西の森、魔物討伐①
毒蛇に噛まれた場合、解毒剤を与えたとはいえ、後から熱が出ることがあるため、その団員は大事をとって後衛地に下がることになった。
「お気をつけて」
見送りを済ませたティリーエの元に、最前線からの伝令が届く。どうやら負傷者が増え始めたとのことだった。
火傷や刺傷があると言う。
もしかしたら、火鳥や大針鼠が出たのかもしれない。
セリオン達は先にそちらに向かったらしい。
「私もすぐに向かいます!」
ティリーエも他の団員に案内してもらい、森の奥に進む。森は暗くてじめじめ湿り、苔で足元も危うく走りにくい。
そのまま気をつけて進めば、少し開けた場所に、負傷者が横たわったり座り込んでいる。
ティリーエはすぐさま治療に取り掛かった。
報告を受けた団員が、重症者を連れてくる。
ティリーエは数人の軽症者を秒で治すと、彼らに助手の役割を頼んだ。
傷を洗ったり水を汲んだり、火を起こすなどを依頼する。
そして、裂けたり折れたり焼け爛れたりしている重症者の治療に取り掛かった。
「ティリーエ様! こちらもお願いします!」
次に、またしても腹に穴の空いた団員が担がれてやってきた。
「こちらも!!」
確実に重症者が増えてきている。
ティリーエは治療をしながら、負傷者を連れてきた団員に、戦況を確認する。
「あちらは、どのような状況なのですか?」
「大針鼠と鎌鼬鳥の群れがいて、 地から空から、針や羽が飛んできて、防戦一方です。
岩魔法の盾は術者を守る程度で、風や水、雷魔術師を守れず、うまく攻撃が入りません。
針鼠に雷は効果的でしたが、威力が小さくて、大型の針鼠には致命傷に届かず…
またなかなか狙いが定められないのです」
なるほど…
やはり、あの岩盾では小さかったのでしょう…
鎌鼬鳥の風切羽もまた、放てば即座に再生するから厄介だ。
そうこうしているうちに、腹の傷は塞がり、顔色が戻っている。
すぐに太腿が裂けた団員の治療に移る。
このままでは、死傷者が出るかもしれない。
ティリーエの聖力は有用だが、ティリーエは1人だ。瀕死者が多数1度に運ばれたら、失血に勝てないかもしれない。
根本的な解決が必要だ。
つまり、戦況の好転だ。
ティリーエは手持ちのバッグから串刺し弁当を取り出し、ひたすら口に詰め込み、治療を続けた。
重症者の治療を終えたティリーエは、前線から来た団員の案内を受け、奥地へと走り出した。
徐々に魔獣や団員の声が近づいてきた。
そこここで戦闘が繰り広げられている。
えっと…
ティリーエがキョロキョロしていると、
「ティリーエ!? なぜここに!? ここは危ない!
戻れ!!」
セリオンがティリーエに気づいた。
いつも優しいセリオンも殺気立ち、怒鳴るように声を掛ける
「セリオン様! 私思いついたことがあるのです! 私を、大針鼠の場所に連れて行って下さい」
「良い案…? いや駄目だ、危険すぎる! ティリーエ!!」
シュッ ザクッ
ティリーエの傍を掠め、木に刺さっているのは風切羽だ。
気づけばティリーエは肩を抱かれてセリオンの盾に守られていた。
いつの間に…
即座にセリオンが氷柱を向け、胸に刺さった魔鳥は霧散した。
空を見上げれば、魔鳥の軍勢がギャアギャアと、暗く埋め尽くすように飛んでいる。
またしても幾羽の風切羽が飛んできた。
1羽を屠ったぐらいではキリがない。
セリオンが再び氷柱を放つ。
ドン ドン ドン ドン ドン
ボンッという音を立てて何羽かの魔鳥が消えるが次々と飛んでくる。
セリオンは片手は氷盾でティリーエを守っているので、片手からしか氷柱を放てない。
数では多勢に無勢の状態だ。
ティリーエは深呼吸をして、セリオンの手の先に両手を翳した。
次の瞬間。セリオンが放った氷柱が、20倍に増えて魔鳥に放たれた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
一気に空が晴れる程、魔鳥が消えていく。
それを見た他の魔鳥が驚いて逃げ帰る。
それもまた同じく追撃し、見る限り、魔鳥はいなくなった。
「ティリーエ… 君は…」
「私、お役に立てると思います。お願いですから連れていって下さい」
「その力は… いや、今はこのような話をしている時間は無い。安全は保証できないが、構わないか」
「もちろんです、セリオン様! 宜しくお願いします!」
セリオンとティリーエは、大針鼠との戦闘場所へ向かった。




