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ティリーエ、魔塔で働く⑤

「皆様、今日は大変な中、お集まり頂いて、本当にありがとうございます。また、じゃが芋や農機具を持参頂き、ご協力ありがとうございます。

今日からしばらくこちらで一緒に働かせて頂くティリーエと申します。

私は皆様の大切な農機具もお芋も、一切奪ったり致しませんからご安心下さい。

ただ、今この街で流行っている病は、病といってもバイキンなどの類が原因ではなく、栄養をとって元気にならなければ治りません。それに、今こうして立っていらっしゃる皆様が、今後同じように苦しまれないよう、やはり皆様にもお腹いっぱい食べて頂きたいのです」



ティリーエの言うことを、皆は、???という気持ちで聞いていた。そりゃ、誰だって腹いっぱい食べたいさ。

でも何も無いし、畑を起こす力も人手も無いんだから…

と誰もが考えていた。


「まったく… 役に立たない聖女様とやらの言うことはワケが分からん」


苛立ちに似た感情でティリーエを見返す。

そんな完全アウェーな空気に気づかないふりをしながらティリーエが胸の前で手を組んで祈り、手を広げると、



「うわわわわ!??」


街人の腕の中で、じゃが芋がポンッと増えた。


「なんだ!? 芋が!! あっ」


増えたじゃが芋は吸い込まれるようにティリーエの足元に飛んでいき、そこでまたゴロゴロと数を増やしている。

皆の手の中には、元々持ってきた芋だけが残っていた。




「では、お願いします!」


ティリーエが声をかければ、地魔法使いが硬く締まった地を揺らし、ぼこぼこと耕し始めた。

巨大なモグラが走り回っているかのように土が波打ち、地面が勝手に割れたりほぐれたりしている。


そこに、ティリーエが持ってきた腐葉土を50倍に増幅し、混ぜ合わせていく。



「何と…  こんなことが…!」


魔法をそもそも見たことが無かった街人は、誰の手も汚さず労せずに土が耕され、真っ黒でフカフカになる様を驚愕の様相で見ている。



次に呼ばれた草魔法使いが半数のじゃが芋に手を翳すと、あっと言う間にピョコピョコと芽が出てきた。

そして芋は飛び立ち、フカフカの土の中に吸い込まれて行く。

ティリーエは、芋を操ったり複製した鍬で芋に土をかけながら、器用に畝を作っていった。


最後に、水魔法使いが柔らかい水を満遍なく掛けて、あっと言う間に広大なじゃが芋畑ができたのだった。



最後にティリーエが無事に育つことを願えば、ポウッと地面が光り輝き、やがて収まった。



「これできっと、今年の春には新じゃががたくさん採れますよ」



あっけにとられたままの街人にそう告げる。

壊血病の根本的解決は食糧問題だ。

土壌改良と種や苗の確保が必須なのだ。


「これは驚いた…」

「こんなに広い畑が、こんな短時間でできるなんて…」

「来年は今年以上に飢える年になると思っていたが、これならもしかしたら…」

「ていうか、聖女様すごい… あれは本物だ…」


先程までの反応とうって変わって、驚きと戸惑いの中に好意的な視線が混じる。



さすがに、今日植えて明日収穫とはいかないが、草と土魔法でかなり良い状況にしているから、春の豊作は間違いない。



その後、街人は土に触れたり匂いを嗅いだりして畑を確かめている。

綺麗に整地された柔らかい土地に、未来の希望を共有できたのか、多くの人の表情が柔らかくなっていた。



その様子を見て内心ほっとしながら、ティリーエは、夜営と同じ方法でポークビーンズを作り始めた。

時刻はもう夜だ。

皆、お腹が空いている筈。


ティリーエは先程複製したじゃが芋を更に複製し、持ってきた干し豆やドライトマト、ソーセージを一緒に煮込んだ。

全街人分も複製し、配布した。



最初は魔法で増やした食べ物に心配そうにしていた街人も、魔術師団員が率先してむしゃむしゃ食べている姿を見て、また空腹に耐えかねていたのもあり、結局皆が食べることになった。



「ああ、久々!この崩れるじゃが芋の甘さ…」

「豆に人参に玉ねぎ… 野菜がこんなにたくさん!」

「温かい… 腹から生き返るようだ」

(ソーセージ)なんて何ヶ月ぶりだろう、ウマイ」



はふはふズズーっと、器を舐めんばかりにかじりついて平らげる。

同じ釜の飯とはよく言ったもので、同じ寸胴鍋から掬って食べている街人と魔術師団員や兵士は、だいぶ打ち解けていた。


これなら、明日からの作業もスムーズに進められそうだ。



神殿や神官には、もっと柔らかく煮た同じものを渡し、患者さんは胃がびっくりしないように少しずつ食べるよう伝えた。





翌日から3日間は、芋以外の葉野菜の畑をこしらえた。

皆、空中で色々作業が飛び交うことにだいぶ慣れたようだ。

また、毎日お腹いっぱい温かい料理を食べられていることで、だいぶ活気が出ていた。



街人はだんだん草むしりや摘芽などの手作業を手伝うようになり、作業は順調に進んでいった。


神殿で療養中の人も、目に見えて元気になっている。

やはり、必要なのは薬ではなく、充分な栄養だったのだ。


家屋の改修も順調だと聞いている。

このままなら、1週間程度で解決しそうだと、ティリーエは小さくガッツポーズをした。



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