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ナーウィス伯爵家再び⑤

「ほっ… 本当にバレないか…?」


地下牢にティリーエを押し込み、鍵をかける間、伯爵家当主ダムアは心配そうに言った。


「貴方、甲斐性もなければ度胸も無いの!? ほんっとイライラするわ! だから、こいつがうちに居ることなんて、誰も知らないのよ! 私達の誰かが喋らない限りね!」


「そう言うが、もしこのことがバレたら、ヴェッセル侯爵から怒られるだろうし、王室からもお叱りを受けるかもしれない。最悪、家が取り潰しに…」


「うるっさいわね!! 大丈夫って言ってるでしょう!? だいたい、こんな、ちょっと見た目が変わってるくらいの平民の娘、誰が探すと言うのよ。

せいぜいあの爺さんくらいじゃないの?

もし侯爵家が少しばかり探した所で、うちには辿り着かないでしょうよ!」


額に青筋を浮かべて捲し立てる。



「そ、そうかな…  それならまぁ…」


明らかにホッとした表情のダムアは、若干の申し訳なさを顔に浮かべてチラリとティリーエを見た。



足枷を嵌められたティリーエの前には、ディローダ気に入りのダイヤモンドティアラが置いてある。

結婚する時に、父である子爵から贈られた宝物だった。

当時特別に作らせた特注品で、かなり高価で美しいものだった。



「これを、まず10個コピーしなさい。あまり数を増やしすぎると希少性が下がるから、その程度で良いわ。

それだけだって、5年はゆうに暮らせるお金になる」


ディローダはにんまりと笑いながら、


「明日の朝までにやっておかなければ明日の食事はあげないし、少し痛い目も見て貰うわよ。

そうね… その気味の悪い色の髪でも、燃やしちゃおうかしら」


頬に手を添えて首を傾げる。

牢の薄暗さが、恐怖心を煽った。



「ねぇママ、もうここ嫌よ。暗いしジメジメしてて気持ち悪い。上に戻りましょう?」


ジェシカに甘えられ、ディローダはそうねと頷く。


「じゃぁね、こんな所でお別れなんて寂しいけど、私達忙しいから、上に上がるわね」


ジェシカは心にもない台詞を並べ、ディローダと腕を組んでコツコツと石階段を登りだした。



「ティ… ティリーエ、悪いことは言わない、言う事を聞くんだ。 彼らは君がちゃんと役目を果たせば絶対に傷つけたり殺したりしないから」



ダムアが囁くようにそう話した後、2人の後に急いで駆けていった。 何が"絶対"だ。

母は殺されたのに。


最後にセブルスが、


「こちらのティアラは、ディローダ様が大変気に入っておられる一等品だ。子爵様から頂いた嫁入り道具でもある想い出の品だ。万が一にも壊したり、指紋をつけたり持ち逃げなどしたら、命は無いものと思え」


ものすごい顔で凄んでから、帰って行った。

そんなもの、置いていかないでほしい。



ティリーエはもちろん、大人しく言う事を聞く気は無かった。

晩御飯も、実はこっそり食べていたから意外と元気は一杯だ。

ただ、足枷をつけたまま、地下牢から逃げ出す方法は分からない。

石の床は想像以上に冷たく、お尻がかなり冷たくなった。

しばらく膝を抱えて丸くなり、ひとり作戦会議を始めた。







「ティリーエが帰っていない?」

「ティリーエ様が!?」

「聖女様の一大事!!」

「我が国の女神を、誰が拐かしたのだ! 万死に値する!」

「今すぐ総軍出陣だ!」



ティリーエ行方不明ニュースは、あっと言う間にヴェッセル侯爵家から王城じゅうに広まりまくった。

血気盛んな魔術師団は、本当に、今すぐ飛び出しそうだった。




「「「セリオン師団長!!」」」


王と王太子に状況を説明して出て来たセリオンを、第3、4師団員がわらわらと取り囲んだ。



「我々にも調査を許可下さい!」

「きっと探し出してみせます!」

「事態は一刻を争います。ティリーエ様の御身に何かに起きる前に、片をつけましょう!」


目に闘志を燃やす師団員が詰めかけていた。



「うむ… 気持ちは有り難いが、これは警備兵の領分だそうで、我々の出番は…」


苦しげにセリオンが呻く。

すると、



「シャムス王から許可とって来たよ〜!

流石に全師団員とはいかないけど、3、4師団員は捜索と救出に加わって良いって!

今は討伐すべき魔物もいないしね」


ファラが現れた。

その顔はいつものようにヘラヘラしているが、今までになく苛立ちを浮かべていた。



「ティリーエを拐うとか良い度胸した盗賊だよね。怪我させてたら絶対許さない」


「私は… 盗賊よりも、違う線を考えている。まずは祖父殿と、足取りの途絶えた本屋の店主から再度聞き込みを行いたい」


セリオンがそう言えば、


「分かりました。 店主への聞き込みは、私達第3師団が行いましょう。 目撃者がいるかもしれません」


パルトゥス師団長が協力を申し出る。


「我が第3師団は、ティリーエ殿の危機には、何を置いてもかけつけると硬く約束したのだ。今こそ果たす時!」


はっきりとそう言い、拳を握っている。



「では、申し訳無いが頼む。 私は、祖父殿に話を聞いてくる!」



岩石や土魔法か得意な者が多い第3師団の魔術師の中には、カロンも含めて、土の記憶も読むことができる者がいる。

もし轍が残っていれば、車輪から馬車の形や特徴がわかるかもしれない。

そうすれば、拐われた先に早く近づけるのだ。


火魔法や水魔法の者は現地の人々へ聞き込み、岩石魔法属性で行方を辿れるものは現場で轍の判別作業を始めることになった。




セリオンは、ティリーエの無事を祈りながら祖父宅へ馬を飛ばした。



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