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骨折 ≒ 打撲?

「セリオン師団長! こちらです!」


後衛地に着くと、待機していた団員が奥に誘導してくれた。


「新しい薬師様が、準備されてお待ちです!」


「何!? 来てくれるのか!?」


行動早っ!!

予想外だがありがたい!



「はい! 新しい薬師様は‥ 神様のような方です!

 優しくて綺麗で、信じられない程に腕が良いのです!」



ここでもあの兄弟と同じく女神崇拝が起こっているのか。

話を聞けば必ず容姿が出てくるあたり、かなり美しい令嬢なのだろう。美しい娘に看病されれば痛みが和らぐというのが実情なんじゃないか…


とセリオンが思っていると、


「お迎えの方が来られたそうですね!? 

 いざ、行きましょう! 急いで!!!」



そこには、サイズの合わないダブダブの団員服、しかも尻にクッションを縫い付けてある(つまり尻だけやけにデカく膨らんだつなぎ服という)、謎ファッションの娘が立っていた。


「馬に乗っても極力おしりを傷めない最高の服です!」


親指を立ててそう言い切る。

ティリーエは北の街までの騎馬移動で尻をかなり痛めていた。

そして、こういう戦地では馬車ではなく騎馬なのだと知った。

馬の背は緩衝具のついたタイヤとは違って路面の状態を強く反映する。打撲だらけにならないためには、尻を鍛えるか厚くする他ないと思ったのだ。


鍛えるのは間に合わないため、急拵えでクッションを尻部に縫い付けることにしたのだ。




あっけにとられたセリオンの視線に気付いているが、ものすごく変な服なのに彼むしろ彼女は自信満々だった。


隣には、これまた無理矢理服を交換されたらしい団員が、令嬢のワンピースを着せられて情けない顔をしている。

(一部の団員からは、なぜか妬ましげな視線を浴びている)



「帰ってきたら、お返ししますから!!

 さぁ、時間が勿体ないので行きましょう! 早く!」


元気にそう言い切る娘は、セリオンの予想と全く違う女性だった。

こんな女性がいるのか…



「あ、ああ… 宜しく頼む。 私の名前は」



そこまで言って、2人は顔を見合わせた。

しばらくぶりの再会だし、土汚れていたから気づかなかったのだ。



「セリオン様!!?」「ティリーエ???」




後衛地から前衛地までの騎馬移動は崖や悪路が続いていたが、謎ファッションとセリオンとの会話のお陰で、全く苦痛なく行うことができたのだった。









連れて行かれた場所には妙な岩の塊が盛り上がった部分があり、古墳?と思っていたらセリオンが声を掛けた。

するとかまくらは消え去り、中から昨日治療した彼(兄団員)と、横たわった弟団員(コピル)が現れたのだ。

こんな魔法もあるのか…

ティリーエは魔法を間近で見るのは久々だった。



さて。

今回は弟様の方ですか。

昨日お別れしたばかりだったのに、こんにちわ!



‥‥‥



これは、首の骨まで折れてますねぇ。

全身バラバラと言っても良いくらいです。


ティリーエは黙って診察を行うと、兄団員に言った。


「動かさなくて良かったです。とても良い判断でした。

もしチョコットでも動かしていたら、息の根が止まっておりましたよ」


にっこり笑って褒める。

本当に危ない所だった。



「で、診察結果ですが、まぁ打撲ですね!」


「エッ!?」


「"全身打撲"です!」


ティリーエがそう断言すると、セリオンと兄は目を点にしてティリーエを見つめた。


「エッ!? いやいや絶対折れてますよ!」

「あぁ、私も、少なくとも一箇所は折れていると思うが」


2人は驚きと困惑の入り混じった顔で異論を唱える。

(コピル)も、指一本動かせないが、頷きたそうだ。



ティリーエは、いつもの特性ジェル(特に何も効果の無い嘘薬)を鞄から取り出した。

ここにはファラもいないし、医学の専門知識がある人もいない。まず大丈夫だろう。

キョロ…

と周囲を確認しながら、コピルに塗っていく。


折れた骨が全て元通りになりますように…

祈る指先は淡く光って、治癒の力が注がれ始めた。


骨の形や構造は、完璧に頭に入っている。

イメージを膨らませながら指を滑らせ、祈りながら全身にくまなく薬を塗り広げた。



足先まで塗り終わると、


「はい、もう大丈夫ですよ」


と言った。にっこりと零れる笑顔につられてコピルも笑みを浮かべ、



むっくり起き上がった。



そして手をグッパ、グッパ、と動かし、バンザイをし、しばらく考えた後で、




「本当、打撲だったわ。女神様、ありがとうございます!」


「「はぁ!?」」









ちなみに、昨日の落雷の犯人はコピルだった。

彼の魔法属性が雷で、泣いたり怒ったり、感情が昂ると雷鳴が轟き、程度次第では稲妻が走って落雷するらしい。

落雷の落ちる場所や量はまだコントロールできないそうだから、彼に危害は加えない方が良いと肝に銘じた。

正直怖い。



そろそろ暗くなるし、また魔物が集まってきたら危ないと、ひとまず前衛の野営地に戻ることにした。

後衛地までは崖を通るから、夜の移動は危ないのだ。

セリオンと兄は走り、ティリーエとコピルは馬で移動した。



先に戻っていた師団員達は戻らない3人を心配していたので、元気な姿をみて安堵し、盛り上がった。

一緒に帰ってきた、尻が膨れた奇妙な娘に最初は警戒していた団員も、後衛地から来た薬師だと知ると親切にしてくれた。

コピルがティリーエと体格が似ていたので、団員服を貸してくれることになった。



その後兄弟からティリーエの女神ぶりを聞いた前衛陣営も皆骨抜きになり、明日は俺が怪我しようかなどと言う輩まで現れて、セリオンに睨まれていた。

女神のように美しいのに、高飛車な所が無く明るいティリーエは親しみやすく、団員達とすぐに打ち解けた。


団員のしょうもない絡みにも嫌な顔をせずにこにこしながら応対しているティリーエを見ながら、セリオンは考えていた。



相変わらずティリーエは優しくて綺麗だ… 

しかし女神よりも天使じゃないか?

じゃなくて!!



やはり、ティリーエには何かあるな。

何かを隠している。

自分達が知らない、何らかの魔力を持っているのだろうか…


コピルは絶対に骨折していた。

万一打撲だとしても、あの状態から馬に乗れるまで瞬時に回復するなど有り得ない。

一体何が起きたのだろう。


しかしとりあえず、聞き出すのは今じゃない、と思い、静かに目を閉じた。


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