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ティリーエの、秘策

そして2回目の対魔物討伐会議が開かれた。

訓練の進捗を確認した後、大針鼠の討伐の妙案が募られた。

が、特に新しい案は無く、会議は混迷を極めた。

ティリーエは言おうか言うまいか迷い、モニョモニョしている。



目敏いファラが、すぐに気付いた。


「ティリーエ、何か言いたいことあるんじゃないの」


「エッ!? あの、いえ、いや、そのぅ…」


小動物のハリネズミと、魔物の大針鼠の生態が似ている保証は無い。

ティリーエが今考えている案が効かなかったら、練習の時間も無駄になるし、最悪人命が失われる。

それが怖くて言い出せないでいた。



「ティリーエさん、どんな些細なことでも、まずは話してみるのだ。もしかしたら、何か活路が見いだせるやもしれぬ」


王様からの後押しがあり、ティリーエは話してみることにした。



「あの、昨日、王宮図書館に連れて行って頂いたのですが、その時ハリネズミの生態を調べたのです。

魔物の大針鼠と、ハリネズミの生態が同じという保証は無いので、全く当てはまらないかもしれないのですが…

もし万一似ているなら、弱点が同じかもしれないと思いまして」


「ほほう、なるほど。それで? 弱点とは…」



ティリーエは昨日見た図鑑と、自分が考えてみたことを説明した。








「「「ううむ…」」」



やっぱり、素人の浅知恵、言わなきゃ良かった…


難しい表情のメンバーを上目遣いで盗み見て、ティリーエは後悔をしていた。 



「しかし、一理ある」



言葉を発したのは、パルトゥス団長だ。



「どの道、ティリーエ殿の言う連携技を極めることは無駄にはなるまい。試す価値はある」


「そうだな、他に良い案も無いのだし、たいした労力もかからないしな」


「早速、水、氷、雷属性の者には伝達しよう」



パルトゥス団長の一言で、一気に賛成方向に話が動いた。

嬉しくて、セリオンを見つめれば、ティリーエと同じくらい嬉しそうな顔でこちらを見つめている。



「その連携技の指導役は私がなろう。この腕の傷の仇、一矢なりとも報いたいからな」


腕を擦りながら、いたずらっぽく笑う顔にキュンとなる。




今後の方針は固まり、あとは決行日を決めるだけ。

話し合いの結果、討伐への出発は、訓練後の5日後に決まった。

それまでは、西の森の近くで偵察部隊を配置し、魔物が街に近づいて来ないか監視を続ける。

先日の偵察部隊は、森に近づきすぎたのが悪かった。

魔物に気配を悟られると、縄張りを守るために、侵入者を排除しようとやってくる。

鎌鼬鳥は、別名森の門番と呼ばれている魔鳥だ。

前回はまんまと洗礼を浴びてしまったのだ。

新しい討伐部隊には、森に近づきすぎないようよくよく注意をすることにした。

それでも森から出てきたら、俊鳥を王城に飛ばすことになっている。


訓練を積む5日間、何とか凌いで欲しい。


こうして無事に御前会議は閉会した。




ティリーエは花館のメイド2人に挨拶し、重ねて御礼を伝え、別れを惜しんだ。

再会を約束し、家路につく。

セリオンはこのまま残って魔術師団員の指導と訓練を行うため、ティリーエは侯爵家の馬車で送って貰うことになった。

別れ際、ティリーエは書き溜めた新陳代謝活性レシピと、王宮植物園で譲ってもらった黒大豆や芽キャベツ、マンゴウなる果物をセリオンに手渡した。

あとは、レバーペーストもお勧めと伝えた。

王宮図書館で分かったことだが、これらは細胞の合成に至極役立つ成分が豊富に含まれているらしい。



「たくさんのレシピをありがとう。王宮料理長に渡しておく。

ティリーエのお勧めなのだから、何か意味があるんだろう?

有り難く食べさせて頂くよ。

あと、君の家には、4日後、迎えに行く」


セリオンが、馬車の窓から声を掛ける。

自宅から王都までは1日半かかった。

帰りも同じくらいかかるだろう。

ただ、自宅から西の森は比較的近いので、1日あれば着くのだ。


「お手数お掛けしますが、宜しくお願いします。

あの、レシピですが… 

あまり美味しくないかもしれませんけれど、栄養満点なので、ぜひ食べてみて下さい」



短く言葉を交わすと、ティリーエは微笑み、セリオンはあっさり馬車から距離をとった。

"次の約束がある"、ということが、こんなに安心感のあることなのかと2人は初めて知った。

名残惜しさ度はむしろミアとモレアの方が強いくらいだ。



次に会うときは、きっとその左腕を治して差し上げます!

ティリーエは、心の中でそう誓った。



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