旗を立てるなとアレほど
「ノワ・・・」
「ノワ様」
『やってくれるなノワ』
「違うんですけど!?」
みんな口々に私を責める、違う違う、コレは私のせいじゃないよ! 小型戦闘艦アークは只今艦隊行動を行っていた、艦隊名は『第190721開拓船団オルクス・アトランディア』
番号はこれまで帝国で行われて来た開拓の回数、名前は代表者で、アトランディアと帝国名が入る場合は皇族が参加している証となる開拓船団だ、通称オルクス開拓船団は帝国事業のひとつとして施行される公共事業である。
そんな公共事業に私達アーククルー一同とブラックダイヤのキャプテンは参加していた、この事業に参加したのには海より深い理由がある。
先に言っておくと私は関係無い、第三皇子の名前が『オルクス』であることとか、良い機会だからという理由で第三皇子に開拓船団が任せられたとか、その開拓船団の護衛を頼まれた私には全く関係の無い話である、うんうん。
皇宮での出来事から2、3日程はひっそりと歓待を受けて皇帝達と他愛のない事を沢山話した、その後引き止めるじいじ達を後にママの惑星へ戻って大量の副賞の整理を数日掛けてやっていると再びじいじ達からお呼びが掛かったのだ、それが今回の開拓船団の護衛任務という事になる。
因みにアニマトロン男爵家の面々は「仮に危なくなったら見捨てて逃げなさい」と言った、因みに因みにアトランディア皇家の面々も「ノワールは危なくなったら逃げなさい」と言った、それでいいのか護衛任務で敵前逃亡とか、いや傭兵だけど死ぬまで戦うつもりは無いから本当に追い込まれれば逃げるんだけどさ。
『————— 我等開拓船団は国の将来を豊かにする為の試金石である、帝国臣民、各々立場の違うもの達が集まっているが皆、誠実な職務の遂行を臨む』
長ったらしい『彼』の演説が終わるとゲートに一斉に艦隊が飛び込み始めた、流石に開拓船団級の艦隊行動は初めてなので、この数が光の粒になって宇宙を駆けていく様は壮観だ。
ィィィィ、ズドォンズドォン!!!
そしてほぼ時間差も無く私達アークとブラックダイヤも光となった、行き先は端宇宙と呼ばれる辺境星域の惑星で、未だに惑星改善が終わっていない星が対象となる。
惑星浄化弾と呼ばれる一発の直径が3mほどの弾丸が惑星のX.Y.Z軸端から、計六発を撃ち込むことで人類が住める環境に改善する、改造完了までは数日間軌道上で待機、惑星改善が終わると入星をして開拓を進める計画となっている。
開拓船団の中核は帝国軍と民間企業だ、護衛と惑星浄化弾の使用が帝国航宙艦、惑星の開拓と開発が民間企業主導で行われる。
端宇宙は未開拓という事で宇宙海賊の逃げ場の温床となっている、開発済みの星系と比べると遥かに危険度が高いので組織的に動ける帝国航宙艦と小回りが利く傭兵の護衛が雇われるのが常となっている為、星系内に滞在している傭兵全員に依頼された訳だ。
とは言っても開拓船団は大艦隊だ、余程でない限りは襲撃される事はないだろうしゲート使用によるワームホールドライブ中の数日間は安全なのでワームホールを抜けるまではフルオート航行に任せてノンビリ過ごす、通常空間では周辺宙域の警戒をしているだけの基本的には楽なお仕事、だと思う。
思う、と言うのもまあ依頼主が皇帝陛下肝入りの開拓船団、代表者は『彼』となれば
「何も起きないはずが無く?」
「あー、ニーナ言っちゃったね」
『言ってしまったねえニーナ、アタシは知らないよ』
「はい、いいえ、これは所謂フラッグ、旗が立ったという状況と言えるでしょう」
「えっ、私ですか!?」
「思ってても私は言わなかったのになー、嫌な予感がしてたから」
「それを言うなら『あの方』が関わっている時点でノワのフラグというものでは?」
『そうとも、ノワのフラグとも言えるねえ』
「え゛、私の? 知らないよ、私はシラナイ」
ぺっぺっ!『彼』なんて私は知らないよ、なんかしつこく食事のお誘いとかこそこそ来るけど絶賛お断り中だ、もう面倒臭いからシェフィの所で機械的に断っている、話があるのかなんなのか知らないけど普通に考えて皇族と一般人なんて早々接点を持つことはないのだから目立つマネはやめて欲しい。
ユーは皇族、私は一般人の銀獅子級傭兵、オーケイ?
「ノワ様、定期便が」
「断っておいて」
「はい」
『いい加減一度は受けておいた方がいいんじゃないかい? いくら会いたくなくてもそろそろ周囲を固める奴等が「不敬だ不敬だー」って騒ぎ出すよ』
「それは有り得ますね、側近からしたらノワの正体を知っている訳でも無いので・・・」
「うげぇ、シェフィ?」
「はい、いいえ、まあ一般的に見るとそういう視点も有るかと」
「・・・参加者はシェフィ、ニーナ、キャプテン込みで良いならって返事しておいて」
「はい、了解致しました」
『げえっ、ノワてめえ!』
「ノワ!? 私は一般軍人ですよ!?」
ふひひ、やるならみんな巻き込んでしまうのだ、他人事のように言うキャプテンもニーナも同席、よく言うじゃんね、いい事はン倍に、イヤな事は分け合ってって、死なば諸共よ、フウハハハ!
シェフィ? シェフィは私と一心同体だから大丈夫、いつでもどこでもシェフィは着いてきてくれるからね、返事ではちゃんと人数に入れておかないと人造機械は頭数から省かれる事が多いから言ってるけどね。
まあ、私達はこんな感じでトラブルを巻き起こしつつこれからも旅をして行くのだろう。




