会食
副賞のお酒はキャプテンが長年探し求める物だけあってとても貴重な物だ、それを大会副賞で「はい、どうぞ」と渡して終わらないのが大きな組織の常、優勝者の副賞のお酒は皇族との会食で振る舞われるお酒、というのは私が優勝を決めて担当者から説明された時に初めて判った事だった。
「ゔぁ~!?」
変な叫びを挙げたのはキャプテン、下戸の私が会食参加、キャプテンは酒飲みだけど参加出来ない、と思った瞬間の珍妙な声だ。
幸い、会食という体を取っているので数人の招待は許されている事が判明すると涙を流して喜んだ、キャプテン・・・。
私、ニーナ、シェフィ、キャプテン、ママ、おばあ様、おじい様の7人を申請すると担当者はピクリと反応して「良いのですか?」と言葉少なに確認して来た。
皇族とアニマトロン男爵家の確執は知る人ぞ知る貴族間問題だ、私は兎も角ママとおばあ様おじい様が大会の副賞とは言え皇族と会食を行う意味は決して軽くは無い。
「うひひ、酒だ酒だ」
「キャプテン・・・」
じゅるりと舌なめずりするキャプテンが全てを台無しにしているけど、これは大変なことですよ!
「キャプテンノワ!貴女とアニマトロン男爵家の関係は!?」
「親しくさせて貰っている家族のような関係です!」
「えっ!? 白銀の髪に蒼い瞳、それでは皇族のッ」
「そっちとは無関係です!」
「ええっ!?」
「皇族と私は無関係です!見た目はそっくりだけな赤の他人です!」
「ちょっ、そんなはずは」
指差し確認よし! (私の)皇族問題は解決!
マスコミ相手にまともな話なんかしないよ嘘ってバレるからね、ていうか細かい事も大まかな事もじいじが手を回して解決するから私から余計な事は言わないのが正解だ、公然の秘密だろうがなんだろうが国が「白!」と言えばそうなるのだ、ビバ国家権力。
「じいじって結構雑だよね」
「下手に策を弄すると躓きかねません、圧倒的力があるならそれらの行使の方がリスクは低いと判断なされたのでは?」
「なるほどー、確かにアレコレしようとすると私の事を知る人も増えちゃうもんね」
私の存在について確信を持って判断を下せるのは現状皇族側にはじいじと皇后様くらいだから、陰謀論とかアレコレ言われてもゴシップの域を超えない、遺伝子検査? あはは拒否します!
皆、正装に身を包み会食会場の皇宮の一間で待つ、立場が低い人間が先に、皇族のようなヒエラルキートップが最後に会場に入場するのが常識だ。
席次は皇族を除くと大会優勝者の私が上座、その後クルー、招待客といった並びだ、本来社会的地位ならおじい様おばあ様ママ、キャプテン私ニーナシェフィの並びになるんだけど、諸々の事情から前者の並びが1番都合が良い、あくまで大会の会食という体だからね。
あと、おじい様が「ぬあああ」で拳が唸りを上げたりすると大問題になるし、一応我慢する練習を重ねて来たと言っても本物を前にしてどうなるかは分からないからね。
そんなことを考えている内に皇帝陛下と皇后陛下が入室するファンファーレが鳴り響く、私達は立ち上がって待ち受けた、親しき仲にも礼儀あり、通すべき形はある程度通すべきだ。
「皆、楽にせよ、キャプテンノワール、此処へ」
まずは私の表彰から入る
「ようやったノワ、儂は誇りに思う」
「あ、はい!」
と思ったら、皇帝陛下がそっと私の頭に手を乗せて笑った、身内としての御祝いの言葉に自然と顔が綻ぶ、そして・・・
「ああ!もう!」
「むぐ!?」
隣から手が伸びてきて大きなソレに包まれた、デカぁーい、その一言しか出てこない大迫力の柔らかいものは正に皇帝級、否、皇后級の胸だ。
「あなた、やっぱりウチで引き取りましょうよ、こんな可愛いなんて聴いてないわ!」
「だから先に話を通したのだ、この娘は自由の鳥ぞ、皇宮なぞ小さな籠に留まる器ではないわ」
「でもぉ」
どうにか目線を上げて改めて拝見すると曾祖父の奥さんの筈の曾祖母は悪く見ても40代、良く言うと30代でも通る恐るべき美魔女だった、目は蒼く、髪も白銀。
事前に調べた情報だと曾祖母は公爵家出身の令嬢で、公爵家は元々皇家の血が流れている、代々皇家の血を色濃く受け継いだ者は例外なく皇族へと嫁ぐ、そんな貴族では有り触れた話の人間だ。
「解ってはいましたがノワにそっくりですね」
「はい、いいえ、皇后陛下にノワ様がそっくりと言うべきかと」
ニーナとシェフィのそんな呟きが耳に届いた、似てるかなあ、そんな気はしないんだけどね、こう溢れ出る高貴さというか気迫というかオーラが「私皇族ですが何か」って感じで雰囲気とか全然違うと思うんだけど。
「ぐぬぬ・・・」
あ、ここで「ぐぬぬ」!?
「皇帝陛下皇后陛下、失礼ですがその子はウチの子ですのであしからず、ふははは」
「何ィ!?」
「きいいい、貴方のせいよ、こんな可愛い娘を手放すなんて!」
おじい様が一歩間違えたら不敬とも取られる言葉を発した、ていうか最後に小さな声で笑ったよ、それ不敬では。
どうやら事前に皇帝陛下に聞いていた通り、皇后陛下は私を皇族に引き入れたい筆頭らしく、情報端末でこっそりやり取りした内容によると皇帝陛下と交した皇族を名乗らない約定が有効になった今もまだ諦め切れていないとか。
「こんなっ、こんなのってないわ!」
皇后陛下は私を抱きしめて離さない、惜しい惜しいとばかりに諦めきれない様子がありありと理解出来た。
理由? それは現在の皇族を取り巻く子々孫々のお話になるのだけど、女の子(姫様)が極端に少なくて、男の子(皇子)ばかりを可愛がるのに飽き飽きしているからだ。
曾祖父母である現在の皇帝皇后の子供が1人の皇子、1人の皇子の子供が3人の皇子(その中の1人が私の遺伝上の父親)、3人の皇子の子供も・・・、と、それはもう男系続きでイライラ、もとい女の子が欲しくて欲しくて堪らないのだとか。
因みに皇后陛下を筆頭に皇族に嫁いだお嫁さん方も似た様な感じの組織になっていて、男はもういいと言われて父親達は頭が上がらない程らしい。
そこへ現れた流星ことノワール、白銀の御髪と蒼き瞳という皇族の特徴を完全に継いだ曾孫の私に皇后陛下は目が眩んだが如くお熱だそうだ。
皇帝陛下によると既に皇宮に部屋とドレスが用意されて・・・、いやこの話は聞かなかったことにしよう、うん。
まあそんな感じで現れた女の子の子孫がよりにもよって当時大問題を起こして貴族の子女を孕ませた皇子の娘、ガクリと項垂れた皇后陛下は皇帝陛下が見たことの無い様子で落ち込み、そして顔を紅潮させて興奮したそうだ。
「そうだ、ウチで引き取れば良いじゃない」
なんなら私が実母として戸籍をッ!
ふんすふんすと張り切る皇后陛下を見た皇帝陛下は事前に動いて私と約定を交しておいて正解だったと胸をなで下ろした。
「ふはは、ぐほっ」
「貴方、不敬よ」
嘆く皇后陛下、宥める皇帝陛下、小さく高笑うおじい様、肘を繰り出して黙らせるおばあ様、場は混沌としていた。
キャプテンはヨダレを垂らしそうだし、立場上ニーナとシェフィが何かを言えるわけでもない、ママは・・・、あの第3皇子にしか思う所は無いと言い切っているので澄ました感じで黙っている。
だれか、たすけて。




