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帰路…お出掛けリベンジ④

結局クレープでお腹がいっぱいになったティリーエはコロッケとやらまで入らなかったが、セリオンは2つも食べた。


油紙に包まれた揚げたてのコロッケをふーふーしながら食べる姿は、貴族らしい気取った所がないセリオンをよく現していた。

世の貴族は食べ歩きなどしない。

そのくらいは、ティリーエだって知っている。

マナーや作法を知らないティリーエが嫌な思いをしないよう、合わせてくれているのだと思う。

ただ、セリオンもこの食べ歩きを楽しんでいるように見えて、ティリーエは嬉しかった。




食後は手を洗ってから書店に入った。

知らない街の本屋には、知らない本があるのだ。

ティリーエは医学書のあたりで本を物色していたが、壁に新書発売のポスターが貼ってあった。


それはいつか、ティリーエの母が取り寄せた異国の本の、続編だった。

翻訳されている所と、外国語のままの部分があり、内容全部は分からない。

しかし、薬草が色鉛筆で細かく書き込まれているので美しく、見ているだけで楽しい本なのだ。

母様は結局、どちらの本も読めなかったと思うと悲しいが、代わりにティリーエが読んで聞かせてあげれば良い。

しばらくお墓に行けてないから、花を持ってお参りに行こう。話したいことがたくさんできた。



ポスターをよく見れば、新書は取り寄せになるようで、予約受付中となっている。

どうせなら受け取りやすい方が良いので、家に帰ってから近くの書店で注文することにした。








辺りがすっかり暗くなってから、馬車は祖父の家についた。

世間知らずの孫娘が無事に帰ってきて祖父は大いに安心し、送り届けてくれたセリオンに何度も頭を下げた。


「この子はちゃんと働けましたか?

ご迷惑をお掛けしませんでしたか?」


祖父が尋ねると、セリオンは笑って、ティリーエの大活躍や愛されっぷりを説明した。



「ティリーエにかかれば、一見重症者でも実は軽症で、彼女の薬を使うとたちどころに回復するのです。

僕が腰骨が砕けていると思った団員は"ぎっくり腰"、

筋肉が断裂して再起不能に思われた団員は"擦り傷"、

頭を強く打って意識の無い者は"タンコブ" ‥‥

実に不思議でした。

しかも本当に皆、後遺症無く元気になりました。

こんなに負傷者のいない討伐は初めてです。

お陰で予定よりかなり早く終わることができました」


そう言いながら笑顔で祖父の顔を覗き見れば、明らかに目が泳いでいた。



「そ、そうですか、お役に立てて良かったです。ハハ…」



乾いた笑いを浮かべている。

絵に書いたような動揺ぶり。怪しい…

やはり、ティリーエには何かあるのだろう。

ともあれ、まずはセリオンも一旦帰宅しなければならない。

今日は御者と共に泊まるよう勧められたが、セリオンは侯爵邸に帰ることにした。

だいぶ長く屋敷を空けているのだ。

多分大丈夫だが少し心配だった。




「ティリーエ、本当にありがとう。

皆が無事に討伐を終えられて助かった。

危ないことはさせたくないが、もしまた困った時は、協力をお願いするかもしれない。

その時はどうか、力を貸して欲しい」


セリオンは真面目な顔でティリーエに向かい、頭を下げる。 ティリーエは慌てて、


「こちらこそ、ワンピースや寝巻き、お土産に宿代、お食事と、全部お世話になってすみませんでした。

私にできることなら、何でも仰って下さい!」


と答える。

セリオンはしばらくティリーエを見つめ、名残惜しそうに瞳に収めると、祖父に挨拶をして馬車に乗り込んだ。



次に会う予定も約束もない。

でも離れ難い。

後髪を引かれる思いとはこういう気持ちを言うのだと身に沁みた。



ティリーエも、寂しい気持ちを感じていた。

今までと変わらない生活に戻るだけなのに、何故か不安な気持ちになるのだ。

団員達と、セリオンと、大勢でにぎやかな生活に慣れてしまったからだろうか。

胸にぽっかりと穴が空いたようだった。



馬車はなかなか発車しない。

セリオンとティリーエが見つめ合っているからだ。

御者と祖父も、困った顔で見つめ合っていた。



「元気で」

「セリオン様も、お気をつけて」


2人は握手をしてやっと離れる。



ようやく、御者が馬に合図を送り、歩を進め始めた。

馬まで空気を読んで、ゆっくり駆け始める。

次第に蹄の音が響いて、夜の闇に溶けていった。



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