魔法陣の設置場所①
「どこに置こうかなぁ」
引き続き、転移魔法陣の設置場所について、皆で頭を悩ませる。
「実は宰相や大臣達とも相談したのだが、三者三様という結果だったんじゃ」
王様が困ったように話す。
「彼らは何と?」
「産業省の大臣は、産業の発展のために鉄鉱山と加工場への設置が良いのではと言っていた。運搬コストや労力の面で利便性が高いからね。
農林大臣は、大規模なプランテーションを作りたいと言っていた。広大な農地と港の船着き場に設置し、肥料や種、苗の輸入から搬入と、できた作物の輸出がスムーズにしたいと。
あとは… 保安の観点では、王都と北の街という案もあったな。かなり離れているから有事の際の移動が遅れてしまう問題が解決できる。
宰相は確か、観光資源の活用や他国からの遊客のために、港と王都をつなぐ案を推していた。
どれも甲乙付け難く、なかなかに良い案ばかりでな」
「なるほど… 」
「どの案も捨てがたい…」
「産業も他国からの外遊誘致も国にとって有益だ」
皆で頭を抱え込んだ。
「… ティリーエさんは、どう思う? 先程から難しい顔で深く考えているようだ」
「え? 私ですか??」
ティリーエもぱっと見はううむと考えていたが、実はちょっと違うことを考えていたのだ。
意見を求められるとは思っていなかった。
「あっ、いえ、あの…」
言い出すかどうか少し躊躇しながら、小さな声で口に出す。
「今回の渇水や水害の原因は、魔鳥の産卵場所が山頂の泉で、巨大な卵が河口を塞いだからでした。
このせいで、2カ国に長く影を落とし、たくさんの民が困窮し、人によっては病を得たり亡くなったり、やむなく引っ越しを迫られたと伺っています。
今回は卵を移動させて解決できましたが、今後再び同じことは起きないのだろうか、と考えていました」
「・・・・」
「魔鳥が産卵する場所など気まぐれでしょうし、次は池のどのあたりなのか見当がつきませんが、いつかまた同じ状況になる可能性は、結構あるような気がするのです。
卵の数からして、今後かなり個体が増えそうですし」
「・・・確かに。」
「ひとたび渇水や水害が起きれば多くの民が苦しみます。その解決に、今回と同じように大人数で登山して卵を動かす遠征をするのは現実的ではありません。
水は皆が生きるために必要なものですのに、山頂に行くまでに4日もかかっては、解決がかなり遅れます。更にあの険しい山脈を超えるのは、皆様もかなり疲弊しておられました」
「うむ・・」
「私は、いつかの西の森であった魔物討伐も、渇水が原因につながっていたのではと思っています。
西の森の討伐の時ですが、既に地面はひび割れ、水が得られる場所は少なく感じました。
森の中の泉は小さく、濃縮されてか水が汚かったですし、森に住む魔物達には水源として不十分だったのだと思います。
普段は森の奥深く、薄暗い場所を好む大針鼠がなぜ街の方に出てきたのかが当時分からなかったのですが、もしかして水を求めていたのではと、思うようになりました。
ですから…」
そこまで話してから、ティリーエは顔を上げた。
続きを言うのが憚られたからだ。
どうしようかと思案していると、
「ティリーエさんは、魔法陣を、アステロス山脈の頂上に置いたらどうだろうかと、思っているんだね」
国王が、優しく問いかけた。
「はい、あの… でも私のような者の、浅はかな意見など、捨て置いて下さいませ。
私には魔法陣を活かしてこの国を豊かに発展させるような案は無く、先程のようなお話は全然思いつきませんでした。
陛下や殿下、宰相様や大臣様のご意見、大変勉強になりました。
ありがとうございました」
あせあせしながら話を切り上げる。
「アステロス山脈の頂上…」
スヴェン師団長が呟いた。
「確かに、此度と同様の災害が今後も起きない保証はない、か。
西の森の討伐の時の地面の乾燥は、私も気になっていた」
「渇水はひとたび起これば、収拾にかなり時間と犠牲が必要になる。しかし… 何も起きなければ、山頂に設置した魔法陣は無用の長物だな」
王太子はむむむと眉を寄せる。
「ティリーエさん、ちなみに、山頂に魔法陣を設置する場合、他の2箇所はどこを考えていますか?」
「えっと、ひとつは王都の魔塔近くに。卵を動かすのに、皆様の力が必要ですから。もうひとつは、ナジュム国側はいかがかなと思いました」
「「「ナジュム国側に??」」」
思わず師団長2人と王太子は素っ頓狂な声をあげる。
国王だけが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「はい。あの、あちらの御国の方さえ良ければ、なのですが…」
「へぇ〜!国外か。 面白いこと考えるね」
シェーン王太子が丸くした目を瞬かせてキョロリンとティリーエを見た。
「元は同じ国だったそうですし、土地続きの隣国でありながら、毎回航路で来られるのは大変でしょう。
魔法陣で瞬時に行き来できたら、交易も楽にできて互いにメリットがあるような気がします」
「ほぁ〜」
王太子は天を仰いで腕を伸ばし、お手上げのポーズでおどけてみせた。
「ティリーエさんの明察には恐れ入るな。だが、シェーンの言うように、何事も起こらなければ山頂の魔法陣は益を生み出さない。さて、どうしたものか…」
王はウンウンと頷きながら、面白そうに皆の顔を見回した。
「ところで、その魔鳥って、なんだったんだい?
火鳥? 鎌鼬鳥? また違うやつ?」
王太子がふと思いついたように尋ね、ティリーエが答える。
「親鳥の姿は、実はしっかりとは見れていないのです。
ただ、火鳥の羽は朱色で、鎌鼬鳥の羽は真っ黒です。
今回拾った羽は全て白〜青灰色でした。このような色の魔鳥を見たことがないので、そのどちらでもないように思っております」
「へぇ〜 そうなのか。そしたら、害がある魔鳥かないやつか判断できないね」
「うーむ」
この日は結局結論は出ず、皆再度考えて明日また意見交換会をすることとなった。




