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ティリーエ、魔塔で働く①

翌朝は3人同時の出発だった。


泣き濡れる祖父をなだめて送り出し、ティリーエはセリオンと王城に出発した。


一緒に出勤するというのが、何となくむず痒く嬉しい。

変に顔に出ないよう歯を食い縛るせいで、祖父との別れが辛い孫扱いをされてしまった。



「寂しいかい?いつでも会えるよ。もしティリーエや祖父殿が望むなら、一緒に暮らしても良い」


「そんな!そこまでご迷惑をお掛けできません」


両手をぶんぶん振って否定するが、セリオンは心配そうに見つめてくる。

祖父は、自分の店や仕事に誇りを持っているから、セリオンに誘われても、きっと同意はしないだろう。

それに、別にティリーエは祖父との別れを惜しんで唇を結んでいたのではないのだ。


何とか当たり障りのない話題を繰り出して、その場は乗り切った。







「ティリーエ〜〜〜〜!!」


「ファラ様!」



セリオンに案内された場所は、王城敷地内にある魔術師塔、通称"魔塔"だった。

魔塔は8階建てで、医療班は3階だ。

4階に上がるセリオンと分かれてファラと合流した。


「ティリーエ久しぶり! 体調はもう良いの?

あの日はすぐ帰っちゃったんだね。見送りもできなくて残念だったんだよ」



ぷうと頬を膨らますファラは、年上(多分)なのに子供のようだった。


「すみません、もう元気一杯です。予定より早く帰ったのは、祖父がかなり心配して憔悴していると聞いたもので、早く顔をみせて安心させたかったからです。しかも私は結構元気でしたから」


「あー、それは仕方ないよねぇ。 お祖父ちゃん安心させられて良かったよ。 それにしても、聞いたよ!

君の家のダイニングルーム!」


「ダイニングルーム??」


「報告書見たんだけど、ナーウィス伯爵家のダイニングルームの壁に、おびただしい数のカトラリーが突き刺さってたんだってね」


「!!」


「あれ、ティリーエがやったんでしょ? そのままあいつらを滅多刺しにしちゃえば良かったのに〜」


「ハハ… お恥ずかしい限りです。 自制ができなくてウッカリやっちゃいました」


「ティリーエは優しいし、真面目だよねぇ。本当、すごいと思うよ。

あれって、西の森でした魔物討伐の時に使った増幅魔法の別法なの?」


「そうですね。そんな感じです。 私は目の前の物を増やしたり、増やしたものを操ったりできるんです」


「ふんふん。だから討伐の時に皆助かったって言ってた。その恩を返すんだと、どの魔術師団もティリーエ誘拐の捜索には全力投球だったんだよ。

あ、ところでさ、ちょっと思いついたんだけど、その力を使えば干ばつとかで水の無い地域に水を増やしたり、虫害で作付けが少なくなった農地に作物を増やしたりもできるんじゃない?」


「本当に、その節は皆様にご迷惑をお掛けしました。

えーと… そうですね。 やったことないですが、できるんじゃないかと思います。

ただ、私の力は増幅ですから、皆様のように何も無い空間から物質を放出できません。

完全に干からびた地に水を湧かせることはできないのです。幾ばくかでも元となる水が必要です。作付けも、枯れた作物ばかりではどうしようもなくて、ひとつでも元気な作物があれば大丈夫です」


「了解! それでも充分すごいよ。僕ちょっと、地質部に行ってくる!」


ばびゅんっとどこかへ走り去る。

嵐のようなファラに苦笑いをしつつ顔を上げると、実は一部始終を遠巻きに眺めていた医療班の方々に気づいた。

北の街の討伐部隊の後衛地で一緒だった師団員の方もいたので、ティリーエは慌てて挨拶と自己紹介をしたのだった。



「薬師のティリーエと申します。治癒と増幅の魔法が使えますので、皆様のお役に立てるよう精一杯頑張ります。

どうぞ宜しくお願い致します」


ぺこりと頭を下げれば、パチ…パチ…と小さな拍手から、徐々に部屋全体が拍手に包まれた。



「聖女様のご活躍は、ここ治療班にも轟いております。ご一緒に従事できることを光栄に思います」

「慣れられない間、物の場所や材料の手配などでお困りの時は、ぜひ私にお声掛け下さい」

「先の討伐遠征ではティリーエ様に、従兄弟が治療をして頂きました。お陰様で今も元気に働いています。ありがとうございました」



ティリーエは得体の知れない平民聖女などと、厄介がられるのではないか心配していたが、予想外に温かく迎えられてほっとした。



魔法を使えるものは平民にもいるが、一般的には貴族に多い。

平民で魔法を使える者は貴族の養子に迎えられることがほとんどで、しかも例え養子であっても魔力持ちと結婚したがる貴族は多い。

そうして貴族は魔法が使える血統が濃くなるのだ。

だから必然的に魔術師団員の多数が貴族だ。元平民であるティリーエに無礼な振る舞いをしないよう、皆はよくよくセリオンから言いつけられていた。


そんな釘を刺されなくても、ティリーエに冷たくあたるような人は医療班にはいないのだが、昨日セリオンがこの階に来て皆を震え上がらせたため、皆は緊張感をもってティリーエを迎え入れていた。




邪険にされるどころか怯え気味の世話役男性、ヤンに、ティリーエは館内案内と、明日のスケジュールの説明を受けたのだった。

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