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ティリーエの修業①

出発したのが夕方だったので、ティリーエが家に着いたのは、もう翌日の夜半過ぎだった。

宿屋にもう一泊する案もあったが、1人で泊まるのが不安だったので、昨夜の1泊泊まりだけにしてもらった。


夜中ではあったがティリーエが無事に帰ってきたので、またしても祖父は安堵し、喜んだ。


ティリーエが倒れたのは、聖力の枯渇が原因だったらしい。

腹に穴が空いて臓器から筋肉、肺の一部まで損傷した重症者を無傷に治したのだ。ほぼ生き返したに近い。

しかも、その後更に全身熱傷を2人と切り刻まれた人1人を完璧に治癒したのだ。

ほとんど、人知を超えた力だった。

さすがにキャパシティオーバー、力を使い果たして倒れてしまった。



魔力切れという状態は、魔術師にとって別に珍しくないらしく、倒れて帰宅が遅れるティリーエについても、祖父は休めば治ると説明されたらしい。

代わりにまた莫大な報奨金を渡されたと言っていた。

丸焦げだった彼は、王国で随一の鉱山を持つ富豪貴族の末息子だったそうで、助けて貰ったお礼にとまばゆいばかりの宝石までオマケにくれていた。

街のおじいさんと平民の娘には、そんな宝石、使い道も分からない。とりあえず保留にしよう。







「おはようっ!」


翌朝早く、ハチマキを巻く勢いで気合いを入れたティリーエが起きてきた。



魔術師団が我が身と技を鍛える5日間、ティリーエ自身は何をすべきか、馬車の中でずっと考えていたのだが、聖力を増やす鍛錬を積むことにした。

ティリーエは色んな種類の魔法を使えないし、攻撃魔法も使えない。複製と、複製したものの操作だけ。

これまでの経験上、聖力は使えば使うほど、使える量や操作できる数が増えていた。

次の魔物討伐で怪我をする団員を救うには、今よりもっともっと聖力が必要だ。

4人を治療したくらいで倒れていたのでは話にならない。


今日から患者様を、治して治して、治しまくるぞー!!

さて今日も薬屋オープン!

気合い十分なティリーエがドアを開けると、そこには見たことが無い長さの、長蛇の列があった。




??



「聖女様!!」

「ティリーエ様だ!!」

「なんと神々しい…!」

「美しい…!」

「街にお帰り頂き、ありがとうございます!」

「王都でのお勤め、ご苦労様です」

「聖女様!どうか私の足をお治し下さい」

「聖女様!この子を診てやって下さい」

「ティリーエ様!」

「ティリーエ様…!」



???




実は数日前…

ティリーエも祖父も知らなかったが、国民を守るための魔物討伐で瀕死となった4人を治癒して倒れたティリーエは、真の女神の化身、聖女として大々的に新聞の一面を飾っていた。


その文面に、元は南の街の薬屋の娘だと書かれていて、その珍しい容姿から、すぐに身元がバレたのだ。

加えて昨夜、夜の静かな街に響く馬車の蹄の音で、王城からの帰還が周囲に気づかれており、朝からこのような大行列になっていたのだった。




「最後尾はこちらです! 皆さん並んで下さ〜い!」


…誰?



整理券でも配りそうな世話焼きの男性までいる。

とにかく、災害時の配給待ちに近い行列だし、しかも次から次に到着している。



びっくり見開いた目を動かせば、正直、迷惑そうな花屋おとなりさんの店主と目が合った。


ヤバい。


何とかしなきゃ。





こうしてティリーエは、図らずも全速力で、過去最大量の患者数を治療することになった。


これは… わざわざ訓練しなくても聖力量は増えるわ。

祖父は隣で膝が震えている。


ティリーエはゴクリ。と喉を鳴らし、息をつくと、最初の患者さんへ対応を始めた。








近日の外傷は即時に治癒。

数年〜数十年の傷には、まず可能な範囲で治療した後、体質改善、新陳代謝促進メニューの紙を渡し、1ヶ月後に来るように伝えた。

(魔物討伐からいつ戻って来れるか分からないため)



病気に関しては、正常で元気な部分や細胞を増やし、悪い細菌や細胞達をやっつけられるように仕向けた。

怪我と違って即時的な効果は無いが、普通に治すよりも早く治る筈だ。


老衰や体力低下は、どうしようもない。



大怪我から小傷、大病から簡単な病気まで、ありとあらゆる怪我や病気の患者様が集まっていた。



ティリーエは、昼食もとらずに治療に邁進し、結局1日で150人程も対応をした。

それでも、捌ききれなかった人には整理券を渡し、明日朝また来て貰うよう伝え、今日の診療を終えた。





「はぁ…」



夜9時。

ティリーエは椅子にもたれて天井を仰いでいた。

さすがに疲れた…

お腹も空いた…

でももう動けない…

視界が白くなってきた…



ぐったりするティリーエに、祖父が根菜のミルクシチューを運んできてくれた。

ほかほかと上がる湯気に食欲が少しずつ戻り、最後の力(?)を振り絞って腕と指をゆっくり動かす。


ぱくり。


甘いミルクの、熱いスープが身体を温める。

崩れるほど柔らかくなったじゃがいもが美味しい。

喉を通り、落ちていく感触で胃の形がきっちり分かりそうだ。

少しずつ口に入れ、飲み込む度に、満たされていく感じがする。

だんだん手がスムーズに動かせるようになってきた。


そしてお腹がいっぱいになると、聖力も戻った気がした。



前回から思っていたが、私の聖力の枯渇・復活は食事に関係あるんじゃないかな。

腹が減っては戦ができぬ。

ということは、腹が減らなければ、戦はできまくり?



ティリーエは、明日は朝から満タンに食べ、昼も抜かないでやってみよう、と思った。



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