西の森、その後①
ティリーエの体調が整ってから、王様達にまた招集された。
前の会議と同じメンバーだった。
「この度は、無事に西の森の魔物討伐と神聖石の投供ご苦労であった」
まずは王様から慰労の言葉を賜る。
「して、此度の討伐はいかがであったか」
そう尋ねられ、第1師団長リーベイツが答える。
「記録にある限りでは今回、100年振りに魔の沼まで辿り着けました。
恥ずかしながら、魔術師全体の質の低下が危惧され出して長く、これまで何度も到達を目指して断念し、その都度大きな犠牲を払っておりました。
しかしこの度は…、聖女ティリーエ殿のお力と知恵をお借りして、悲願の投供まで叶いました。
この上は、またしばらく我が国の平穏が保たれることと思います」
ティリーエを見て頭を下げる。
火系魔術師である彼の髪は、燃えるように赤く、目つきも鋭い。なんとなく怖そうな人だと思っていたが、ティリーエの働きを認めてくれていたと分かりビックリした。
いきなりだったので照れてしまう。
「…我々の水魔法で、作戦では大針鼠の腹まで水流を流し、連携して氷を張る予定でしたが、奴の間合いが思った以上に広く
て近付けず、水が届かなかったのです。
ティリーエ様の魔法により、水流が勢いを増し、奴の腹まで届きました。
感謝しております」
第2師団長スヴェンも言葉を添えて頭を下げた。
「氷魔法も同じだ。
水流の距離が長く、全てを凍らせることが難しかったが、ティリーエの補助で氷結させ、動きを止めることができた」
セリオンも誇らしげにティリーエを見る。
さらに。
「私達が岩魔法で作った盾はまだ小さく、実用性に欠けていましたが、ティリーエ殿の魔法により拡張して頂いたため、防御として使用できるようになりました」
第3師団長パルトゥスも同意する。
「ほほぅ… 」
王様が目を細める。
「僕は、後から後衛地の医療班に加わったんだけど、怪我人も病人も、すごく少なかったし、しかも、また死者がいなかったんだよ。
西の森の魔物討伐は過去、必ず2桁は死傷者がいたのに。
すごいよね!
あと、西の森には、まだよく分かってない毒蛇が何種類かいるのは皆知ってるよね。
今回も噛まれた奴が何人かいたんだけど、全員ティリーエの解毒剤でほとんど回復していたよ。あれ、放ってたら死ぬやつがほとんどなんだ。
その解毒剤… どこで手に入れたのか聞いたら、ベラドマー、マガノリと、ヤーヤの根で作ったものだって。
この薬草、かなり希少なんだ。
いくらかかると思う!?」
ファラが興奮ぎみに話す。
「元皇族のファラがそう言うんだ、余程貴重で高価なのだろう?」
王太子様が興味を持ったようだ。
ファラは、当然!とばかりに頷いた。
「材料だけで、大金貨20枚(400万円)くらいだ。それを、無償で、しかも使う確証も効く保証も無いのに作ってきたんだよ!
逆に馬鹿だよね」
口角を上げる。
「ほっほぅ…!」
「へー! 確かに高価だね」
王様と王太子様が同時に驚いた。
「そういう心がけというか損得勘定なしで尽くせる所とか、ティリーエは本当に聖女なんだなって思ったよ」
ファラは最後は優しく微笑み、ティリーエに礼をした。
皆の視線がティリーエに集まる。
何??
何か話さないといけない流れ??
と、ティリーエが慌ててモゴモゴしだした。
「えっと、皆様の魔法を助けられたのは思いつきというか、たまたまと言うか…
結果が良くて良かったです。
薬草は… 確かに高価でしたが、家に置いていても使う予定の無いお金でしたので、有意義に使えて良かったと思います。
それに、西の森の蛇について、毒の種類まではわかりませんでしたが、噛まれれば直後の致死率98%と図鑑に載っていましたから、10中8、9、神経毒だと思いました。
神経毒の解毒はかなり難しく、経口で1番安全に解毒できるのがこの薬草だったのです」
「うむ、見事であった。皆を代表して私から御礼を申す。
そして、今回皆を助けたというその力が、白の魔力の別の力なのじゃな?
以前に2人には話したことがある、"白の魔力"についてだ。
"白の魔力持ちは、自身だけでは何も生み出せないが、代わりに全ての属性の魔法や魔力を高めたり強めたりできると言われている。あと、人を癒やす力がある、とも"と。
ティリーエさんが持つ治癒魔法はすでに皆の知る所だが、今回は魔力を高めるほうの力に助けられたのじゃな」
王様が満足そうにティリーエを見つめた。
あー…
そんな話あったな…
って… 考えたらこれ、聖力の"複製"の話かも!?
ふとティリーエは気づいた。
ティリーエは基本的に、命以外は何でも複製できる。
今回水を増やしたりや岩盾を大きくしたのは、複製の力だった。
ただそれは対外的にみて、一見しては魔力を高めたり強めたり、つまり補助したように見られるのだ。
白の魔力って、もしかして聖力のことなのかも?
自身だけでは何も生み出せないという所がそもそも、魔力よりは聖力寄りだ。
ティリーエはその可能性に気づいて考え込んだ。




