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干ばつ②

セリオンとスヴェンと5人の魔術師団員は、湖の回りを囲むように立った。

そして、両手を乾いたクレーターに向けた。


ドババババババババババ

ドババババババババババ…



滝のような水流が注がれ始め、氷柱も次々と放り込まれる。

特にアイシャが放つ水流は桁違いの勢いだ。



「さすがですね!」


隣でティリーエを案内していた魔術師が感心して言った。女性であの魔力量はかなり珍しいんですよと話しながら移動する。

ティリーエは湖が一望できる高台に立つ予定で、案内されている途中だった。



「怪我が原因でしばらく戦線を離れていて、つい先月魔塔に復帰したようですが、以前と全く変わらない魔法力に安心しました」


にこにこしながら丘を登っていく。

なるほど。

アイシャさん、これまで会ったことがなかったのは、そんなことがあったからなのねと思いながら、丘の頂上に立った。



そこは突き出た丘で、ラーゴの湖の全貌が見られるスポットだった。

平時なら、見下ろせばキラキラ光って空の雲を映す綺麗な鏡湖を見ることができるのだが、今は底にやっと少し水が溜まっているだけだった。

湖を取り囲んだ7人の手から、水は注がれ続けている


どうしてもアイシャに目が行くティリーエは、アイシャが少し飽きたのか、スプリンクラーのようにわざと細かく水を蒔き散らし、虹を作りだしている姿に目を留めた。

巨大な滝のような水しぶきに、綺麗な虹が浮かび上がっている。


ここからは表情までは伺えないが、無邪気に笑っている姿が容易に想像ができた。

あ、向かい側のセリオンから合図で、どうやら注意を受けているようだ。

その笑顔を想像するだけで、なんだか胸がチクチクしてくる。


「では、ティリーエ様、お願いします」



ティリーエは、少し祈るポーズをとり、心を落ち着けた。

そして胸のもやもやと、行き場の無い気持ちを吐き出すように、両手を広げた。







「こりゃ何時までかかるんだろ」

「団長は日暮れまでとか言ったが、さっきからほとんど増えているように見えないな。このペースじゃ、夜中までかかるんじゃないか」

「思ったよりデカイ湖だな…」

「アイシャとスヴェン師団長は群を抜いて水量を出せているが、それでもまだまだだな…」



野営部隊は食事の時間になっており、適当な食料をあまり調理もせずにムシャムシャ口に運んでいる。

全員分のテントの設営を終え、湖の様子を肴に、ただのパンと干し肉をふやかしたものを齧っていた。



「アイシャが虹を出してるぜ」

「あー、まぁ綺麗だな。それよりさ、昨日はティリーエちゃんが美味しい料理を作ってくれたのによ。今日はコレぽっちか」

「遠征って食事だけが楽しみなのに、これじゃ元気出ないなぁ」

「ティリーエちゃん、湖のほうじゃなくてこっちで料理してくれたら良いのに」

「今からでも呼んで来ようよ、何かつまみを作ってもらお!」

「ティリーエちゃんだって、あっちよりこっちで料理した方が役に立てて喜ぶんじゃない?」



突然の粗食に不満タラタラな他団員は、ティリーエを湖復活より野営の方に引き込みたいようだ。



「あ、ティリーエちゃんだ」

「どうしたんだろ」



そんな団員の前で、丘の上にティリーエが登ってきた。

そして目を閉じて胸に手を合わせ祈り始める。



「ああ、祈るのか。聖女だもんな」

「ああして祈る姿は聖女様だよなぁ」

「結果、可愛いもんな」

「祈るだけでどうするんだろ」

「知らん。けど、料理できて可愛いんだ、聖女様最高!」



酔いが回ってコップを掲げ軽口を叩き笑う団員達が見守る中、ティリーエはスッと手を広げた。


ここ数日のもやもやした気持ちと苛立ち、もどかしさと疑問を、声なき声として手に込める。



グレーの瞳をカッと見開き、指を精一杯開く。



(結局、アイシャさんて、セリオン様の何なの〜〜!!??)


ズゴ…

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…    





「お… おい見ろよ!! 下!!!!」

「え? 何だ、よ… 」



にやにや楽しんでいた団員の顔が少しずつ青白くなる。


湖の底に溜まりかけた水が1000000倍くらいに増え、渦を巻き始めていた。

なんなら、湖底を削るような轟音を響かせ、海の渦潮のようにとぐろを巻いて飛沫を上げている。

その渦はどう見ても、ティリーエの手の動きに従って動いている。大蛇のように龍のように、徐々に深くなってきた湖は黒く見え、飲み込まれそうな怖ささえあった。



「えっ…? あれ、ティリーエちゃんが??」

「いつか、鍋を洗ってる所を見たけど、それと同じ魔法かな…。だけど、その時の量とは桁違いだ…」



ティリーエは無心で水を操った。

体からほとばしる得体のしれない気持ちを、やつあたりさせて爆発させているのだ。

皆から遠くて顔が見えないのが幸いで、ティリーエは今、今世最悪の顔をしていた。




ティリーエが下から増やす渦潮の勢いに、上から注いでいた7人の魔術師は手が止まりド肝を抜かれていた。


「ティリーエさん、すごい…」

「聖女、ヤッバ…」



ティリーエは生成する力がない。

複製だから、威力や量は乗算なのだ。

2倍、4倍、8倍…  水嵩が増えるたび、次の瞬間にはその倍に増える。

足元から迫りくるようにさえ見える渦に、何人か尻込みして後ずさったほどだった。



一心不乱に湖を埋めるティリーエが、聖力を半分ほど使い果たして少しすっきりした頃、つまり40分程度で、湖は満タンに満たされたのだった。




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