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野営パーティ

ところでティリーエは、北の街についた時、食料も買っていた。


ティリーエの不思議な力、もとい聖力は、複製(・・)と増幅。

つまり、同じ状態のものを増やすのだ。

別に新品になって生まれてくる訳ではない。

1日目に買ったパンを2日目に複製し片方食べた場合、その複製したパンはあくまでも"昨日のパン"だ。

それをまた3日目に複製し、片方食べた場合、残っているパンも"一昨日のパン"なのだ。


飴などはかなり日持ちするが、パンは複製しても3日が限度だ。7日目にはカビが生える。

南の街から馬車で3日走る間は、南の街で買ったものを複製して食べながら凌いでいたが、さすがに買い換えが必要で、北の街で新しく食料は調達していた。



ティリーエの鞄には、昨日の出発時に買った丸パンとチーズ、りんご1個が入っていた。

これを複製すれば、また3日間は大丈夫なのだ。

さて、今朝からまだ何も食べていない。

こっそりどれかを複製して口に入れようかな、と鞄に手を入れて探っていると、




「あーあ、腹減ったなぁ」


ふいに、団員の誰かが呟いた。


「そこにあるぞ」


また誰かが端の木箱を指さした。

言われた団員は嫌そうな顔を浮かべながら、


「もうずっと、硬くて酸っぱいパンと干し肉だぜ? 顎がどうにかなっちまいそうだよ。 柔らかいパンとか肉、あったかい汁物が恋しいよ」


トホホ、というジェスチャーをしている。

ティリーエは鞄に入れた手を一度出して止めた。



見渡せば、皆疲れ切っていた。

目はしょぼしょぼ、口は不満げに潰れ、ため息ばかりが落ちている。


討伐遠征が始まって2週間と言っていた。

まともな食事は摂れていないのだろう。 うーむ…



ティリーエはこっそり野営テントを抜け出した。

見上げれば、空は赤紫の夕暮れ時だった。

直に夜になる。

ティリーエは攻撃魔法が使えないから暗くなる前にと急いで走った。

テントから1番近い草原に向かい、食べられる野草を摘んだ。蔓状の草の根を起こし、芋根を掘った。

そこまでしてから再びダッシュでテントに戻る。



「セリオン様、鍋を貸して頂けませんか?」

ティリーエが頼むと、籠いっぱいの草を見て驚き顔のセリオンが大鍋を出してきてくれた。



「どなたか、火を出して頂けませんか?」

そう声を掛けると、2人ほど火魔法使いが飛んで来てくれた。

すぐに薪に火をくべ、湯を沸かす。


干し肉を入れてくつくつと滾らせる。

徐々に肉がふやかされてほぐれ、辺りにふわんと良い匂いがしだした。

そこに皮を剥いた芋根を入れて再び炊く。

最後に葉野草と香りの強いハーブを入れてひと混ぜし、塩で味を整えた。



次に、こっそり複製したチーズを枝に刺し、火で炙る。

トロリと柔らかくなった所で、少し温めたパンに乗せた。

そのパンを複製すれば早いのだが目立つので、パンとチーズをそれぞれ複製して、ひとつひとつチーズを焼いてパンに乗せていく。



リンゴはうさぎさんに切って盛る。

ひとつひとつ切っていてはきりがないので、これはひっそりと複製した。



「皆さん〜 お食事できましたよ〜!」


ティリーエの呼びかけに、魂の抜けた者達がふらふらと引き寄せられてきた。

さっきから美味しそうな匂いがぷんぷんしていたのだ。

こんなに煙や匂いを出して魔物に気づかれたらどうするんだと言いたい半面、久々のまともな食事にありつけそうという期待感がそれを上回り、結局誰も窘められなかった。



物資の受領や治療のための後衛地は、街と前衛地の中間にある。

後衛地は魔物から遠く、襲撃の危険性が低いので火を使うことは問題ない。一方、魔物の巣と近い前衛地での食事は保存食に限られ、基本火は使わない。

居場所を気づかれないためだ。

保存食はパサパサあるいはカチカチの乾物が主。


疲れ果てた団員達は、お腹を温かく柔らかいもので満たしたい欲を抑えきらなかった。



結果、大宴会となったのだ。




「うっっっま!!!」


「沁みるゥ!!」


「本当に、美味しいです」


皆もりもりと口に運び、ものすごい勢いで平らげていく。

おかわりの声がひっきりなく響き、ティリーエは鍋の中身を微妙に増やしながら対応する必要があった。


うさぎのリンゴが意外に好評で、娘に作ってやりたいという団員もいた。デザートまであった久々の食事に団員は皆喜び、ティリーエとの距離も更に縮まったようだ。




「その魔道具、メッチャ便利ですね!」


頬をパンパンにした団員が指差すのは、ティリーエの鞄だ。

パンやチーズが無限に出てくる(ように見える)この鞄は、『収納が無限にできる鞄』と紹介し、『親戚から貰った土産の魔道具』ということにしていた。

先程から皆のぶんのパンをこの鞄から取り出して渡していたのだ。

わんこ蕎麦ならぬ、わんこパン。

つまり四次元ポケット的な立ち位置といえる。

おかわり自由な上、ふわふわで美味しいと皆喜んでいる。

何とかバレなくて良かった。


ティリーエはほっとひと息ついて、自分もチマチマとパンを齧り始めた。




ティリーエの手料理は本当に美味しい。

街ではきっと、お嫁さんにしたい娘ナンバーワンだろうな。

私も同感だ。

パンを齧る姿も可愛い。リスかうさぎか… とにかく尊い。

しかし… あんな魔道具、聞いたことないぞ。

どこの土産だ…?



またしてもセリオンはティリーエの隠し事を訝しみながら、3つめのチーズパンを口に入れた。



うまい。





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