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王城へ③

あれからセリオンと2人して紅綬褒章を受け取り、陛下への謁見と挨拶を無事終えたティリーエは、完全に燃え尽きていた。真っ白だ。


今は、晩餐会の支度が整うまでの間の幕間タイムである。

そこへ、声をかける人がいた。


「ティリーエ、久しぶり〜!」


振り返ると、セリオン以外で唯一の見知り顔があった。


「ファラ様!」


いつかの討伐隊の医術師先生だ。


「ご無沙汰しております」


ティリーエが初めて表情を崩した。

血色の戻った頬の、花が綻ぶような笑顔に、周囲で声をかけるタイミングを図っていた有象無象の輩達は胸を押さえた。



「うんうん。元気だった? 今回の報告は、僕が挙げたんだよねぇ〜」


「そうだったのですか。私には勿体無いお話で恐縮です。こんな褒章まで頂いて…」


ティリーエの左胸には、ルビーをダイヤモンドで囲ってリボンがかけられた褒章(バッジ)が光っている。

売ればかなりの額になりそうだ。



「だって本当にすごいことだよ。いつも1回の遠征で負傷者は30人以上、再起不能者だって4〜5人は出るんだから。ほんと、君って何者?」


「ただの街の薬師ですよ。それに、ファラ様も、たくさんの方々を治されたではないですか」


「ふ〜ん」



セリオンは騎士団長に捕まり、最近の若い騎士や魔術師について愚痴られていた。

他の大臣からも次々と話し掛けられて、なかなかティリーエの所に戻れない。視界の端でファラとティリーエが2人、仲良さげに話しているのを、セリオンは少し苛立ちながら眺めていた。




「次の魔物討伐も、一緒に行こうよ」


「えっ、また魔物が出てきたんですか?」


「まだだけど、そろそろだと思うよ。今度は西の森じゃないかな」


「西の森…」



西の森といえば、セリオンが怪我をしたらしい場所だ。

確か、ハリネズミ型の魔物は結局討伐できなかったという話だった。今回、もし行くなら対策を考えておく必要がありそうだ。

左手の敵討ち!



そんな話をしていたら、晩餐の準備が整ったと、隣接するディナーホールが開放された。

セリオンもティリーエの傍に戻り、優しく手を引いてくれた。








会場は結婚式のような円卓がいくつもあり、入り口に席次表が飾られている。

さて席はどの辺りかとキョロキョロ見てみたら、ティリーエ達の席はまさかの、

王様と王妃様、王太子夫妻と同卓と書かれている。

もう、吐くしかない。

しかもファラ様まで一緒。なぜ?




セリオンを横目で見てカトラリーの使い方を真似ながら、ティリーエも一生懸命口に運ぶ。

ただ失念していたのが、セリオンは大食漢で、ティリーエは少食という点だ。

同じペースで食べていたことで、ディナー序盤で既に限界を迎えつつあった。



フォークの手が止まり、目が虚ろになった所で、王様が口を開いた。


「今回は手柄だったの。2人共。この国の次代を担う若者が頼もしいと、国は安泰だ。礼を言う。

魔術師は年々希少になっている。生活魔法も大切だから、魔術師を魔物との戦いで失うのは誠に痛手なのだ。

今回は日程の短縮もさることながら、負傷者、死傷者がいなかったことが大変有意義であった。

ティリーエさん、これからも頼む」


いかにも優しそうな、おっとりと話す王様だ。

ぽっちゃりとふくよかで、すごく温和そう…。



「そのようなお言葉を頂くなど誠に恐れ多いですが、これからも王国のために力を尽くしたいと思います」


ティリーエはいっぱいいっぱいになりながらも、御礼を返した。


「ティリーエの薬は本当に良く効くんだ。どこで習ったの?」


ファラが横から入ってきた。


「私の祖父も薬師で、今年免許皆伝を頂きました。

お師匠様はラヴィムさんと聞いています」


「ラヴィム… 知らないなぁ…? 僕が聞いたことないなんて、もしかしてこの国の人じゃないのかな」


ギクッ  


「そうじゃな、ティリーエさんは容姿から見ても我が国の方でないし、母君やお祖父さまが多分、異国の方なのだろう。

きっと、医術の進んだ国なのだな」


髭を撫でながら頷いている。



「えっ そうなの? ちょっと見てみよう」


ファラは重たい前髪をかきわけて、ティリーエを正面から見つめた。ファラはテディベアヘアがもっこもこで、鼻から下しか見えない。目が隠れてしまっていて、基本相手の容姿など細かいことは見ていないらしかった。興味もない。



「あっ本当だ! 色んなトコがだいぶ違う!」

ティリーエがシャムス王国人と肌も髪も目の色も違うことに、今更気づいたらしい。

ほ〜!と感心した様子のファラから見つめられて、ティリーエもひとつ知ったことがあった。



ファラの瞳は、緑色だったのだ。

丸い瞳をキョロキョロ動かす様子は、好奇心旺盛な猫のようだった。

この国の人は黒目や紺目、茶目など暗い色ばかりかと思っていたが、こんな綺麗な目の人もいるんだと思った。



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