表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/160

ティリーエの不思議な力③

ティリーエが危惧したことも当たっていた。

この力は悪用すれば、世界を変えてしまう力なのだ。



金や宝石、鉱物を無限に増やしたり、武器や武具を大量に供給すれば、様々な均衡を崩す。

そんなことをできる民族は危険だと、根絶やしを目論む者も出るだろうし、逆に捕まえて自分の意のままに操ろうとする者もいるだろう。


だからアマルの民は、この能力を曲解あるいは秘匿し、体外的には『聖力』『癒やす力』だとしている。

この力を争いに使わず、医学的な用途にのみ絞って使用するよう定められているのだ。

シャムス王国で『魔力』を持つのは国民の3割だが、アマルの民で『聖力』を持つのはたった1割だ。

祖父にもリリラーラにも顕現しなかった。

月光神殿の洗礼で聖力が顕現した場合、神官から制約魔法を掛けられる。

神官は代々、制約魔法が使える血筋の者が継ぐ。

その制約とは、"病める人を癒やす目的以外に聖力を使えば、聖力を封じる"というものだ。

神官の制約魔法は強力で、何人たりとも破ることはできない。

制約を受けた聖力持ちは、薬師や医術師としての研鑽を詰んだ後、本人が望めば国外に出て『聖女』『聖人』として人々の助けになることが認められている。



ティリーエは月光神殿で洗礼を受けていないので、制約魔法を掛けられなかった。

それで、目的に関わらず、雑巾やナイフ、食材の複製や操作が可能だったのだ。

ナーウィス伯爵家の毒婦に見つかれば、かなりヤバかったと言える。

良くて見せ物小屋で手品師、悪ければ一生監禁されて金蔓、また死なない(怪我をしても自力で治せる)奴隷として痛めつけられた可能性すらある。

自分の判断力に感謝だ。








「ティリーエを、薬師見習いとしてここに…?」



祖父とティリーエが話して出した結論は、ここに残ることだった。

縁もゆかりも無い侯爵家に、これ以上お世話になるわけにはいかない。

それに、聖力を正しく使うために、祖父の元でまだまだ勉強をしなければならない。


ティリーエは、伯爵家に来る前まではここで薬師の祖父を手伝いながら暮らしていたこと、12歳になったら見習いとして実務経験を積む予定だったことを話した。



「これまで頂いたご恩、宿代、治療代は、薬師として働きながら少しずつ返させて頂きます」


「孫を助けて頂き、本当にありがとうございました」


「‥‥‥‥」


2人してお辞儀をされ、セリオンは何とも言えない気持ちになっていた。

今日は2人で初めての外出であり、可愛く着飾ったティリーエと何か観光的な事をして買い物を楽しむ予定だった。

頼まれて来たものの、祖父宅への立ち寄りは、ほんのついでという気持ちだった。

まさか初手で中座になろうとは…

ただ、自分には彼女を侯爵家に繋ぎ止める大義名分は無いのだ。



権力を使ったり、メイドとしての働きを求めれば可能かもしれないが、それはしたくなかった。



「そうか。2人で話した結論ならば、異論は無い。

寂しくなるが、伯爵家のことは、どうにかしておくから心配しなくて良い。

もし困ったことがあれば、いつでも頼ってくれ…」


平静を装い、住所と連絡先を書いた紙を渡す。

異論などありまくりだ。

突然の別れに広がる胸のもやもやは、どうしたことか。

そんなに自分は今日の外出を楽しみにしていたのかと自問する。

ティリーエを思えば、祖父と再び一緒に暮らせ、念願の薬師にもなれる最良の方法だ。

薬師は平民の中では収入が安定しているし、ティリーエの容姿なら良い縁談もすぐに来るだろう。

そう考えたらもやもやが急に重量を増して腹に沈み込む。

息苦しくすらあった。



「セリオン様。ご恩は絶対に忘れません。

セリオン様がもしお望みになれば、その左手を治せるようになりたいのです。

それ以外のことでも、いつかきっと、お役に立ってみせます。しばらくはここで祖父と頑張ります!

今日まで、本当にありがとうございました!」



彼女のキラキラ輝く瞳に映る自分は今、どんな顔をしているのだろうか。

新しい門出を祝って笑えているだろうか。

目の前の笑顔を焼き付けて軽く首を振った。



「いや、私のことには構わず、人々を助け、目指す道を進んで欲しい。

君がいる間、侯爵邸は華やかで明るく、楽しかった。

こちらこそ礼を言いたい。

ありがとう」



それは本心だ。

それに、自分の左手について変な責任感を持って欲しくなかった。

怪我を負った時、国中の名医や薬師を頼ってかなり走り回った。

だが、神経と筋肉が完全に断裂していたので、誰も治せなかったのだ。

表面だけでも繋がったのが奇跡とまで言われた。

動かないくらいは仕方ない。

左手を使わない生活にも慣れた。

努力が実を結ばずに彼女が落胆する所を見たくはなかった。



セリオンは、なるべくしっかりした足取りで馬車に向かう。



走り去る馬車が見えなくなるまで、2人はずっと、その後ろ姿を見送っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ