西の森へ②
「ティリーエ様! 見て下さい!」
コピル兄改め、カロン(岩魔法使い)が、岩盾を展開してみせる。
「とりぁぁぁぁ!!」
パキパキパキ… と、見るからに硬そうな岩が空中で構築されていく。
「まぁ!! 素晴らしいですね!」
「ふう! これで完成です! どんな強い槍も、硬い氷柱も、この盾を貫通することはできませんでした。
ついに最強の硬度を持った盾を作れるようになったんです!」
誇らしげなカロンにティリーエが感動し、 感動し…?
「頑張ったのですね! カロンさん…!
ちなみに、これはあとどのぐらい大きくできるのですか?」
カロンの横で浮いている盾は、40cm四方くらいの大きさだ。
「あっ、えっと、これで最大です!」
「え… え!?」
「他の岩魔法使いで、もう少し大きい盾を作れる奴なら、2フィート(60cm)ぐらいの大きさだったです」
なんと!!!
セリオンの話では、大針鼠の針は太さ6インチ(15cm)と言っていた。
その針の雨を防ぐのに直径40〜60cmでは心許なさすぎる。
盾というより、殺陣の動きが必要だ。
かなり動体視力が良くないと… というか、最高でも自分の身しか守れない。
仲間は八つ裂きになる想定だ。
セリオンら氷魔法の魔術師は、連携修業にかかりきりだったから、氷盾の構築を極めていない。
降り注ぐ針の雨から、自らを守る術が無いのだ。
「硬度を下げれば、5ヤード(5m弱)までは盾を広げられるよ!」
「そうなのですね! 5ヤードなら広いです!」
「でも、そうなると、氷柱や槍は通しちゃうんだ…」
「あ…」
なるほど…
ううむ…
頼りになる、が、まだ足りない。
ただ時間のない中で、難しい魔法を会得できたのは、カロン達の努力の賜物だ。
そもそも、岩魔法を盾に使うなんて、今まで無い試みだ。
だいたいは土砂で簡易拠点を作る、DIY要員だった。
たった5日で、小さくとも硬度の高い盾が作れるようになっただけ、万々歳なのだ。
後は使い方とタイミングを効果的に考えなければ。
ティリーエが考え込んだその時、
ピシャッ
稲光が光り、ドガーンと稲妻が落ちた。
やや遠くだったが、かなりの轟音だ。
山が崩れたか木が割れたような音だった。
「ティリーエ様! 僕も、自力で雷を落とせるようになりましたよ!」
これまた、見てみてとアピールを始めたのは、コピルだ。
「まぁ! 今の稲妻は、コピルだったの?
すごい威力ね…!
感情に振り回されなくなったのは良かったわ」
以前のコピルは、怒りや悲しみで雷の雨を降らせる感情追随型の魔術師で、落雷が落ちる場所もノーコントロールというとんでも少年だった。
ティリーエに褒められて、コピルは破顔して喜んだ。
しっぽがあったら振り切れていただろう。
「怒ったり泣いたりしても雷を落とさないよう我慢できるし、怒ったり泣いたりしなくても、僕の意思で落雷を落とせるようになりました!」
「まぁ!頑張ったのね!
それで、雷を落とす場所も、コントロールできるようになったの?」
「あっ、それは無理でした! 落ちる場所は近かったり遠かったり…
昨日は団長の鼻を焦がしかけて、めちゃ怒られましたから!」
‥‥‥。
最高に硬いが小さすぎる盾、落としたり止めたりはできるが、落雷の場所は運任せな雷…
ティリーエは西の森の討伐を前に、頭を抱え込んだのだった。




