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干ばつの気配②

翌日、ディアナ様に遠征であったことや、教えて貰った食養生の効果について話し、おおいに盛り上がった。

後から会うはずだったヤンが丁度通りがかったため、一緒にディアナ様の部屋へ連れてきていた。


「ビタミンがとりたいなら、寒冷地では大根もオススメよ。

果物に多いと思われがちなビタミンだけど、実は大根にはたくさん含まれているの。じゃが芋は葉を食べないけど大根なら食べられて栄養があるし、今まで葉野菜が育ちにくかったのなら尚更大根は良いと思うわ」


「なるほど!全然知りませんでした」


ディアナ様が食養生の本を指し示しながらヤンに教え、ヤンも熱心に聞いている。



「他にも、栄養不足で起きる病気ってあるのですか?」


「そうね、有名なのは、くる病や脚気(かっけ)かしら。

くる病は主にカルシウムやリンが不足することで骨が脆くなって折れたり曲がったりする子供の病気よ。

関節や骨を痛がるから、見ていて可哀想なの。ならないようにちゃんと栄養管理すべきだわ。


脚気は足が浮腫んだり食欲がなくなったりして、最後は神経が痺れて麻痺してしまう病気ね。これも壊血病みたいにビタミン不足で起きるのだけど、壊血病に必要なビタミンは根菜から摂れるけど、脚気を治すのに必要なビタミンは野菜より豚肉や内蔵、貝などに多く含まれているものなの」



「「へ〜!!」」



最初は予定外の男性(ヤン)の突然の混入に不安げだったディアナ様だったが、ヤンが人畜無害の子犬系男子と分かってからは打ち解けた。饒舌に説明をしてくれている。

3人とも歳が近く、あれやこれやと話をするうちにそのままお昼の時間になり、3人は王室シェフか作った特製ランチを堪能したのだった。









「ディアナ様、すごかったですね!」


「素敵ですよねぇ」


さすがに王太子妃は忙しく、ランチを食べた後は渋々お別れをした。

今からは2人で自主学習だ。


なぜビタミンが不足したら歯茎から出血するのか?

膝や関節の腫れの理由は?

ビタミンが不足しだしてどのくらいの期間で発症するのか?

今日習った病気の詳しい説明は…



王城図書館で医学書籍をかき集め、それらの疑問を調べてはお互いに報告しあった。

北の街での出来事やディアナ様から習った事がおおかた理解できた所で、ティリーエは干ばつについて調べ始めた。

雨が降らずに地が干上がったら、農作物が育たないことの他に、どのようなことが起こるのか。

そのことについて書かれているページを熱心に読む。


北の街も、じゃが芋や作物の不作が壊血病を引き起こした。一見関係ない出来事が重なると病気の原因になることがあると、ティリーエは学んだのだ。



「コレラと、はしか…」



声に出して呟くと、ヤンが興味深そうに覗き込んだ。


「ティリーエ、何を調べているの?」



ヤンとティリーエは打ち解けて、もうお互い呼び捨てで気軽に話せる間柄になっていた。


手元を覗き込むヤンの髪が陽に透けてきらきら光る。

ヤンの髪は茶色だがサラサラヘアの猫っ毛だ。

珍しい紫の瞳が神秘的で、すらっと細い体躯がやや弱々しい印象を与える。



「何か、雨が降らなくて水不足だと言うから、これがもし続いたらどうなっちゃうんだろって心配になって」


「あぁ、ファラ様も仰っていた。来週は第1、第4魔術師団が遠征に行くんじゃないかな。

今回は待ち人の病気じゃないから、僕らは呼ばれないんだろうけどね」


「そうね、そうであれば良いけど、水不足によって起きる病気というのもここに書いてあるから、備えるにこしたことはないかな」


「えっそんなのあるの!?」


「ええ。ここを見て」



ティリーエが指したページをヤンがふんふんと読み、うなる。



「確かに… 干ばつの年は、はしかかコレラが流行っているね」


腕組みをして考え込む。



「用意はしておいたほうが良いかも」


初期症状は…

検査方法は…

治療法は…

などと2人で書き写していく。






その様子を、仕事終わりのセリオンが、柱の影からスパイしていた。



(近い近い近い近い近い近い近い!!)


セリオンの場所からは、2人が肩を寄せ合って1つの本を読み、つつき合って談笑している姿がよく見える。

セリオンは手を振り回して2人を引き離しながら乱入したい気持ちをギリギリ抑え込んでいた。



(何だあいつ、ティリーエの隣で楽しそうに笑って)

(ああ、肩が触れてる!触れてる! そんなに近づかなくて良いのに!)



ハンカチがあったら咥えて引き伸ばし、歯ぎしりしている所だ。


ティリーエはいつものように屈託なく笑っているだけだが、ヤンとかいう優男は、ティリーエを熱っぽく見つめている。

ティリーエの一挙手一投足を追って目を細めているのだから、セリオンの目から見て気があることはバレバレだ。


ティリーエはああいう、線の細い男が良いのだろうか。

頼りな気で、庇護欲を誘う男が放っておけないのか。

自分(セリオン)とは正反対の男だと思った。


気になって様子を見に来たものの、予想以上のダメージを受けて、セリオンは1人寂しく家路についた。




ティリーエが帰ってきたのは夕食時で、その席でも今日あったことを楽しそうに報告するティリーエの顔を、セリオンはまっすぐ見ることができなかった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! セリオン様が、乙女(笑)
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