表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/160

最終話

「今日は大変な、だが充実した1日だったな」

「本当に… まだ夢の中にいるみたいです」



夜、もう深夜の時間帯だ。

2人は夜着に着替えてくつろぎ、飲み物を飲みながら今日を振り返って感嘆のため息をつく。


「だが、今日のティリーエは、いっそう美しかった。さながら、キラキラ光る氷砂糖のようだったよ」

「まぁ、そんなに輝いてましたか、私?」


ふふっと笑うティリーエを、ほんのり灯りが照らす。


「こんなに幸せな日が来るなんて、思っていませんでした。あの家から助け出して頂いて、お嫁さんにまでして頂いて、セリオン様への感謝は尽きません。

これからもお傍で、御恩をずっと返していきます」


「いや、私の方こそ、今までずっと癒され幸せを貰ってきた。これからティリーエのどんな願いも叶え、幸せにしたいと思っている。

私と結婚してくれて、本当にありがとう」


目が合えば、どちらともなく笑みが溢れる。

すくっと立ったセリオンに続いて立ち上がったティリーエをひょいと抱える。


「ほらこんなに軽々抱えられる。私の腕が素晴らしい回復をして貰ったからだが、ティリーエももっと食べて太りなさい」

「セリオン様、私はこれくらいが丁度良いですよ」


ティリーエが笑いながらセリオンの首に手を回してキュッと抱きついたのを合図にセリオンは歩き出した。

そして、新品のシーツで美しく整えられたベッドに、そっと下ろす。


「…今日は疲れているだろうから、明日でも良いのだ。

いや、むしろ望まなければこれからも無理強いはしない」


「まぁセリオン様。そんなこと!

ノンナに今夜の過ごし方を聞いたのですが、全てセリオン様にお任せしてただ寝ておけば大丈夫なのだそうです。それを繰り返すと赤ちゃんを授かるのだとか。私ひとりっ子なのでとても楽しみです。

宜しくお願いします!」


ティリーエは母親からそういった話を聞けないまま、また耳年増な友人もいないため、初夜に関する知識は皆無だった。


3メイドが、いよいよ初夜ですね!と囃すものだから、初夜とは何かと聞いた所、結婚式の後から夫婦で一緒に寝ることだと言われたことを信じている。

だからティリーエは元気いっぱいだ。

ベッドで転がり、さぁどうぞ遠慮せず!

とばかりにセリオンを手招きする。


にこにこのいつものティリーエを見れば、セリオンも強張っていた肩を落とし、ふっと笑った。

と同時に、驚かせてしまいたいような、いじめたいような気持ちになる。


「では、ティリーエ。その言葉に嘘偽りはないな?」


「もちろんですセリオン様。寝相が悪かったらごめんなさい。ルーチェを潰したことはないので多分大丈夫とは思うのですが」


セリオンの脳裏に、ティリーエと先に寝たぞと得意げなルーチェの顔が浮かぶ。

少し面白くない気持ちにもなり、あの子の知らないティリーエを一番先に見たいという独占欲に火がついた。

全く大人げない。


ティリーエの傍にセリオンも横たわる。

ベッドが沈んだことでティリーエがセリオンの方に傾き、蜂蜜色の髪がさらり、と流れた。

シャンプーの匂いにくらくらする。

ティリーエはそのままセリオンの腕の中にころんと入った。


「ふふ、あったかい」


セリオンに比べればかなり小さな身体を抱きしめる。

ドキドキと鼓動の音が響く。

セリオンは覚悟を決めて呼吸を整えると、ティリーエに優しく口づけをした。

ティリーエはたどどしく応える。


「可愛いティリーエ、私の妻…」

セリオンは熱い息を吐いて口から首筋へとキスを落としていく。


「セリオン様? くすぐったいです」


ちゅーは口にするもの、と思っていたティリーエは、ちょっとびっくりしながら笑う。

キスは街でよく見かけていたから、恋人同士の睦み合いとして認識していたが、首筋にもするとは知らなかった。気恥ずかしく、こそばゆい。

初めての感覚に感心しているとセリオンの手がティリーエの頬から離れ、胸の前のリボンにかかった。


「あ、それをほどいたら、服が脱げてしまいますよ?」


もともと、今日は夜着が妙に薄いな、とは思っていた。

だけど、2人でくっついて寝たら暑いからだろうと1人で納得していたのだ。なのに今、薄い上に緩〜く結わえられていたリボンを引かれたものだから、ティリーエは心底驚いた。


「服を脱ぐんですか? どうしてですか??」


セリオンは構わずその先へ進む。


「ひゃっ   え?? セリオン様!?  何を?



 えっ????        あ」




その夜ティリーエは、想像もしなかった行事にノープランで挑み、未知の世界の扉を開いたのだった。



翌朝、ティリーエは目を覚ました。

身体は全く動かない。

仕方なく、目だけ動かして隣で眠るセリオンの姿を眺めながら、ぼうぜんと昨夜の出来事を思い出す。

初夜の何たるかも知らずに、ベッドでおいでおいでと手招きをしてセリオンを誘った自分に張り手をしたいほどの羞恥心に駆られたのは、言うまでもない。



2人はその後2男1女を授かった。

ルーチェが長女の良い遊び相手になり、侯爵家は使用人も増やして大変賑やかになった。(長女であるナターシャはルーチェのお嫁さんになると言っているらしく、それはまんざらでもないようだ)


ティリーエは聖力を困っている人のために使い、国の窮地を何度も救い、聖女として人々から大切にされた。

セリオンは魔術師団長として魔物の討伐を精力的にこなし、絶大な魔力と強さから、英雄として名を馳せた。

2人はシャムス王国の伝説として、長く語り続けられることになる。








「アイシャ」


ヴェッセル侯爵家の結婚式の警護には、他の魔術師団員も招集され、その役割を果たしていた。


アイシャも副師団長として例に漏れず誘導や規制を行っている。


街の皆や王族からも祝福される2人を直視はできなくて、1番遠い場所の警護を希望した。

そんなアイシャに、結婚式を終えて帰ってきた師団長が声をかける。


「すごい人の量だな。お疲れ」

「スヴェン師団長。お疲れ様です」


「泣いてたのか?」

「泣いてはないです。でもやっぱり、平気じゃないですね」


どう見てもアイシャの目尻が赤いのだ。擦ったことは明らかだった。

スヴェンは少し考えて口を開く。


「僕の家は、まぁまぁお金はあるよ」

「!? いきなりどうされました?  そうですね、師団長の領地、鉱山ありますもんね」


「僕はセリオンみたいにムキムキしてないけど、結構力は強いよ」

「そうですね、師団長は細マッチョですもんね。ガッチリはしてませんが筋肉あるとは思います」


「・・・・」

「・・・?」


アイシャが志願した警護の場所は、スヴェン師団長の帰り道の方向とは違う。

何か用事があるのだろうか、しかし何が言いたいのか良く分からない。


「君の家の借金、僕なら何とかできると思うよ。

ただ、今後借金を増やさないために健全な領地経営ができるように有識者を配置させて貰うけど」


(ああ、心配をしてくれていたのか)

イーデン伯爵家は賭博による借金に加え、聖女誘拐加担の罪で賠償金を課せられ、まさに家計は火の車だった。


「え… いえ、師団長にそこまでして貰うわけにはいきませんよ。お気持ちだけ、ありがとうございます」


当然断る。


「・・・・」

「・・・・」


スヴェン師団長はまだ帰らない。

そして意を決して切り出した。


「僕では、セリオンの代わりにはならない?」

「・・え?」


「僕の家は伯爵家だから、侯爵家よりは格下だけど鉱山業で割と裕福だし、身体もそこまでナヨナヨしてない」

「存じ上げております」


「君のご両親が、セリオンとの婚姻を強く希望されていたから今まで言えなかったが、僕も立候補して良いだろうか」

「えっ」


「ずっと、明るくて努力家な君が好きだったよ。

もう遠慮しなくて良いなら、婚約を申し込みたい」

「ええええええ?」



気持ちの整理がまだ、と言っていたアイシャだったが、降って湧いた好条件の婚約に両親が飛びつき、とんとん拍子に話がまとまった。

イーデン伯爵家の財産を横領し、碌な管理ができていなかった執事を変えてから、だいぶ収益が上がり、無事に借金は完済できた。

想定外の結婚となったが、結局愛される幸せに溺れ、魔塔で有名なおしどり最強夫婦となったそうだ。




こんな拙いお話を最後まで読んで頂いて、ありがとうございました!


次の物語を投稿させて頂きました。

舞台が中世貴族でなく古典の日本となっています。お目汚しかと思いますが、暇つぶしにでもお読み下さいませ(*^^*)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 完結お疲れ様でした! 二人が子沢山に恵まれて良かったし、ルーチェくんのお嫁さんも見つかったかな(笑) 読んでて長男と次男の男コンビは、お父様のように恋に奥手に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ