表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/160

魔物討伐、後衛地へ

ティリーエがいる街は、王国の南側に位置している。

魔物が出るのは魔族の森が近い、北側と西側の土地だ。

魔族討伐部隊にティリーエが志願すると、南の街の役人は驚いた顔をした。



ティリーエの薬師としての腕は、この街で知らない者はいなかったし、綺麗で優しく評判も良い。

南の街は魔物が出ないし治安も良い。

だからこそ、わざわざ遠く危ない土地へ行く必要は無いのではと、引き止められた。

しかし、ティリーエの決意が固いと知ると、役人は頷き、「君は若いからと侮られるかもしれない。僕は師団長に知り合いがいるから、正しく取り計らって貰えるよう、推薦書を添えておくよ」と言ってくれた。


ティリーエがお礼を言うと、「僕こそ、弟が世話になった」と笑顔を向けられた。

先日丸太で骨折(表向きは捻挫)した少年の、兄様だったのだ。




こうしてティリーエは、北の街に向かうことになった。

薬師で稼いだお金はたくさんあったから、悠々と馬車で向かうことにした。

かなり距離があるため途中で乗り変える必要があり、結局7回も乗り継ぎ、3日がかりの行程だった。

さすがにお尻が痛くなり、この程度で痛むなんて軟弱になったものだわと苦笑した。



北の街に着くや、食料を補充してから役所を調べて尋ね、応募要項と志願書を差し出した。

ティリーエを見た役人は、あまりの美しさに最初は息を飲み、討伐隊への志願だと知るや怪訝な顔になった。

命懸けの仕事だ、お嬢さんのお遊びじゃないんだぞと凄まれたが、推薦書を出すと掌を返して案内をされた。


丸太坊やの兄様に感謝だわ…


何枚かの書類にサインをし、指示された場所へ向かう。

案内は、その専門?の係の男性がしてくれるみたいだ。




討伐隊の後衛地までは、まさかの騎馬移動だった。

勿論ティリーエは乗馬なんかできない。したことがない。

馬に乗れないティリーエは、2人乗りで案内役の男性の前に乗る形だったため、年頃の娘としてちょっと緊張していたが、すぐにそれどころではなくなった。

足も股もお腹も背中も痛い!

足場の悪い場所で馬が跳ねるたび、突き上げられるような痛みが全身を走り、高低差のある場所から飛び降りるたび、背骨が潰れるような痛みに呻いた。

案内役の男性は寡黙で、会話もなく、気を紛らわすこともできなかった。



そうしてついに後衛地に着いた時には、ティリーエはぐったりして吐く寸前だった。

もともとが馬車で3日間休まず飛ばしてきた直後の騎馬移動だったのだ。


うぷ…



せり上がって来る酸っぱい液を必死で堪える。

疲労や馬酔いは病気でも怪我でもないので、聖力で癒せないのが辛い。


せめてコランの葉か、ラベルの実があれば…

ティリーエがキョロキョロしていると、ここまで案内をしてくれた男性が、1人の男性を連れてきた。


「こちらの陣営の責任者の方だ。後はこの方に相談して下さい」


「あっ! ありがとうございました!」


男性は刹那的な会釈をしてまた街に帰って行った。

最後まで、必要最低限以下の会話しかできなかった…




後衛の責任者という男性は、小柄で赤みの強い茶色のくるくる髪、テディベアのような風貌の方だった。

目がもこもこした前髪に隠れていて年齢不詳だが、ほうれい線が無いから多分若い方なんじゃないかな?とティリーエは思った。



「あの、ティリーエと言います。南の街から来ました。

薬師をしています。宜しくお願いします」


「うん。僕はファラ。医術師だよ。宜しくティリーエ。

早速ひとつ聞きたいんだけど、君はここに何しに来たクチ?」 



「???」



ティリーエが質問の真意を測りかねていると、ファラは続けた。



「綺麗な女の子が、好き好んでこんな戦場に来るなんて、何か事情があるのが普通じゃん?

今までそういう子が何人か来たんだけど、色恋目当てか親に売られて来た子ばかりでさ。それでもせめて何かに役立てば良いのに、血を見て震えて怪我を見て泣いてって、全然使い物にならん。むしろ邪魔なんだわ。

そんな奴に割く時間は無いんで、こうして最初に確認してんの。

で、どう?」



ティリーエは、こんなに明け透けに物を言う人に会ったことがなかったから、呆気にとられて言葉を失った。


「えっと…」



何から話そう?

志願した理由を話すには、生い立ちから侯爵様の事情まで話すことになり、それは初対面の人にどうなのかなどと自問自答する。

かと言って、適当な理由では、この栗毛のテディベアは納得しそうにない。


ううむ…


黙り込んだティリーエに少し苛立ちを感じ始めたファラに、向こうからお呼びがかかった。



「ファラ様! 怪我人が運ばれて来ました!」


ファラとティリーエが顔を上げる。


「ひとまず話の続きは後だ。とりあえず一緒に来て、怪我人を診よう」




バタバタと、救護舎に連れて行かれた。



そこは、想像以上の修羅場だった。




噎せ返るような血の匂い、また、嗅いだことの無い匂いに溢れ、呻き声と弱々しい泣き声が入り交じる。

神に祈る声も聞こえた。



「ボーっとしてないで、こっち来て!」


怒れるテディベアに呼ばれて行ってみれば、肩から背中を切られた団員が横たわっていた。


「空から爪で引っ掻かれたんだ。陸の魔物に気をとられていたから」


何とかここまで連れてきた仲間の団員が、泣きそうな顔で説明する。

先程までは包帯で止血していたのだろうが、解かれた今は徐々に血溜まりができつつある。 

意識は無いようだ。


「ねぇ、兄ちゃん大丈夫?大丈夫だよね? 死なないよね…?」

不安げに問い掛ける。

付き添いの彼はただの仲間でなく弟なのか。



「さぁ、どうする?」



表情の見えないテディベアが、感情を乗せない声で淡々と聞いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ