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干ばつ①

翌朝早く発ち、夕方近くに西の街の端、ラーゴの湖に着いた。

ここに着く前、昼過ぎくらいの時から既に、かなり地面や植物の状態が悪くなっているのを感じていた。

川が見当たらず、馬に水を与えるために予定路を外れる必要まであったから、かなり時間がかかってしまったのだ。


ラーゴの湖は、アステロス山脈の麓にある湖で、アステロス山脈は隣の国との国境になっている。

険しく高い山だからあまり登った者はいないが、山頂から眼下に広がる雲海はとても綺麗であるらしい。

ただ、雲海に阻まれて、山から見下ろす隣国の様子がどのようであるのかも、見た者はいないと言われている。



着いてみれば、ラーゴの湖はまさしく干上がっていた。

巨大な隕石が落ちたように陥没したその場所は、落ちたら絶対自分では上がれない、大規模な蟻地獄のような深さなのに、水は底の方に少ししかなかった。

ラーゴの湖から水を引いていた水路も枯渇している。



ティリーエは、目の前に聳え立つ山々を見上げた。

ラーゴの湖に水を供給しているのは、どうやらこの山脈の湧き水のようだ。

乾いてひび割れた地面に川の跡というか、水が流れていたような痕跡がある。

かつては勢いのあった川だったのか、岩が削れている所まであるのに、今は見る影もない。



「カラッカラすね…」

カロンが正直に言う。

しゃがんで土を触ってみても首を振るばかり。コチコチのカチカチだ。土の記憶を辿っても、地下にも水脈を感じないと言った。


「どのくらいの時間をかけて、こんなに干上がったんだろ?」


後からついてきたコピルが呟けば、


「この規模の湖が干上がるには、8ヶ月くらいかかるのではないかな」


という声がした。


「スヴェン師団長! 

…そんなに前から危ない状況だったんですね」


「ああ、最初はそのうち雨が降り水も満たされるだろうと考えていたようだが、なかなか雨が降らずに水路が枯れた。

王都から水の配給をして様子を見ていたが、いよいよおかしいとなり我々が呼ばれたのだ」


「なるほど。それで、水魔法を使える奴が、時々西の街への出張が入ってたんだ。配給してたんスね」


カロンとコピルは頷き、湖に視線を戻した。

「そして、今回はいかがしましょう?」


「そうだな… セリオンは、どう思う?」


いつの間にかセリオンとアイシャが後ろに立っていた。

セリオンは全く考えるそぶりがなく、サクッと答えた。


「あの山に、原因の一旦はあるかもしれない。調査が必要だろう。だが、もうすぐ日が暮れる。山や森に入るのは夜が明けてからが安全だ。今からでなく明日の朝が良いだろう」



なるほどそんなことも、とティリーエが納得していると、スヴェン師団長が更に聞く。


「では、山の調査が終わるまでこの湖はこのままで差し障りないと思うか?」


「いや、西の街の人々には早く十分な水量を提供したい。まだ根本的な解決にはならないが、とにかくこの湖の水位を上げる必要があるな。お前はどう思う」


「同意見だ。とりあえず、山の調査は明日として、今からはこの湖を満たす作業に入ろう。

野営準備組と、湖作業組に別れて、日暮れまでには終わらせようか」


「「よし! 水と氷系属性の団員と、ティリーエはこちらへ!

その他の奴らは野営と夕食の支度にかかれ!」」



セリオンとスヴェン師団長の号令でぞろぞろと隊は2分された。

ティリーエは、テントや薪、鍋などの調理器具や食材を複製して量を調整した後、遅れて湖部隊に加わった。


出発してから先、セリオンのそばにはいつもアイシャがいた。しかし、今からの作業は水と氷魔術師とティリーエだけで行うのだ。火魔法使いであるアイシャとは別行動だ。



急いで集合場所に向かうティリーエは無意識に頬を緩ませ、息を弾ませて合流した。



「遅れて申し訳ありません!」


「いや、今から詳しい話と配置に入る所だ。座って聞いてくれ」


「はいっ!」


カロンは土や岩魔法だしコピルは雷魔法で、ティリーエは水系の魔術師の知り合いがセリオンしかいない。

ペコペコと挨拶をしながら、今回のチーム活動の顔ぶれを確認した。



(水魔法使いさんはセリオン様とスヴェン師団長と5人ね…  ん!??)



5人の顔の中に、知っている顔があった。



「アイシャさん!!?」


なぜ…



ブーゥと吹き出したい気持ちを抑えて飲み込む。



「ティリーエさん! またご一緒できますね! 宜しくお願いします!」


「こ、こちらこそ… ですが、アイシャさんは火魔法使いさんなのでは? あんなに見事な火柱を上げられるのは、かなりの魔力量ですよ??」



ティリーエが驚いていると、セリオンが小声で教えてくれた。



「ティリーエ、アイシャの属性は水なんだ。

前に、スヴェン師団長の下に強力な水魔法使いがいると話したことがあるが、それがコイツのことさ」



「えっ!!でも、じゃぁ、あれは?」


アイシャは確かにすごい火柱を放ち、肉が瞬時にコンガリなったものだ。


「ティリーエは、副属性のことは知ってるかな」


「あ… はい。洗礼の時に少し聞きました。主属性が花、副属性は葉で出るそうですね。でも、葉がでる(副属性を持つ)ことは、大変珍しいとだと習いました」


「そうだ。2種類の魔法が使えること自体が珍しいのだが、アイシャは水魔法が主属性で、火魔法が副属性なのだ。

基本、副属性は岩魔法と砂魔法とか、氷魔法と水魔法など主属性と系統が類似しているものが副属性になりやすい。

主属性(水)と副属性(火)が反対の系統なのは、私の知る限りはアイシャだけだ」



「そうなんです、私の系統は本来水なんです!

料理の時には答えそびれててすみません。

お役に立てるよう頑張ります!」


ガッツポーズをしながらセリオンに寄り添うアイシャは可愛く見えて、ティリーエの、さっきまでのややウキウキした気持ちが沈んでいくのが分かった。


セリオンが、湖を満たす方法と割振りを伝えている間も、アイシャは嬉しそうにセリオンの横顔を見つめていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく今はドキドキ読んでます! 恋のライバルか?本人自覚なしのティリーエさんのひとり相撲なのかな?! このもやもやが魔法に悪い影響ないといいね~
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