再会、いいえ初めまして
「! や、やあ、ノワール、だよな?」
「・・・」
うーんダメだ、何の感情も湧かない、ママに呼ばれた時は嬉しかったのになあ、何故だろうこれは無理だ。
ヘラりと愛想笑いをした彼が身内に見えない
「ノワール?」
「・・・どうも」
掛ける言葉も見つからない、何を言っても傷つけてしまいそうでさ、初めまして? 貴方は名前は? 名前名乗ってないんですけど、しまったなぁ、おじい様に殴る権利譲っちゃったの失敗だったかもしれない、話を聞いた第一印象のまま私は彼を殴ってサヨナラ!の方が余程スッキリ終われただろう。
「ノワール?」
隣から気遣う声色が聴こえた、言葉のない私はいつの間にかばぁばのドレスの袖を握っていたのだ。
「ここまでだなスィー」
「そうですね貴方」
「!」
じいじとばぁばがそう言うと彼は顔を真っ青にして動揺した様子で2人を交互に見た、3人の間で何か決めていた事があったのか私はばぁばに促されるまま振り返って部屋から退出した。
「・・・」
言葉は無いまま皆の部屋に戻る気分にもなれず足が重い、
「少し遠回りしましょうか」
「うん・・・」
「あの子が嫌い?」
「ううん、嫌いか好きかを語る程相手を知らないから、でも好きではない、かな」
「遠慮なく殴っても良かったのよ、それだけの仕打ちをノワールは受けているわ」
「うーん、なんか、実際目の前にすると自分でもビックリするほど言葉が無くて、責め立てるのも違うなって、だからと言って言葉を交わす程の感情も感じられなくて」
「そう、ノワールはあの子を許せないのね」
「許せない・・・」
ああ、確かにばぁばに言われて納得だ、私は彼を許せない。
何も聞いていないけど皇家とアニマトロン男爵家との話は決着したのだろう、でもおじい様もおばあ様もママも別室で顔を合わせていない、予想だけどママ達は私に見せられる顔をしていないのではないかと思う、そもそも愉快な話でないのは大前提で子や孫、他人に見せられる顔ではないとの配慮がされたとすれば、貴族家の話は兎も角、個人としては許せる類のものでは無かったのかもしれない。
おじい様とおばあ様にとって親として、ママとしては女として、そして人として許せないと、私の感覚では他人事の話で、でも私が産まれる切っ掛けとなった大事件で、ママにとって忌むべき事となっていてもおかしくはないのだ。
勿論ママは私を産んでよかった、後悔していないと何度も何度も言ってくれたのは私を慮った結果なのは私にもヒシヒシと伝わっていた。
「うん、許せない」
そう意識した途端、ヘラりと愛想笑いをした顔が思い起こされ胸の奥にはムカムカとした気持ちが広がった、今の第三皇子は真面目な人間になったと評判で15年経った今ではそこそこの立場になっているそうだ。
それでも通常皇族という立場を勘案するとパッとしないレベルで、皇帝陛下は当時から彼に再教育を施し、贔屓をすることも無く厳しく下働きから常識を叩き込んだとか。
因みにママや貴族の令嬢を手篭めにした理由は気持ち悪くて調べていないし知る気も無い。
***
ノワールが立ち去った後の部屋で皇帝は独りごちた、孫の第三皇子は肩を落として帰らせた。
「見たか、アレク」
「はい」
部屋の片隅からスウと現れた男は皇太子アレクシス、現皇帝の息子にして件の第三皇子の父であった。
影がとても薄く、皇帝が高齢でも壮健な事で皇位を継ぐ事は無いとされ、『繋ぎ皇太子』と言われる不遇の皇族と陰で呼ばれる存在だ、本当に影が薄い為見届け人として皇帝がひっそりと同席させていたのだった。
息子の第三皇子が若気の至りと言うには悪辣過ぎる事件を引き起こしたことで最も骨を折り、心を痛めた1人である。
「彼女の瞳には息子は映っておりませんでした、世間で調べられる事件は概ね事実なのでアレが彼女の答えなのでしょう」
「そうだな」
性格が生真面目な皇太子は実孫に当たるノワールの祖父だ、可愛いくない筈がなく、皇帝皇后両陛下同様ノワールを可愛がりたい気持ちは人一倍持っていたが、息子の仕出かした事を考えると合わせる顔がないと諦める程には生真面目な人間であった。
「息子はどうでもいいんです、娘の反応を見て、自分がした所業を今更後悔するなんて、これまで本当の意味で反省していなかった証左です」
でも孫は、ノワールだけは可愛がりたかった!
ギリギリと歯をかみ締めた皇太子は当時激高、帯刀していたブレードを抜き放ち息子の首を落とそうしたくらいには情の篤い人間である、その時止めたのは皇帝陛下で生きて反省させることこそ我々の役目であると説得していた。
結果としてそれは正解であったが、生真面目な皇太子夫妻はノワールに顔を合わせる機会を逸してしまった。
「何も下手に拘らずに会えば良かろうに」
「いえ!それはっ!ぐぬぬっ!」
「頑固者め、ノワはまた飛び立ってしまうぞ」
「良いのです、これこそ我が子が仕出かした私への罰であると認識しておりますゆえ、それに」
「ん?」
「見ましたか? あのドレス、妻と私が選んだ物です、似合ってましたね!? 父上と母上の物ではなく、私たちが選んだドレスですよ、ふはは!」
「っ!?貴様、ぐぬぬ!!」
いい歳の大人が取っ組み合いの喧嘩をしたのは誰も知らない・・・




