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遠征からの帰還

翌日、ラーゴの湖を出発し、数日かけて王都に戻った。

同中、まだ作物こそ無いが、畑が耕されていたり、河川から田畑に水が引かれている光景を見た。


行き道に見た、ひび割れた畑はかなり数を減らし、どこも作付けの準備に入っているようだ。



そう言えば、庭にはたはたと洗濯物が揺れる様子も、行き道には見られなかった。今は色んな家の庭に、軒先に、ベランダに、洗濯物が干されている。


ティリーエは馬車の窓から見えるそれらをにこにこと眺めてからポフンと背中を沈め、水や火や電気のある平和な日常に感謝した。







王城に戻った翌朝早く、師団長2人とティリーエが御前に呼ばれた。

謁見の間には王と王太子が先に控えていて、3人が入室するなり、恐れ多くも労をねぎらって下さった。

その後、セリオンとスヴェン師団長が、今回の遠征の詳細と調査結果、解決のために行った作業内容を説明する。



「なるほど…  それは皆、大義であった。ティリーエさんは特に慣れない山道、しかも雪山とあれば大変だったろう。

令嬢にかなり無理をさせたと思っている。力を貸してくれてありがとう」


「今回の遠征は、ティリーエがいなければ達成できまそんでした」

「本当に。ティリーエ殿のお陰です」


「えっ!? いえいえそんな!私は…」


王に礼を言われた上にいきなり2人に持ち上げられたティリーエは慌てふためいて手を振った。


「ん…? それは?」


王は、そんなティリーエの後ろにある物に目を止めた。



「あぁ、今回の遠征で活躍した道具です」


「ほう? 何かの魔道具か?」


「魔道具… といえば魔道具かもしれませんが、これはティリーエ専用の魔道具です」


そう言ってセリオンは、ティリーエに見せるよう促した。ティリーエは頷いてそれを背中に背負った。

それはあの、翼だ。


「これは愛らしい。もともとが天使のようなティリーエさんに、ピッタリのアイテムだねぇ」


王が目を細める。



「これは、魔鳥の羽で作った翼で、ティリーエはこの羽を使って空を飛べるようになりました」


「は?? 空を、人が?  ティリーエさんが飛ぶ?」


「はい」



びっくりして目をパチクリしたままの王様と見つめ合う。シェーン王太子も驚きを隠せない様子だ。

だがむしろ、こんな時にこんな場所へ、実用性のないただの装飾品を持ってきたと考えたのなら、逆に驚きだ。

可愛いデショという話では無いのは当たり前だ。


セリオンはつかつかと掃き出し窓に進み、ベランダへの扉を開けた。


爽やかな風が吹き抜ける。



「ティリーエ、飛べるかい?」


「はい!」


「えっ!? 今!?本気!? ちょ、ちょ待っ…」


慌てるシェーンをセリオンが一瞬見て、いたずらっぽく笑う。

ティリーエも、ベランダに向かって元気に走り、ふわりと柵を乗り越えた。



「!!!!」

「ティリーエさん!!」


王と王太子が手すりから身を乗り出してティリーエの行く先を目で追うと…


きらきら光る朝日を背に、ティリーエは空高く羽ばたいた。

そうして空中をくるりと一回転して見せた。

それは本当に天使のようで、王もシェーン王太子も、しばらく飛び回るティリーエに見とれていた。





しばらくして、ナジュム国側が提示した謝礼について、王が説明をした。


「なんと…! そのような話が持ちかけられていたのですね」

「かの国秘技である転移魔法陣を、我が国に…」


いつもはあまり感情を露わにしないセリオンの頬が高潮しているのだから、かなり良いことなのだろう。



「この水害を解決した礼に譲渡が約束された魔法陣は3つまでだ。我が国への水流が解決した今、ナジュム国の水害も治まった可能性が高い。

きっと近日中に礼と、魔法陣の設置場所や時期について、親書を寄越してくるだろう。

どこに設置するのが良いだろうか…」


「そうですね… 1度設置したら、場所は変えられないので、慎重に選ばねばなりませんね」


スヴェン師団長も考え込んだ。

セリオンも顎に手を当てて思案顔だ。


「セリオン様…  セリオン様っ」


ティリーエが小声でセリオンに声をかける。


「? どうした?」


「魔法陣て、何ですか?」



「あぁ、ティリーエさんはまだ、外国のことを知らないんだね」


セリオンとの内緒話など諸々が聞こえていた王太子が、説明してくれた。


「魔法の形は、土地の力を引き出す力と考えられていて、国家共通でなく、国や場所によって力の形が違うんだ。

我が国は、自然界のエネルギーを魔法で具現化できる。火や水や氷、土、雷などだ。

ナジュム国は魔力のあるものが描いた絵図から力を引き出したり、絵図に力が宿る。

この絵図を、魔法陣と呼んでいるんだ。

火の魔法陣の上に鍋を置けば、肉や野菜を炒めることができるし、癒やしの魔法陣の上に寝れば、病が癒えると言われている。

特に、瞬間移動(テレポート)ができる魔法陣を描ける者は重宝されるんだが、今回は必ず彼を寄越してくれると言っていた。

国家間の約束なのだから、違えることはないだろう」



「魔法が使えるのは、その2つの国だけですか?」


「いや、もうひとつある。建国神話の話になるけど、遥か昔、この大陸はもっと大きく、つながっていたそうだ。

しかし、何百年も前に大陸が割れ、海に別たれてひとつ陸地が欠け落ちた。今は流されてかなり離れてしまい、元が同じ国だなどと知る者もないが、その国は島国となり、アマルという名で独立した。アマルは、我が国の古代語で、″月″を意味する。

我が国のシャムス国は、知っての通り、″太陽″を意味する。


そして、同じ頃、火山の爆発と地殻変動により我が国の土地が突然地割れし下から岩土が盛り上がってきた。更にそれが高々と反り立って連なり、山脈になって土地が分断された。

この山脈がアステロス山脈だ。

この山越えは険しく困難を極め、容易に行き来ができなくなったために、分断された土地はナジュム国として立国した。ナジュムは、我が国の古代語で″星″を意味する。


つまり太陽(シャムス)(アマル)(ナジュム)の3国は、もとは同じ土地、魔法を使える者の生きる場所だったのだ。

アマル国は、海に流されてかなり遠くにあるそうだから、私は行ったことがないんだ。どのような魔法が使えるのかも、実は良く知らない。だけど、何らかの不思議な力が使えるのは間違いないよ」


丁寧に説明してくれた。

久しぶりに聞いた故国の名前に、ティリーエは胸がドキリとした。






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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読んでます! 恋のライバルだけでなく、国もからんだ恋愛劇がはじまりそなう予感!
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