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干ばつの気配①

一週間ぶりに帰ってきたティリーエとセリオンがようやく一緒の食卓についた。


医療遠征班からの連絡で進捗は聞いていたが、ティリーエの口から聞く状況や話は新鮮だった。

今日から3日間は休みらしく、ティリーエはディアナ様に会いに王城へ行くようだ。


ティリーエによって食材や荷物が大幅に減ることで兵士や魔術師太刀の負担が激減したと、かなり評判になっていた。

薬師の必要でない遠征にまで協力要請が来ているらしい。魔塔ではティリーエの職務を何とするか悩んでいるらしかった。本人にその自覚がないが、ティリーエの能力は万能すぎるのだ。




「それで、草魔法って植物を早く育てられるでしょう? 逆に、そのまま成長魔法を掛け続けたらどうなるのかなってやってみて貰ったんです」


「あ… あぁ。それで?」


半ば上の空で聞いていたため、慌ててティリーエの話に集中する。



「そしたら、芽が出てツルが伸びて葉が増えて花が咲いて種ができて葉が落ちて枯れて、腐るとこまでいけたんです!」


「ほう」


「それを色んな植物でたくさんして、土魔法の粘土土と混ぜたら、ふっくらモコモコの腐葉土ができたんですよ!!」



先の討伐遠征では、岩魔法で盾を作ったり、氷で避雷針を作って雷を落としたりと、従来の魔法の使い方から異なる技を考え出すティリーエだったが、今回も変わったコンボ技を編み出させたようだ。



「皆さんとっても喜んでました。多分来年は、美味しいじゃが芋がゴロゴロできますよ」


そう言って、鳥のオレンジソテーをぱくりと食べた。



「ソーセージや干し肉などの乾物もたくさん置いてきました。これでタンパク質不足も解消されると思います」


ティリーエは機嫌良くりんごジュースを呷った。



「王都ではこうして、オレンジやりんごが簡単に手に入って有り難いですねぇ。美味しいです」


北の街では、果物を食べることは無いと言っていた。

いつかあの街にも根付く果物を持って行きたいと、ティリーエは思った。



「セリオン様は、この一週間どうしていらしたのですか?」



「ん? 私は最近の気候変動で、水不足で困っている土地が増えていると報告が上がっていて… その場所や原因を調査しにあちこちへ出向いていた」


「そうなのですか…」


そう言われてみれば、ここしばらく雨が降っていない。

遠征途中の湖も、干上がりかけている場所がいくつかあった。



「特に西側が酷そうだ。地割れしている土地があり、逃げてきた住民が王都や他の地域に流れ込んで混乱を招いている」


「そういえば、ファラ様からも、干ばつについて何か聞かれた気がします」


だが一週間前であり記憶は朧げだ。



「西側といえば、西の森に行ったことは記憶に新しい。あの時も、地面が乾いて割れている所があった」


「そういえばありましたね」


ティリーエも頷く。



「魔法が使える者は、貴族でも平民でも魔術師になれる。魔術師は他の仕事よりかなり給料が良いから、北や西の街人で魔法が使える者はほとんど王都にやってくる。

王都の魔術師は生活魔法として水や電気を市民に供給しているから、基本的に王都で水不足には陥らない。

極論、雨が振らなくても水には困らないのだ。

植物は草魔法使いが育てれば必ず立派に収穫できるしね」


確かに、蛇口やコックを捻れば、いつでも綺麗な水が出てくる。

コンロ下のつまみを回せば火が出るし、壁のボタンを押せば電気がつくので快適だ。

あれは、魔術師の方々のお陰だったのだ。



「だから必然的に、北や西の街は魔術師、魔法不足だ。水や農業は天候頼みの自然任せで勿論人力。雨が降らなければ作物は育たないし飲み水すらない」 



ティリーエの育った南の街は、治安と気候が良いことで知られ、王都の次に栄えていて魔術師もたくさん暮らしている。

水道や電気が通り、生活に不自由はしなかった。


だが、西と北はそうではないようだ。

雨が降らずに湖が干上がるのは死活問題だ。



「私がお役に立てると良いのですが」


ティリーエは梨のコンポートを幸せそうに食べてからスプーンを置いて言った。

役に立てるなんてものじゃない、ティリーエが出向けばかなりの問題は解決するだろう。



「その気持ちは有り難いが、まずは1週間ぶりに帰ったのだから、ゆっくり休暇を楽しみなさい」


セリオンか優しく言えば、ティリーエも嬉しそうに笑って頷いた。


「明日は、ディアナ様の所に行くんだったな」


「はい! 少し見せて頂きたい書籍がありますし、今回の遠征のことも報告したいので!」


「馬車は好きに使って良いから、行きの時間と帰りの時間をビアードに伝えておくと良い。王城に行くなら、帰りは一緒に帰れるな。

私が迎えに行っても良いか?」



「あっ! ディアナ様とお話してランチを食べた後は、ヤンと勉強をする予定なのです!

終わる時間が分からないので、先にお帰り頂いたほうが良いと思います。大層お待たせしてしまうかもしれませんので」



「ヤン…?」


「あ、同じ医療班で医術師見習いの先輩です」


セリオンは、聞き覚えのない名前に首を傾げた。

名前からすると男性だろう。

ティリーエが夜に男性と会う予定があるなんて初めてだ。勉強と言っているが、本当にそれだけだろうか。

セリオンは聞き返す勇気のないまま、これまで感じたこと無い胸のもやもやを抱えることになった。




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