第八話 顛末
7442年4月20日
翌朝、起床した俺はいつものようにランニングをしてからまたボロに着替えて適当な飯屋で適当な朝飯を食ってからジャンルードの店に行った。
この時間ならべグルに会うことはあるまい。
暫く外から様子を窺い、テーブルが全部埋まってから店に入った。
当然相席になるが、もともとそれが目的だったから問題はない。
俺は比較的荒っぽそうなあんちゃんの座っているテーブルにつくとあのまずい朝食セットを頼んだ。
大賎貨5枚を代金として渡し、こんな糞まずい飯を美味そうに食っている目の前のあんちゃんにひとつ愛想笑いを向けると硬い黒パンに齧り付く。
「なんだか腹いっぱいになっちまったなぁ」
渋い顔で半分くらい食ってから独り言のように呟く。
今まで俺に大して関心を払っていなかったあんちゃんは、俺の独り言を聞くとちょっと先の尖った耳をぴくんと動かした。
精人族か。
俺は続けて呟いた。
「ここらで何とか儲けねぇとなぁ」
エルフのあんちゃんは食べるのを中止し、スープのカップを持ったままそれを覗き込んで独り言を呟いている俺に注目したようだ。
「おい、兄ちゃん、不景気な面してぶつぶつ言うなって。ところで、そのパンだが、食わないのか?」
物欲しそうな顔で俺に話しかけてきたエルフのあんちゃんに、俺は今気がついたというような表情をして言う。
「ん? ああ、俺に言ってるのか。うるさかったか、すまんな。つい口をついて出ちまった」
「ああ、いいさ、気にすんな。で、そのパン、食わないのか?」
こんな店の食い物をあれだけ美味そうに食っていたんだ。やはり意地汚いんだろうな。
別にいいけどさ。だが、うまく乗ってくれたようだ。
「ん? ああ、食いたいのかよ?」
俺はわざと下品にニヤつきながら言った。
「あ、いやぁ、食わないなら、な。で、どうなんだよ」
俺の表情はここらあたりをうろつく低所得者特有の厭らしい顔つきになっていたんだろう。
あんちゃんは少し気圧されたようにしながらもしっかりと俺の黒パンを見ながら言ってきた。
厭らしい表情を崩さないように意識しながら言う。
「別にくれてやるのはいいがよ、なんか仕事ないか? 一気に儲けられそうなら言うこたねぇけどよ」
「んな仕事ありゃ俺がやってんに決まってんだろ。あるわきゃねぇ。もういいよ。おりゃ行くぜ」
そう言ってエルフは席を立ち、出ていった。
うーん、そう上手く行くはずもないよな。もう少し考えたほうがいいか。
こいつなら荒っぽそうだし、べグルの手下かも知れないと踏んでカマをかけてみたんだが、違うようだ。
そりゃそうか。
聞いた話じゃべグルのグループは2~30人程度らしいから、簡単に出会えるはずもない。
なぁ、あんたにももう分かったろう?
数日前に俺をうんこ漏らしの貧乏人呼ばわりした冒険者崩れ達が言っていた『そういやぁよ、べグルの旦那っていやあ、何か大きなことやるらしいじゃねぇか』という言葉からそれについて情報を集めようと思って来たんだよ。
あ、思い出したらムカついてきた。忘れてねぇぞ、ジェリルのブスが。
あのブス女のことはどうでもいいが、べグルのやろうとしている“何か大きなこと”ってのに興味がある。
まぁあの冒険者崩れの人生の敗北者どもが言っていたことから類推して、大方のところどっかの隊商でも襲うのかと思ってはいるんだけどね。
その場所と日時くらいは確認したい。
“大きなこと”をやるならべグルが直接指揮を執るだろうし、それがキールの外なら好都合だからな。
それまでにどっちのべグルが俺の目標なのか確かめておけば、街の外の誰にも見られないような場所で遠くから狙撃できるだろ?
あと数日でドーリットに行ってあの連絡員を締め上げて情報を取り、どっちが俺の探しているべグルか突き止める。
よしんばあの二人じゃないにしても連絡員から伸びる糸を伝えば俺の尋ね人である真のべグルであるベグルBにたどり着けるだろうよ。
あいつはいつも口が半開きで間の抜けていそうな面だし、どう考えてもべグルなり組織なり(そんなもの無いと思うけど)への忠誠心があるようには見えない。
俺に律儀に礼を言って来たのだって単に俺に恩があるからに過ぎないだろう。
マッチポンプの恩だけど。
そういやぁ、面構えと忠誠心も関係ないか。
だが、あの連絡員はドーリットに住んでいることは確かだし、あそこで生まれ育ったらしいから、しょっちゅうべグルと接触があるとは思えない。
単に金の繋がりがあるだけだと考えてもいいと思う。
最初に殺せなかった時は悔やんだものだったが、結果的に生かしておいて良かったな。
なんか憎めない奴なんだけどさ。
だけど、ミュンの為ならたかが口封じ程度の理由だとしても俺にとっては充分殺す理由にはなる。
あいつは馬鹿そうだったけど、ミュンの死亡を偽装した時にも一応はきちんと確認してきたから、ミュンの死はベグルBに伝わってはいると思うけどね。
あの後何もなかったし。
まぁ、念には念を入れて、と言う事だ。
初心忘るるべからず。俺はミュンに恩を返すのだ。
こうして再び気合を入れ直して、ちっとも旨くない食物を食ったり、無駄に奢ったりしながら情報収集に努めたが、結局なんら新しい情報を得ることが出来なかった。
せいぜい、べグルが何か大きな稼ぎを計画しているらしいと言う、裏付けが取れたくらいだ。
・・・・・・・・・
夕方近くなり、俺は着替えてから『リットン』に向かった。
へっへっへ、今日こそあのチラ見しか出来なかった超好みのいい女とパツイチ決めてやるぜ。
念入りに手櫛で髪を梳かし『リットン』の扉を開ける。
あのジャバ野郎とさっさと話をつけて遂にモノホンのVIP待遇で超一流のサービスを受けてやる。
扉を開け、相変わらずフロントに姿勢良く立っているセバスチャンという名の紳士に会釈をする。
すぐに俺に気づいたセバスチャンは、また談話室のような、ああ、待合室なのかな? に招き入れ、俺に椅子に掛けて待つように言うと、姿を消した。
ハリタイドを呼びに行ったようだ。10分以上待たされた前回よりもかなり早くハリタイドが現れた。
「おお、グリード様、ようこそおいで下さいましたな。お待ち申し上げておりましたぞ」
にこにこと不気味な笑顔を貼り付けたジャバがなんか言っている。
「いえいえ。して、結果はいかがでしたか? ご採用いただけますか?」
俺も負けじとにこやかに返した。
「ええ、ええ、勿論採用させて頂きますとも! あのような素晴らしい品と出会わせていただきました恩は忘れませぬぞ! 是非ご販売頂きたい! 当店の上得意様も『思わず声が出た』と、それはそれは大層なお喜びようでした! つい私も試してみたのですがね、あの品と比べると今までのものがクズ以下にしか思えませんな。私も年甲斐もなく励んでしまいましたよ!」
うむ、そうだろうとも。ジャバは続けて、
「あの品は間違いなく大評判になりますぞ。貴兄には本当に感謝致します。あ、そうそう、価格ですが……」
む、そう言えば俺はコンドーム、もとい『鞘』を売り込んだのだった。
「この位でいかがでございましょう?」
そう言って相変わらず醜い芋虫のような指を両手を使って八本立てた。8000Zか。
兄貴の想定よりは少し安いが、俺の想定した金額よりはかなり高い。
だが、つい前世で営業をしていた頃の血が騒いでしまった。
「むぅ、いくら小さな商品とは言え、8000Zとは……あれは製造に相当手間がかかるものなのですよ。それを考えると10000Zは欲しいです」
俺がそう言うと、ジャバは畏まったような表情で言ってきた。
「確かに、確かにグリード様の仰ることはいちいちご尤もです。申し訳ありません。10000Zにて購入いたしましよう。ですが、非常に素晴らしい品とは言え、やはりあれは10000Zが限界だと存じます。
私もこのようなしがない小店とは言えど、真っ当に、そして正直に経営している以上、従業員に給料も払わねばなりませんし、お上に税もきっちり納めねばなりません。
勿論あの製品の価格分のサービス料の上乗せは考えておりますが、おいで頂いているお得意様も皆様がグリード様のような貴族様方のように非常に裕福、というわけではございません。
私めが勝手に想像するに、いずれは当店以外にも広められるのでしょう? であれば、あまりに高価だと他店では買い取れないでしょう。あの商品は当店で独占したいのは山々ではございますが、おそらくそう言った類の物を目指しているのではありますまい」
む、流石に経営者か。
俺はジャバの容姿とその生業から、欲望に忠実で意地汚く、卑小な性格だと決めつけていた。
だが、今の言はそれらを覆すだけの説得力がある。
俺の贔屓目かもしれないが、それなりに経営は真面目にしているようだし、コンドームの普及についてにも考慮が及んでいるようだ。
ちょっと突っついて確かめてみたくなってきた。
「では、どういったものを目指しているとお考えになられましたか?」
ジャバは俺の発言に少し目を見張ったが、すぐに答えてきた。
「これは異なことを仰いますな。知れたこと。目的は大きく二つでございましょう。
一つは言わずと知れた品質改良による高級路線。もちろんこれには様々な意味が含まれます。豚の腸と比較しての見た目や装着感、行為中の触感も大事ですが、何よりあの高級品であるはずのゴムを使って行為に及んでいるという贅沢感の演出は非常に大きな点でございましょう。
もう一つは、実際に使ってみて確信いたしましたが、当店の従業員とお客様である殿方の間で広がる病気の蔓延を防ぐこと、ではございませんかな? あの製品は流石に原料が違うからでしょう、豚の腸と違い、非常に薄いながらも感触や温度を伝える性能はそれを軽く上回り、そして、比較にならないほど丈夫です。この丈夫さが本来のこの製品の特徴ではないかと愚考致します。豚の腸は少し激しくしただけでダメになってしまいますからな。それに加えて私の考えを述べさせていただきますと製品に必要なゴムの量自体が少ないことも大きいかと存じます」
ふむ、俺は耐久性自体は豚の腸の方が上かも知れないと思っていたが、どうやら違うようだ。豚だってステータスや鑑定で【豚(家畜用品種改良済み)】とか出てるから地球の豚と同一視していたが、似て非なる可能性もあるしな。と、言うか、豚の腸なんてソーセージに使うくらいしか知らなかったわ。あとホルモン焼きか。
あ、そう考えると地球の豚の腸の耐久性もゴム以下だな。生のソーセージを齧るくらいの強さではコンドーム、というかあの薄いゴムですら破れない。
だが、今までのジャバ・ザ・ガマガエルの言にはいろいろな意味が示唆されている。
第一に俺の目的、と言うより、コンドームの性格をほぼ完全に言い当てていること。
これだけで観察力の高さが推し量れる。
そして第二。使ってみて、豚の腸よりいいと言えるのは当たり前だが、そこから単なる使い心地の向上だけでなく、耐久性の向上による病気の蔓延防止に考えが至る思考力についても相当のレベルを有していると言えるだろう。
顧客からも意見を聞いたのだろうが、自分の経験も元に、漫然とした感想に終始することなくすぐに整理して言葉に出来るという事もポイントが高い。
流石に兄貴が薦める店の経営者であると言う事か。
兄貴関係ねぇけど。
そして一番大きなポイントは独占しようとしないことだ。
独占自体は悪いことではないが、生活密着の度合い、つまり必需品としての需要の大きさと供給力やマクロ的な経済の中で決定されるべき価格によって利益は一時的もしくは限定的なものになってしまうことはままある。
特にこういった産業の場合、商品とされる従業員の質が大切なことは勿論だが、総合的なサービスやそれを提供する価格については大きく道を外すことは難しい。
コンドームはあくまでサービスに付随するものであって、これを目当てに来る客はいまい。いたとしても最初だけだろう。
ゴムの使用量が少ないことからやろうと思えばそれなりの数が作れるであろうことにも言及しているしな……こいつ……出来る。
正直なところ舐めていた。
少しだけ手持ちを売って、兄貴に適当に手紙を書いてお茶を濁してしまえばいいやと思っていたが、こいつ相手にはきちんと接したほうが結果的に得する気がする。
こんな商売でも流石に鶏口と言うべきだな。
他の店の主人はどういう感じなのだろう?
みんなこいつ並に考えられるのだろうか?
話に聞いただけだがこの『リットン』はこいつが一代でここまでにしたらしい。と、するとこいつが特別なのかも知れない。
もう少し話を聞いてみるか。
「流石はハリタイド様です。御目が高い。そこまでご理解頂いているとはこのグリード、感服いたしました。仰る通り『リットン』に独占で卸すつもりはございませんでした。そして、本来の目的まで見抜かれる眼力、敬服いたします。これは私の予想に過ぎないのですが、ハリタイド様は『リットン』をこのままにするおつもりではございませんね?」
カマをかけてみた。
想像通りなら拡大、それも単純に今の店を大店にするということではないはずだ。
二号店、三号店やことによったらチェーン展開まで……まさかな……そこまではないか。
いくらなんでもオースの文化レベルでは中途半端だとしてもチェーンまで考えついていたら転生者を疑うレベルで異常過ぎる。
オースでは16世紀くらいまでの地球と同じように商店や職人などに弟子や丁稚働きなどをした従業員が独立する際には全く別の店として扱われる。
当然出身店とある程度の繋がりはあるのが普通だが、地球で一般に言う『系列』などにはならない。
同じ屋号を使う暖簾分けなどの、ある意味でのボランタリー・チェーン制度が早くから社会的に成立していた日本が異常だっただけだ。
その日本にしても本格的なボランタリー・チェーンが確立されたのは20世紀に入ってからだし、フランチャイズ・チェーンなんてカーネルおじさんの鶏唐屋が出来るまで影も形もなかったのだ。普通は独立した者は己の才覚のみを頼りに独り立ちするのだ。
「む……グリード様には隠し事は出来ないようですな。まだ誰にも話していない私の頭の中まで見通されている気分になります。まさにご明察です。幸いにも私は平民ですから、国内の移動に障害はございません。近隣の……そうですな、ペンライド子爵領にでも同じ『リットン』を誰かに任せて一から作りたいのです」
むぅ、やはりな。
流石に本格的なボランタリーやフランチャイズではなさそうだ。
しかし、二号店以降についての発想があったのか。
だが、やはりこいつが異常なのか。イボガエルは続けて、
「私は『リットン』と名のつく店に行けば極上のサービスを受けられる、ということを世の常識にしたいのですよ。そのためにはこの『リットン』にだけあの商品を卸されても私にとって都合が悪いのです」
と言って締めた。
こいつとはことによったら長い付き合いになりそうだ。風俗店だけやらせるには惜しい人材だろう。
「なるほど『リットン二号店』『三号店』ということですか……。確かに素晴らしいお考えです」
現実の地球同様、オースにはまだ銀行などという組織は存在しない。
地球でも銀行が出来たのは15世紀くらい。シンジケートはもっと古くからあったがあくまで原型であり、主体は都市国家政府だったはずだ。
オースにシンジケートがあるかどうかまでは知らないが、ウェブドス商会の様なロンベルト王国中に取引先を持っている大店でも二号店や支店など聞いたこともない。
貨幣は神社が流通状況を見て作っており、各国で貨幣価値は共通らしいから両替商もないしな。
「!! 二号店……いい響きです。グリード様はものの表現が巧みですな。いや、流石はゴム生産のバークッドご出身でいらっしゃるだけあって非常に高い教養をお持ちのようだ」
あれ? そう言えば俺、出身地のこと喋ったっけ?
少しきょとんとした俺の表情を読み取ったのだろう、ウシガエルが言う。
「ああ、ゴムといえばバークッド産でしょう。そしてそこのご領主はグリード士爵家。ウェブドス侯爵の家紋プレートもお持ちなら簡単に予想できますよ」
それもそうか。
最初に来た時にセバスチャンにステータスも見せたから俺がグリード士爵家の次男だと言うことも判ってるはずだった。
「では、価格ですが、単価を10000Zにて卸すよう当家に伝えましょう。最初の納品は7月以降になり、以降だいたい3ヶ月毎にバークッドの隊商がキールに来ます。一回の納品の数量はどの程度必要でしょうか?」
「そうですな、3ヶ月毎となりますと……うーん、少しお待ちください」
そう言うとカエルヒトモドキは芋虫のような指を折って計算を始めた。
待ってられるか。
「一日にだいたいどの程度の数のお客様がいらっしゃいますか?」
「え? あ、あぁ、だいたい30人強というところですな……」
「だいたい6000個弱というところでしょうね。ですから600パックで宜しいでしょう。多過ぎた時には次回の発注量を少し控え目にすれば済みますが、少ない時は暫く我慢していただくことになってしまいますが」
でかい口をぽかんと開けるなよ醜いな。
ぽかんと開けた口をまた開いて言う。
「流石はグリード様、計算が早いですな。ですが、どういう理由でその数が?」
「一日30人が3ヶ月、つまり90日と考えます。これで3ヶ月間の来店者数は延べで2700人と計算できます。但し一日の来店者数は30人『強』と言うことと一人が何ラウンドかすることもあることを考慮すれば倍ちょいくらいでいいかな? と思いました」
「ふむ、確かに仰る通りです。ご予想頂いたお考えは正しいと存じます。特に例の商品を使えば屠殺場の休場を考慮しなくて済みますから、全日営業可能になりますからな」
俺はにこにこと頷いてやった。そのくらい考えたさ。
ヒキガエルは続けて
「では、10000Zで600パック分、6000万Zですな」
と自信満々に言った。
は? こいつ、計算出来ねぇのか?
あ、俺はてっきり一パックだと思ってた。
一つ10000Zってそりゃいくらなんでも暴利だし、普及なんか夢じゃねぇか。
兄貴は豚の腸が一つ1000Zくらいだと言っていた。
同じくらいの価格にしないと普及しねぇよ。高くても一割高くらいだろ。
「いえ、価格は一パックで10000Zですよ。ですから600万Zですね。私共は豚の腸と同じくらいの価格で供給したいと考えておりますので」
「!! 何と。そうでしたか。これは確認もせずに値切るようなことを申し上げて誠に申し訳ございませんでした! 当店の価格は値上げせずに済みそうです。本当に申し訳ございません!!」
机に頭をこすり付けそうな勢いで謝って来た。
あ、いや、これでも使用する原料の量から考えるとぼったくりもいいとこなのでやめてくれよ。
元々俺は単品で500Zしない値段でも儲けが大きいと考えていたんだ。
正直言って生産に手間はほとんどかからないし、手間なのは包装だけなんだよ。
それだってこの程度の数、全員でやれば数時間だろうし。
なんたって今では15人くらい作業員がいるんだしな。
一人頭40パック。コンドームを10個くるくる巻いてゴム袋にローションと一緒に入れて口を閉じるだけなんだからさ。一日もかからないくらいの稼働で金貨6枚なら無茶苦茶美味しい商売なんだよ。
「いえいえ、お気になさらず。私も確認せずに不服を申し上げたような無礼な発言をしてしまったことをお許し下さい」
その後は三ヶ月毎の騎士団への納品の際に騎士団まで受け取りに行って欲しいことなどを話し、いよいよお待ちかねの話に移ろうとした。
「さて、グリード様、商談も無事に済みましたし、お近づきの印に是非ご接待させていただきたいのですが、お時間はございますかな」
と来たもんだ。
うっひょおぉぉぉぉ。
「そんな、私のような若輩に……お気遣い痛み入りますな(にへら)」
「では……セバスチャン! 例の用意だ!」
おお、用意とな。
予め用意していたと言うのかね!
流石、ビジネスの先を見通すハリタイドさんだ。感心するぜ。
すぐに現れたセバスチャンの後をついて行く。
俺の後ろにハリタイドさんもそのぶよぶよの体をお運びになられた。
うんうん、オーナー自ら接客に遺漏のないように申し渡すのか。
そんな、そこまで気を使ってもらうなんて……悪いな。
あ、あれ? あれれ?
そっちは出口のはずですよ?
セバスチャン?
あれ? 出てったよ。
ハリタイドさんもにこにこしながら不思議そうな所を見せない。
ああ、これはきっと、一度出て、裏口からでも入りなおすのかな?
んなわきゃねぇよ。
俺は今……『ダックルトン』の個室でハリタイドとセバスチャンと一緒に食事をしている。
つまり……接待だよな。
長々とコンドームを引きずってすまんかった。あとはたまーにネタに出るかも知れないくらいだから勘弁してよ。




