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西の森、その後③

セリオンに送って貰う王都からの道はもう慣れたものだ。

宿屋の女将さんも顔見知りである。

気に入りの店に時々寄り道をしたり食べ歩きをしながら、あっという間にティリーエの家に着いた。



「今回もまた、送って頂いてありがとうございました! お陰様で、快適に過ごさせて頂きました」


ティリーエが御礼を言って微笑む。

セリオンも笑みを浮かべながら、何とも寂しい気持ちになる。シェーンやファラ様の言うように、結婚して同じ家に帰れたらどんなに良いだろう、と思った。

しかし、自分がティリーエに想いを告げたら、優しいティリーエは断りきれないのではないか、と思うと胸が痛んだ。

しかし、もしティリーエも同じ気持ちだったら…少なくとも嫌われてはいないように思うが… いやいや。自惚れだ。

すき、きらい、すき、きらい… 

小さな頃に幼なじみが好きだった花占いが、頭の中で開催され始めた。




今回も、次回の約束の無いお別れだ。

ティリーエもやはり、寂しく別れがたい気持ちは一緒だった。ただ、身分の違いをよくよく弁えているので、これは分不相応な気持ちだと、抑え込んでいた。

セリオンには婚約者がいると言っていたし、平民崩れの薬師など、対象ではないだろう。ならばせめて、任務の時には役立って、良きパートナーでありたい。

セリオン様も疲れたのか、珍しくぼーっと心ここにあらずの様子。

今後も私がお支えできたら… いやいや、高望みだ。



2人はそれぞれの想いを胸に、別れの時を迎える。


「ティリーエ、今回も世話になった。私の腕は、この通りだ。心から感謝をしている。この礼は別の機会にぜひさせて欲しい。

またきっと、ティリーエの力に助けを請うことがあるだろう。その時はできる範囲で力を貸して欲しい」


「もちろんです、セリオン様。私はまだまだ腕を磨いて、もっともっとお役に立てるよう精進します!」



眩しい程に破顔したティリーエを目に焼き付けて、セリオンは家路についた。


ティリーエに本気で想いを告げるか、結婚を申し込むなら、しなければならないことと調べなければならないことがある。腐っても侯爵家当主だ。気持ちだけで動くことはできない。

馬車の中で、今後の動き方を模索し始めた。







「おかえりティリーエ!!無事で良かった!」

「おじいちゃん、ただいま!」


また少し老いた気がする祖父に抱きついた。

いつもの匂いに包まれてホッと息をつく。


「どうだった? 西の森の魔物は。解毒剤は役に立ったのか」


祖父に問われ、ティリーエはココアを淹れながら今回の討伐であったことや褒賞についてを順を追って話した。


祖父はエピソードひとつひとつに頷いたり驚いたりしながら表情豊かに聞き入った。



「そりゃ大変じゃったな… まるで物語のようだ。

そんな危険な森からよくぞ無事に帰ってきてくれた…

できるならもう、そんな所には行って欲しく無いが」


「おじいちゃん、皆が困ってたら助けるための力でしょう。

使わないなら意味無いんだから、また呼ばれたら私は行くわ」


「そうじゃろうな。 あと、ティリーエの考えている通り、シャムス王国で言う"白の魔力"は、聖力のことだと思って良いだろう。

アマルの血が濃い者は、魔力の花は咲かないのに力を使えるから、肌と同じ色の白い花が咲いたことにして、複製と操作の力をカモフラージュしていたのだろう」


「やっぱりそうなのね…  今回は、魔法で出した水を増やしたり岩で作った盾を広げたりしたんだけど、それが魔力を高めたように見えるんだわ。

そうしてアマルの血が濃い人は、アマルの聖力のことを隠していたのね」


「うむ、多分そうじゃろう。

して、セリオン殿との仲は進展したのか」



ブフーーーーーーッ


熱々ココアを撒き散らしてしまった。



「何言うのおじいちゃん! 進展も何も、全然あるわけないよ。 侯爵様よ!? 平民の私となんか、何もあるわけ無いじゃない」


「そうかの? かなり良い雰囲気に見えたんじゃが」


「老眼ね。 老いに伴う症状は私の聖力では治せないから気をつけてよ」


「し、辛辣…  あ、そういえば、本屋から連絡があったぞ」


「… ああ! 取り寄せを頼んでいた本ね!」


「本自体はもう届いているらしいぞ。渡せる用意をしておくから、来る日時を連絡して欲しいと言っていた」


「それじゃ、明日郵便屋さんに伝言を頼むわ。

いつ受け取りに行こうかしら… ちょっとまだ身体が本調子じゃないから、4日後の夕方にでも行くことにしようかな」


「そうじゃな、しばらくはゆっくりしたら良い」


「うん、そうする。 あっ!あと、またこんなに貰っちゃった…」


「なんと! こりゃまた…」


ティリーエの鞄から、金塊やら宝石が取り出された。

キラキラギラギラ輝いている。


「どうしよう… 家に置いとくの怖くない?」


「確かに。細かい内容までは書かれていなかったが、ティリーエの働きに褒賞が出たこと自体は新聞に乗っていたから、それを狙って来る輩はいるかもしれんな」


「本を受け取りに行った時、財貨銀行に預けてこようかしら」


「銀行に預けるのは良いが… そんな大金、持ち歩くのは大丈夫か?」


「うん。 こんなにお金があるから、うちから本屋まで馬車を用立てるわ。乗り継ぎをしないから大丈夫よ」


「分かった。まず今日はよく休みなさい。明日からまた、患者さんがゴマンと来るぞ。

シチューを温めておくから、まずは風呂に入っておいで」


「わ〜!シチュー! お腹ペコペコ!」


「今日は甘いカボチャのシチューに白パンじゃ。ティリーエが帰って来たなら、祝いにとっておきの鴨を焼こうかね」


「鴨も大好き! 今すぐお風呂に行って来まぁす♫」



その日はささやかで美味しいごちそうを食べながら祖父の近況を聞き、最近近所であったよもやま話を聞いて盛り上がった。



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