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レンタルメイド

最初は夢かと思ったが、食べた飴はいつもの味と香り、そして、ちゃんと残り1つあった。


ティリーエが試しに念じると、飴はまた、2つになった。



そこから毎日、試行錯誤して自分の力を試した。

どうやらティリーエは、父や義姉のように何もない空間に火や土を出すなどはやはりできない。

無から有を作れないが、触れた物を複製することはできるのだ。

水は出せないけど、増やせる。そういうことだ。



そのうち、触れていないものでも目の前にあれば複製できるようになり、その数も2つから3つ、4つと増えた。

更に、複製したものを操れるようになった。




ティリーエは最初、この力があれば、もう飢えずに済むのじゃないか?と思った。

パンやスープを複製したら、美味しくないけどお腹いっぱい食べられる。



しかし気がついた。

今までガリガリだったのに、与えた仕事と食事量を変えずに身体がふっくらしだしたら、きっと怪しまれる。


ティリーエは、もし自分に魔力があれば薬草を育てて人々の役に立ちたかった。


今回の不思議な力が魔力でないのなら何か分からなかったが、何となく、この力が義母や義姉に知られたら良くない気がした。



例えば…

お金を複製しろ、とか。

宝石を増やす、とか。




手元にお金を得たことがないので、お金を複製できるかどうか分からないが、多分できてしまう。

お金を無尽蔵に増やせるとしたら、この世の理が崩れてしまうし、義母や義姉はそのお金を悪用して更に酷いことになりそうだ。



この力は、伯爵家の人に知られてはいけない。

力を使う所を、見られていけない。



だからこのまま、死なない程度に飢えておくことにした。








ティリーエは相変わらずガリガリのままだったが、とりあえず仕事効率がハネ上がった。

複製した掃除道具を操れば、何人分の仕事もこなし、食事を作ることができる。

もともと、伯爵家の財政が逼迫してきて使用人が雇えなくなったからティリーエを引き取ったのだ。

ティリーエが一人で超働けるようになったので、使用人は次々に解雇された。


解雇された使用人の給金分、財政が楽になったので、義母姉は更に社交や散財を増やした。

最近庭師やコックまで解雇された。




結果、屋敷には執事くらいしか居ない(父はいるのかいないのか分からない)ので、作業姿を見られることはなく。

求められる仕事ぶん、不思議な力の使い方も慣れ、身についた。


複数の雑巾と箒、水を使って屋敷をぴかぴかに磨く。

庭では複製した種を、土を操ってふかふかに耕した畝に蒔く。

水を操って苗や花にかける。

今日使うぶんのハーブや葉野菜を収穫したら、食事の支度だ。



パン生地を発酵させている間に包丁2つで肉と玉ねぎを刻みながらヘラを操って鍋のシチューを混ぜる。形成したハンバーグを焼いている間に林檎を薄切りにして甘煮にする。

重ね織りしたパイ生地に挟み、冷凍庫へ。

シャキシャキのサラダを作れば、これで下準備は完成だ。



全メニューを2セット作って複製し、4人分にする。

(父、義母、義姉、執事のぶん)

少ない材料、短い時間で食事の支度をし、執事に声をかける。



ティリーエの分は作らないよう言われている。

卑しいティリーエが毒を盛らないよう、皆の皿から一匙ずつ取り分け、目の前で毒見をさせられる。

もちろん毒など入っていない。

ティリーエに与えられる食事は、その毒見皿と、何日か前の硬くなったパンひとつと決まっていた。



そうしてティリーエが十人力の仕事をこなし始め、更にまだイケそうということで編み出されたのが、『レンタルメイド』サービスだ。



始めは義姉が考えたお試し企画だったが、何回か依頼を受けるうちにリピーターが増え、料金は割高だが短時間で完璧な仕事をするメイドとして名を馳せるようになった。


相変わらず給金はティリーエに入らないが、他貴族に粗相や失礼があっては伯爵家の評判に関わるので、義母がひとつだけ要望を聞いてくれると言い出した。


食事や新しい服や欲しい本など、ひとつなら何でも良いと言うのだ。


その代わり、派遣先で伯爵家を貶めることは絶対にしないようにと厳しく言われている。



ティリーエはその条件について色々考えたが、結局こうお願いした。



「私はこれまで、貴族の方とまともに話したことがありません。マナーも習っていませんし、どう対応して良いか分からないのです。加えて、人に見られていると緊張して手が動かなくなります。

どうか、派遣先のお屋敷に、作業中の私に話し掛けたり、様子を見るようなことが無いようにお約束して頂けないでしょうか」



ティリーエが言い出した条件が、待遇改善ではなかったことに義母、義姉は驚いたが、確かにこの引き籠もり枯れ木女が、他の貴族に失礼をしないためには良い案に思えた。



こうして、"決して中を覗いてはなりませんよ"という、どこぞの鶴みたいな条件のレンタルメイドが誕生したのだった。



ティリーエには清潔なメイド服が与えられ、他家へ仕事に行く前の日には湯浴みも認められた。

一応身綺麗にして派遣先に行くのだが、大抵はそのガリガリな、骨皮すじエモンぶりに驚かれ、こんなヨレヨレ少女がまともに働けるのかと疑問に思われる。



しかしいつも、予想された作業時間の半分以下の時間で、予想以上の結果を出し、依頼主の度肝を抜くのだ。

その作業姿を見たものは誰も無く、謎めいた神メイドとして有名になっていた。



こうしてティリーエは、執事を省く伯爵家ただ一人の使用人であり、神の手を持つレンタルメイドとなったのだ。



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