はもちろん捨てない。中華スープを作るのだ。
湯切り穴からマグカップにとぽとぽ湯を注いで、っと。蓋を開けたら最後にソースと青海苔をかけて、いっただきまーす!
……くぅっ、美味い! こってりしたソースの深い味わい、青海苔の香り、これぞ日本の生み出した傑作!
眼下のお空に、あれ何ですかねフェニックスですかね、妙なもんが飛んでるけど。日本じゃないどころか地球じゃないっぽくなってきたけど。
この焼きそばが俺の正気を日本につなぎとめてくれる……っ!
頂上方面を見上げると、どえらいもんが視界に入りそうなんで、断固として焼きそばに集中する。美味い。どんな状況でも焼きそばは美味い。
スープを飲んで腹の芯からあったまって、ほっと一息。やれやれ。
さて、これからどうすっかなー。
ゴミとかあれこれ片付けながら、思案を巡らせる。
――ちらっ。
うん、やっぱ上は駄目だ。下りるしかない。どうせなら登頂したい気もなくはないけど無理だ死ぬ。と言ってこのまんま下りても、知らない山で迷って死ぬよなぁ。
って、うわ、うわうわ、こっち下りて来るのかあれ。いや待って俺何もしませんからすぐお暇しますからこっち来ないでくださいマジお願いします!!
大急ぎで荷物を担いで腰を浮かせる。斜面を駆け降りようとして、はたと気付いた。
あれ、なんか変な霧が出てきた。
霧っていうかなんだあれ、ちっこい雲がピンポイントで俺を狙って湧いてきたんですけど!?
いや待て、もしかしてあそこから帰れるのか?
白いもくもくに目を凝らし耳を澄ませると、知ってる声がかすかに届く。あ、俺のこと捜してるじゃん。皆いい奴だなぁー!
背後を振り返る。下りてくるかに見えたでっかいのは、その場に留まっていた。やっぱドラゴンですよねーどう見ても! わははは!
変な笑いが出そうになるのを堪え、向き直ってぺこりと一礼。
きっとあれ、山のヌシかなんかだ。ひょっとしたら、この雲を呼んでくれたのかもしれない。
とりあえず見逃してくれてるうちに退散!!
※ ※ ※
「変なニンゲンでしたね、ヌシ様」
《……うむ》
世界の綻びを感知して、何事かと様子を見に出てみたら、珍妙なニンゲンが一匹、綻びから現れたのだ。略奪目的かと思いきや、座り込んで途方に暮れている様子。
ただの迷子にしても油断はできぬと警戒していたら、なんと食事を始めたのだから、ドラゴンも呆れてしまった。
《たまさか迷い込んだのであろうが、随分肝の据わった奴であったな》
「なんだかすごく美味しそうな匂いでしたねぇ~! あんなの初めてです! どんな味がするんでしょうね?」
《さてな。味はともかく、ニンゲンの食べ物はそなたらにはおおむね毒だ。もしも手に入ることがあっても、口にせぬほうが良いぞ》
「そうなのですか!? あんないい匂いでも、食べたら、生きているのが嫌になりますか!」
背赤が黒い目を真ん丸にして驚く。ドラゴンはつかのま瞑目してから、忍耐強く説明してやった。
《むしろ美味に感じるかもしれぬぞ。だが、それが身体をじわじわと害するのだ》
「うわぁ、怖いです……やっぱりニンゲンには近付いちゃ駄目ですね」
《それが賢明であろうな》
たとえ悪気や敵意を持たぬ相手であっても、一線を越えて親しむべきでない。ニンゲンとは――否、そもそも異種族とはそういうものだ。それを忘れて近付きすぎたら、必ず痛い目に遭う。
二度も噛み付かれてしまった己のように。
しみじみ自戒と覚悟を新たにそんなことを考え、彼は足元の小さな同居人を見る。すると背赤は、尻尾を揺らしながら照れ笑いを返した。
「えへへ……ヌシ様に褒められちゃいました。わたしも少しは賢くなったみたいで、嬉しいです」
幸せ満面の笑みがまぶしい。
ドラゴンは、うむ、と曖昧に唸って、ごまかすように雲の彼方を眺めやったのだった。
(終)




