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ラーゴの湖の復活

それから、コツを掴んだティリーエは空を飛び回り、上空からより歩きやすい道や崩れていて通れない経路を知らせたり、野営地に向いた場所に案内するなど、これまでとまた違う形で活躍した。


その甲斐あってか、行きは4日かかったが、帰りは3日でラーゴの湖まで戻ることができた。

ただもう夕方に近づいていて、陽は翳りつつあった。



「「「うわ〜!!! 綺麗…!!」」」



ラーゴの湖は、山の泉からの川や雪解け水の流れが幾筋も湖に飛沫を上げて降り注ぎ、周囲は(もや)がかかったようになっている。

その靄に陽ざしがかかって虹が浮かび上がり、それがとても綺麗で、疲れた皆の身体と心を一気に癒やしてくれた。


最後の団員が到着したのを確認し、ティリーエも地に降り立った。

帰りは全く歩いてないので、足は全然疲れず、ティリーエはかなり楽だった。

空を飛ぶのは最初こそ怖かったが、本当の鳥になったようで、途中からはかなり無茶な飛行をしたり、隊列から離れて崖下の珍しい薬草を採ったりしていたのだ。



「ティリーエ、ご苦労だった。君のお陰で安全な道を移動できたし、過ごしやすい野営地を見つけてくれたお陰で夜も休むことができた。ありがとう」


セリオンから御礼を言われて慌てて頭を下げる。


「いいえ、コピルがこの翼を作ってくれなければ、こんなことは思いもつきませんでした。しかも、結局私だけ楽をさせて頂いて… むしろ申し訳ないです」


最後の方は声が小さくなった。


途中、他の人に翼を背負わせてみたのだが、うまくコントロールができなかったのだ。

荷物を運ぶように、右から左へ、とか上から下へ、などと動かすことはできる。それはつまり、ティリーエが思うように移動することになる。翼の持ち主の意思や希望は丸々無視する形になるので、あまり意味がなかったのだ。

コピルの翼は、ティリーエ専用ということになった。それから少し練習をしてティリーエの意思通りに羽ばたき、傾き、うねり、翻る。この3日で手放せない相棒となった。



「いや、そんなことは無い。そもそも、団員でも兵士でもない君をあんなに険しい山に連れて行くことが無謀であったのだ。君に大事がなくて良かった」


「我々からも礼を言う。大変な旅ではあったが、荷物は少なかったし、怪我は都度治癒して貰い、料理まで頂いて、平時の遠征よりかなり良い旅だった。

皆の疲れも軽減されている。ティリーエ殿のお陰だ」


スヴェン師団長からも御礼を言われ、いつの間にかその後ろに並んでいる第2、3団員、兵士達が一斉に敬礼をした。


「ありがとうございます!」

「ありがとうな!」

「助かったぜ!」

「助かりました」


「いえ、あの、こちらこそ… 足を引っ張ってしまいましたが、皆様が助けてくださりありがとうございました」


ティリーエも顔を真っ赤にしながら御礼を言った。


「さ…さぁ、夕飯にしましょうか! 実は先程、大きなシシを見つけました」



「何っ!? シシだと!」

「久々に肉に齧り付きたいな!」

「干物はもう飽き飽きだ。力が出る肉、食べたい!」

「どこだった??」



そうして、テント設営や火を起こす組と、肉調達(狩猟)組に分かれる。


「暗くなる前に仕留めよう!」


どこにそんな力が残ってるのか、兵士達は果敢に再び森に入る。

ティリーエは空から森をくまなく見つめ、シシや鹿を見つけると、彼らに場所を伝えた。

腹を減らした彼らの力強い弓矢の前には、猛獣とてただの獲物、食料となった。







「あ〜!!美味しい!!」

「これこれ!!この味だよ〜! クゥ〜!!」



小型のシシと、大きな鹿2頭の収穫があり、シシは身をこそいで、たくさんの山きのこが入った鍋で煮て、汁物にした。

鹿は骨付き肉の形にバラして火で炙り、それぞれ好みの焼き加減で食べている。

酸っぱい木のみで作ったソースも好評だ。


レアが好きな兵士はまだ血が滴る状態で噛みついているが、それはそれは幸せそうで、見ているこちらまで笑顔になる。


セリオンはといえば、彼はしっかり焼く派だから、真剣な眼差しで4面を丁寧に焼いている。

アイシャはスヴェン師団長と一緒にきのこ汁をすすっていた。



肉の焼き方って、性格が出るのかしらなどと思いながら、ティリーエもきのこ汁に口をつけた。


「美味しい…」


きのこは毒があるものが大半だ。

だから逆に、食べられるものだけ覚えていた。それが役に立って良かったと思う。

なめこ茸があったから、汁は少しトロミがついていて、冷めにくく、お腹がじんわりと温かくなった。

シシ肉の僅かな臭みに、きのこの独特な風味が良い意味で調和していて美味しい。



満たされたままの湖には、月や星が映って綺麗だ。

湖は出発前に魔法(と聖力)で人為的に満たしたが、湖から市井につながる川は長く干上がっていたわけだから、流れ出ることでかなり減った筈だ。

しかし、山の泉からの川が開通して湖への流れが戻ったことで今も地面ぎりぎりまでたっぷりと水は張っている。



「良かったわ」



人は水が無ければ生きていけない。ようやくティリーエも任務完了が実感でき、ひと息ついた。


透明度の高い綺麗な雪解け水、湧き水は絶えず湖に注がれ、月と星を揺らしていた。



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