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再会

セリオンが花館に着いたら、ちょうどディアナ王子妃殿下も帰られる所だった。


ティリーエがエントランスに見送りに出ていて、帰ってきたセリオンを出迎えたような形になった。



「ディアナ様、今日はご迷惑をお掛けしました。ティリーエはだいぶ元気になったようですね」


「いいえ、こちらこそ、お役に立てたなら良かったです。地下は寒かったのか、身体の芯が冷えていましたから、蕪のポタージュを差し上げました。

割りと良く召し上がりましたよ。

しばらくは、果物や生野菜、冷たい水など、身体を冷やす食べ物は控えられた方が良いですわ」


「分かりました。そのように致します」


「ディアナ様、今日1日、本当にありがとうございました。このご恩は、いずれ必ずお返しします」


「ティリーエさん、気にされないで下さい。こちらの国に嫁いでから、王子妃となり料理を振る舞う機会が少なくて、寂しく思っておりましたの。

こちらで久々にお料理ができて、とても楽しかったですわ」



ディアナ様がにっこり笑って退出のお辞儀をした。

ティリーエも慌ててカーテシーもどきを返す。見様見真似、ぎこちないお辞儀だ。


そんなティリーエにくすりと笑って耳打ちをする。


「セリオン様とこの先に進むのならば、薬学や医学よりも淑女教育が必要みたいですね」


「えっ!」

ティリーエは真っ赤になって俯いた。

セリオンは、ディアナ様が乗る馬車の前で不思議そうな顔で手を出している。

ディアナ様は花のような笑顔を浮かべたままセリオンの側まで進むと手をとり、馬車に乗り込んだ。


窓の中からウィンクをされ、ティリーエはようやく顔を上げて手を振った。



馬車を見送り戻ってきたセリオンに、さっきはこそっと何を話していたのかと聞かれ、さらに茹で蛸になったことは言うまでもない。



年頃の女子が集まれば、恋バナに花が咲くのはこの世の常である。花館メイドの2人も基本的に貴族女子であるため、ティリーエの病室は本日、女子会会場と化していたのだ。

地下牢に助けに来てくれたセリオンが、まるで絵本の王子様のように見えたと話すティリーエに、周りはやんややんやと援護射撃をしていた。

『それは絶対好きになったんですよ』『ティリーエ様の初恋ですね!?』などと半ば刷り込み的に囃され、今日ようやく、ティリーエはセリオンへの恋心を自覚したのだった。



「もう夕方だ。冷えてきたから中に入ろう」


優しくセリオンに促され花館に戻った2人は、これまで以上に生温かい視線で微笑ましげに見てくるミラとモレアに、大層困惑したのだった。







ティリーエは体調を崩してはいなかったので、翌日家へ帰ることになった。

もう何度も通った道と、馴染みの宿を利用してゆっくり帰る。

1度意識すると、どんどん素敵に見えるのが恋の不思議な所で、所作や言葉の一つ一つを噛みしめるように2人で過ごした。


あっと言う間に家の前に着き、馬車から降りる。

その音を聞きつけて、祖父が飛び出してきた。



「ティリーエ!!」



「お祖父ちゃん! 心配かけたね!」



「ううっ…! ティリーエェェェェ〜!! 無事で良かった… 本当に良かった…!」


目が合った瞬間に涙が滝のように溢れ出し、膝を付いて顔を覆った。

なおもオンオンと泣き続ける祖父に駆け寄り、背中をぽんぽんと叩く。


「そんなに泣かなくても大丈夫よ。私には聖り…魔力があるんだから、いざとなれば刺し違えてもヤッてやるわよ」


「なんとまぁ… はは…」


物騒なことを口に出すティリーエに苦笑する祖父は、ようやく涙が止まったようだった。



「それにしても、リリラーラは事故でなく、殺されていたとは。そうとも知らず、わしはティリーエをあの家に差し出したのかと思うと…」


今度は悔しくなったようで、拳を握りしめだした。



「その件も、今回の件も、きちんと調べて下さるとのことだ。伯爵家の者は、軽くない罰を受けるだろう」



「セリオン様。本当に、何と御礼を申して良いか。この度はティリーエを無事に救い出して下さって、ありがとうございました」



「いやいや、当然のことです。ご無事で本当に良かった。

ただ…」


セリオンはそう言ってから、少し押し黙り、意を決したように口を開いた。



「ティリーエの聖女としての力は、かなり希少で、価値が高く、狙われやすいものだ。

そしてその力は、この国ではもう広く知られている。

今回のような身内に限らず、強盗の類や他国からの人拐いも無いとは言えないのだ。

ここは一般民家で普通の街だ。

警備は浅く、容易に狙うことができるだろう。

今回はある意味では素人の犯行だったが、プロの悪人に捕まれば、すぐに他国に運び出されて行方不明なども有り得る。

だから、だからして…


ティリーエを警備のしっかりした所に住まわせた方が良いと思うのだ」



「な、なるほど… 確かに…。ですが、その、警備のしっかりした所というのは、どちらのことでしょうか?」


頷きながら首を傾げる祖父が尋ねると、



「ん… まぁ… その…  我が家だ」


小さな声で早口に答えた。



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