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魔法陣の設置場所②

「ティリーエさん!こちらではないですか?」


「それっぽいですね! 栞を挟んでおきましょう」


「あっ! この記述と絵… かの鳥さんじゃないですか?」


「本当ですね!こんな場所に書いてあるなんて…」



翌日は、ディアナ様と共に王宮図書館で調べ物をしていた。王宮図書館は、許可証さえあれば誰しも入ることを許されているが、王族しか閲覧できない資料があるのだ。



昨日の謁見、御前会議の後はまた別件で議案審議があり、セリオンが解放されたのは夕方であった。

ティリーエはディアナ様とお茶をしながらセリオンの戻りを待っていたが、時刻が遅くなったため、結局そのまま王太子夫妻と晩餐となったのだ。

その席で、例の魔鳥を王宮図書館で調べることの許可を頂いた。

興味しんしんのディアナ様と、今日は調べ物をすることになったのだった。




今、ディアナ様が見つけたのは、建国神話の中にあるこの世界の女神様が書かれている部分だ。

その本は子供向けの絵本であったが、女神の横に描かれていたのが、白くて大きな鳥だったのだ。

羽の末端は青みがかっていて尾が長く、大変美しい鳥だ。



「絵本には、具体的な鳥の名前は書かれていませんね。そちらの図鑑ではいかがでしたか?」


「先程から魔物の図鑑を見ていますが、このような魔鳥は見当たりませんね。

…もしかして、魔鳥ではないのかもしれません」


「あんなに大きい鳥でしたから魔鳥だと思い込んでおりましたが、ほとんど誰も登ったことのない山の鳥ならば、見たことのない種類の動物でもおかしくありませんね」



そうして2人は『鳥類図鑑』、『高山に住む動植物』、『大型動物のすべて』などの書籍を次々と調べていった。

すると、



「ディアナ様! この鳥かもしれません」


ティリーエが読んでいた本に、あの羽と似た色の羽を持つ鳥を見つけたのだ。


それは、『色々な国の美しい鳥たち』という題名の本だった。



「″ユキシロオオタカ″と書いてあるわ」


「タカの仲間だったのね。

″アル・カウン大陸に生息する神鳥。高冷地に生息するため幻の鳥と呼ばれ、実際にその姿を見た者はほとんどいない″

″昔、この大陸を治めていた女神が、ユキシロオオタカを使役していたとされる伝説から、神鳥とされている″

″性格は温厚で、攻撃性はほとんどない″」



「大きいけれど、害があまり無い鳥だったのね」


「この大陸は、アル・カウン大陸と言うのね。シャムスとナジュムとアマルの国が全て同じ大陸にあった時、ここをアル・カウン大陸と呼んでいたみたい」


建国神話の絵本の中に、その文字を見つけた。

一気に検証作業をしてふぅと息を吐いてから、ティリーエは思った。


(あー、あの時、卵を片っ端から割る案にならなくて良かった…!)



山頂での団員たちの雰囲気は、間違いなく卵損壊もしくは調理コースだった。なにせ、あんなに大きな卵、絶対に魔物のものだと思われていたのだ。

羽化、成長すれば人間に害しか無いのだから、卵のうちに再起不能にした方が簡単で一石二鳥だった。

ティリーエですら、一瞬、ネズミが鍋で大きなカステラを作る憧れの童話を思い出したのだから。

神鳥の卵を全壊していたら、どんなバチが当たったか分からない。ひとつとして割らなくて、本当に良かった。



「それにしてもこの女神様、本当にティリーエさんによく似ているわ」


ディアナ様がじっと見つめていた絵本の挿絵と、ティリーエとを見比べて言った。



「そんなこと…」


女神様に似ていると、過去何度も言われてきたが、だからといって「あ、そうなんです。よく言われます」などと肯定できるわけがない。畏れ多すぎる。



「ティリーエさんがその翼で、この鳥と一緒に飛んだなら、さぞかし美しいでしょう」


ディアナ様はうっとりとしている。しかし、ティリーエをひとのみにできるサイズの鳥と並飛行するなど、恐怖でしかない。

曖昧に笑って、ごまかした。








「というわけで、あの山にいた鳥は、魔鳥でなく、ただの大きな鳥でした」



「なんと… 神鳥…」


その日の午後の2回目魔法陣会議で、ティリーエが調査結果を伝えた。

今回の会議には、各大臣や宰相も参加している。

この会議で魔法陣の設置場所を決めるつもりなのだろう。



「かの鳥は、ユキシロオオタカという名前で、高山植物の実や花、虫を食べて生きているそうです。性格は温厚、攻撃性はほとんど無く、建国神話では女神様に追従、使役されていた神鳥とのことです。

多分、親鳥が食事に出ている間、外敵が卵へ手を出せないよう泉を巣にしているのだと思います。湧き水は地熱で地面の雪より温かいですし、水の中にあれば、倒れても割れないでしょう。

今回みたいに、5つの泉の河口が卵で全て潰れたのはかなり珍しいことだったのでしょうけれど、1つや2つの泉が潰れることは珍しくなく、だから年や時によってラーゴの湖への水流が減り、その程度で水不足や干ばつが起きるのだと思います。

調べてみましたら、今年ほどではなくても、西の街は数年に1度は水不足に見舞われています」



「ふむ… ふむ… なるほど。確かにな…」


王は頷き、宰相に視線を送る。


「西の街は、おっしゃる通りに何度か干ばつ、渇水に見舞われています。これまでは魔術師の派遣で事足りていましたので、あまり深く追求をしていませんでしたが、そのような事情ならば納得できます」


宰相も同意した。



「西の森から時々魔物が出てくるのが、水を求めてなのであれば、その対策も必要であるな。街まで出てきたら、大混乱が起きる」



「ではやはり、魔法陣はアステロス山脈に設置が妥当か」


「だ… だが、数年に1度の災害のために、国の発展のチャンスを棒に振るのは…」


「そのとおりだ。鉱山も農業も、輸出入が円滑にできればかなり国は潤い、国民の生活は楽になる。水の災害を防ぐばかりが国民のためとは言えないぞ。だいたい、その案では、南や東、北の街にはたいした利益はない。

国全体が栄えるような使用用途にするべきだ」


大臣達はティリーエの意見に懐疑的だった。

自分達ならここに設置する、と、調べた地理や人の流れ、今後の作業の見通し、見込まれる利益などをきちんと説明し、提案をし始めた。

公益とは何か?

それぞれの価値観により話は平行線で、やはりなかなか決まらない。

わやわやと話は盛り上がるが、結局決定的な意見は出なかった。




パンパンッ


王様が大きく手を叩き、場が静まり返る。


そして、ついに口を開いた。


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