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王城へ⑧

最後の重度熱傷団員の皮膚を完全に修復した所で、ティリーエの意識は途切れた。





目を覚ますと、ファラが覗きこんでいた。


「!?」


「あっ! ティリーエ目が覚めたよ!」



ファラの声で、ベッドの周りにわらわらと人だかりができた。



「ティリーエ、大丈夫か? 具合はどうだ!?」

「ティリーエさん、痛い所や痺れはありませんか?」


セリオンやディアナ様が声を掛ける。



「あっ、えと、何か身体が重たいというか、胸のあたりが空っぽに冷たい感じがしますが、痛いとか痺れるとかはありません」


寝起きの気怠さはあるが、指も足も動く。

ただ何となく、身体が冷え切っていた。



「これ、湧き水を沸かしたお白湯ですわ。

まずは身体を温められて下さい」


ディアナ様に言われてコップを受け取る。

手のひらにじんわりと熱が伝わってきた。

適度に冷ましてあったのでコクンと飲み干せば、身体の中が満たされて体温が広がるように感じた。



「ホッとしました。ありがとうございます。

あの、怪我をされた団員さん達は、どうなりましたか?」



ティリーエに聞かれて、ディアナ様はにっこり微笑んだ。

ファラは面白がるような顔をしている。

セリオンに目を向けると、なぜか複雑な表情だ。

その向こうには長身眼鏡のオジサ… パルトゥス団長が鬼の形相でこちらを見ている。



えっ? まさか失敗した? 皆助からなかったの??


ティリーエか不安に再び胸を凍らせていると、



「ティリーエさん、素晴らしいですわ!

4名ともご無事どころか、かすり傷ひとつ残っておりません!」


「本当、信じられないよ。絶対誰かは死ぬって思ったもん。腹に穴あいた奴が今日すでに元気って、ありえなくない?」



ディアナ様、ファラ姉弟が喜び、教えてくれた。

何だ〜! それなら良かった!

さすがのティリーエも、少し自信がなかったのだ。


安心して話を続けようとした所で、セリオンの物言いたげな瞳に気づいて口を噤んだ。

セリオンは、ちらり、と左後方の鬼軍曹に視線を投げた。



どうやら治癒は成功したらしいのに、どうしてあんなに怒ってるんだろう…



「こっ…」


「こっ?」


「この度は…、

私がティリーエ殿に失礼な発言をしてしまい… マコトにモウシワケアリマセンデシタ」



バサッと、パルトゥス団長が頭を下げる。

だが感情を乗せず棒読みだし、腑に落ちて無さを全く隠さない様が、むしろ潔い。



「あの4名はうちの団員でまだ若く、何とか助けたい気持ちの焦りから、つい冷静さを欠いてしまいました。

団長として恥ずかしい限りです。

この上は、望まれる形で、いかなる苦言も償いも受け入れる所存です」


しかし頭を下げたまま、一応きちんと謝罪をした。


「いえ、一緒に働いたことも無いよく分からない相手を警戒するのは、至極普通のことですわ。

私こそ、出しゃばってしまってすみません」


ティリーエはコップを置いて両手をぶんぶん振り否定する。

初対面の相手に、団長の立場で団員の命など容易に預けられないのは普通だ。

全然大丈夫。


だがそれに驚いたのは、パルトゥスだ。



なっ…  なんだとっっっ!?


パルトゥスは、平民の女が手柄を立て、全面的にこちらが非を認めたら、絶対につけあがって自分の力をひけらかすか、悲劇のヒロインぶって大袈裟に騒ぐか、悪ければ賠償として金品を強請ってくるに違いないと思っていた。

しかし、予想に反してティリーエが良識的な対応をしたので、心底驚いたのだ。


「‥‥!  ‥‥!」



何か言葉を返さねばと思うけれど、予想外すぎて何も出てこない。

その時。



「ティリーエさんが目を覚まされたって本当ですか〜!?」


明るい声がドアの向こうから響き、ババーンッと扉が開いて、


「えっ? あ、コピル〜!!」


いつか火鳥から落下した全身粉砕骨折団員、コピルが飛び込んできた。



「ティリーエさんが倒れたと聞いて、皆心配してたんですよー!」

言うが早いか、他の団員も部屋にぞろぞろ入ってきた。

第4師団員だけでなく、先日の重症者4名と多分仲間達(第3師団員)も一緒だ。

急に部屋が狭苦しくなる。



「おっお前ら、勝手に入っては うぷっ」

「お前達!ここが王城でディアナ様の御前だと わぱっ」



大人数の押し合い圧し合いでパルトゥスもセリオンも喋れていない。

その群衆の中から4人が進み出てきた。


「「「ティリーエ様!!」」」

「この度は!!我々の力足らずにより得た怪我を、このように治して頂いて、団員一同、深く深く感謝致しております!!」

「本当に、もうダメだと思いました。喉も身体も熱くて痛くて、息ができなくて… まさか無傷でここに立てるなんて、また戻ってこれるなんて…」

「俺も… ありがとうございました…!」


1人の団員が泣き出し、その時の恐怖と痛みを思い出したのか、他の者も涙を浮かべている。



「今後、第3師団員は、ティリーエ様のいかなる危機にもかけつけ、お役に立つことを誓いますッ!!」

「「「誓います!!!!」」」

「えっ!?おい」

「第4師団もね!」



「いえそんな… たいしたことは… あの、そのように気を遣って頂かなくても大丈夫ですから」



「ハハハ ティリーエ、君、どのくらい眠ってたと思ってる?」


「ファラ様…。丸1日、くらいでしょうか?」


「違うよ、今日で4日目だよ。そりゃー皆心配するって」


「4日!ですか!? それはご迷惑をお掛けしました!」



「ファラ様の言う通りだ、ティリーエ。私も例に漏れず心配した。

目を覚ましてくれて本当に良かった」


セリオンが、ティリーエの頬にかかった髪を梳かして流す。

すると、突然4日風呂に入っていない事実に気が付いた。

幾筋かの髪が、束に固まっている。


「あわわわわ  私、皆様の前に出られる身体じゃないみたいです! 皆様のお気持ちは十分頂きましたから、ここは一旦お開きにしましょう!?」


「そうだな。ティリーエの目が覚めたことを陛下に伝えねばならん。多分、御前に呼ばれるだろう」



あー… やっぱり?


良かった良かったじゃ終わらないか。


皆が御礼と挨拶を口にしながらぞろぞろと部屋から出ていく。

パルトゥス団長は、部屋から出る間際でティリーエを振り返り、

「悪かった。感謝している。俺も…皆と同意だ」

と呟いて帰っていった。



よく分からないけど、国で1番強くて信用できる団体から有事のお助け券を貰ったようだ。

ティリーエは攻撃魔法が全く使えないので、多分有り難い申し出だ。

今後も魔物討伐に行くだろうしね。



セリオンとファラ様、ディアナ様にも御礼を言って、部屋付きの人に、湯殿の用意をお願いした。



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