腕試し4
さて、何だかんだで私も負けていい訳では無い、ママ達にいい所を見せたいし、航宙戦の技術を見せて傭兵生活についても安心してもらいたいからね。
これに関してはじいじからも心配の御言葉を賜り申しているから、大会を通じて私の強さと自信の根拠をある程度示しておきたいと思う。
『皆さんお待ちかね、ギャラクシーファイトォ、レディ・・・、ゴー!!』
テーテテーン、テーテテテテテテテ、テーテテ、テテーテテテン!シャイニンッフィ・・・、おっとこれ以上はいけない。
さあ負けないぞ、キャプテンの挑発に乗らずに明鏡止水の心が如く、澄み切った水面の如し心で戦うのだ。
ブラックダイヤから多数のミサイルが発射される、ニーナが合わせてECM、ジャマー、チャフ、フレアを起動させた、幾つかのミサイルは明後日の方向へ、大半のミサイルはアークに到来した。
スロットルを全開にして私は回避機動を取る、ズシリと全身には慣性制御装置で殺し切れなかったGが襲い掛かる。
「ッーーー、ミサイル回避成功、レーザー砲ロックオン」
「適宜シールドセルの使用を」
ミサイルは真正面から撃たれる分にはまだ回避し易い、光速で着弾するほぼ回避不能に近いレーザー砲よりは遥かにマシだ。
と言っても、自分艦の強味を押し付ける方法は腕利きの戦闘艦乗りなら一つや二つ持っている、キャプテンの場合はミサイルを当てる為の立ち回りだ。
「ノワ様、ブラックダイヤから無数の物質が落とされています」
「うん」
推進剤に点火していないミサイルがゴロゴロと宙域にばら撒かれる、懐かしい、ママの仇が使用した方法『置きミサイル』だ。
但し、キャプテンも私が置かれたミサイルの反応距離に入るとは欠片も考えていない、つまりはブラックダイヤから射出されるミサイルの絶対量を増やした飽和攻撃への切っ掛けに過ぎない、勿論呑気に相手の策略に付き合うつもりはないがうかうかしていると全点火してミサイルの飽和攻撃がアークを襲う。
そうなるとジャマーやチャフ、フレアで殺し切れなかったミサイルが着弾してシールドが飽和、シールドロストを引き起こせば私の負けだ。
その間、私は超重力砲を球体仕様で重力場を設置して行く、放射仕様とは違ってグラビティボールは出力によって複数個、数秒から数十秒その場に存在し続ける。
私の狙いがバレてしまわないように、反転引き撃ちをしながらレーザー砲と電磁加速砲の偏差射撃でキャプテンの気を散らす、次いでにこれみよがしにブレードを展開して接近戦も匂わす。
対艦ブレードは当たれば出力抑えるもクソもないので、シミュレーション上で展開している状態になっているだけだ、軌道上を通れば切断判定が帝国航宙艦によってされるのでアークの感覚では当ててしまっても問題は無い。
キャプテンはある程度距離を詰めたい、しかし詰め過ぎると私の戦場になるのであくまでもミサイルとレーザー砲の有利射程に収めたい、私はその距離を乱す為に反転引き撃ちの逆走の速度を適当に変化させて、鋭角軌道も混ぜ込み複雑化させて行く、つまりキャプテンに多くの選択肢を迫るのだ、迷いで操作を緩慢にさせて思考を散らす。
キャプテンだってベテランなので此方の思考は読んでくるだろう、それでも無視出来る選択肢とそうでない選択肢の取捨選択はせざるを得ない環境を私は作る。
更に選択肢を追加だ、超重力砲で生成した重力場を使ってレーザー砲を偏向させブラックダイヤに当てていく、キャプテンの四門レーザー砲と違って此方のレーザー砲は二門、火力差は倍なのでヘッドオンで撃ち合うのは分が悪い。
「シールド削られていきます、ブラックダイヤはまだ余裕が」
「大丈夫、重力場だけは必ずマーキング保持しておいて」
「はい」
と、これ以上時間を掛けるとミサイル飽和攻撃が来るので一転攻勢を仕掛ける、鋭角機動からブラックダイヤへの接近を試みる。
『————』
キャプテンも易々とアークの接近は許さない、今度はブラックダイヤをアークが追う展開だ、でもミサイル艦の強みとして追われながらも撃てるという有利は失われない、通常航宙艦の火力は設計上前方上部に集中されるが、ミサイルは艦から放たれた時点で敵艦追尾へと移る為追ってても追われていても火力が落ちないのだ。
「ミサイル、着弾します」
こっちが追っている分、ミサイル着弾までの時間が短くなり、ジャマーやフレアをすり抜ける数が増える、それは織り込み済みだけど、ずっと撃たれてばかりも面白くない。
完全集中、ミサイルを髪一重で回避して行く、直撃よりマシ程度だけど爆炎で削られる、それでもシールド減衰は抑えられるので、只管躱すッ!
ズドン!
そして、目の前には絶対に処理し切れないミサイルの雨が迫っていた。
『お終いだよノワ』
「そうだね、お終いだよキャプテン」
ミサイルの嵐がアークを襲う、シールドセルを使用しても急速充填は間に合わない、ゴリゴリと削られていくシールドゲージを前に決着のコールが響き渡った。
『決着!勝者はキャプテン——————』
***
『躱す、躱す、躱す、うわあーー!ミサイルってこんなに回避出来るものなのか!?』
『いえ、これはキャプテンノワだからこその回避率ですね、並の人間にミサイル回避は不可能ですよ、勿論オペレーターの腕前とジャマー系の性能にも依存する事ですが、近年のミサイル命中率は基本的に高いです』
『今度は、引き撃ちだ、背中に目が着いているのか、何をどうしたら背後を向きながら戦闘機動を出来るのかー!!』
『小型戦闘艦乗りに聞くとUIを弄って前と後ろを同時に見ているそうです、勿論見えているからどうだという問題は残ります、更に回避機動となると難易度は跳ね上がりますよ』
『対艦ブレードを展開したぞ、まさか『処刑人』の二つ名のとおりクロスファイトが観られるのか!』
『恐らくこれはブラフです、ミサイルを掻い潜って接近戦は金獅子級傭兵、しかも僚友ともなれば手の内も割れてますので至難の業です』
『えっ、レーザー砲が曲がったんですけど、これは!?!?』
『超重力砲の重力場ですね、これはキャプテンドレイクはやりにくいですよ、逆にキャプテンノワは良く当てていますね、マルチタスクの精度が計り知れないレベルで素晴らしいです、彼女ならAIサポート無しでも戦艦運用をこなしそうですね』
『キャプテンノワが化け物のように思えて来ますが、主導権はキャプテンドレイクか、ミサイルが強い!』
『ようく見ると対艦距離は変化しないのに加速度が急激に変化しています、バチバチに主導権の奪い合いをしていますよ、これは一瞬で戦況がひっくり返りますよ、目が離せません』
『ああーっと、ミサイルの飽和攻撃だ、これはキャプテンノワ万事休すかーー!』
『ん? 変な方向に電磁加速砲を撃ちましたね、これは、ッッ!?』
『判定がッ、決着!勝者キャプテン、ノワだぁぁぁぁーー!! なんとキャプテンドレイクのミサイル飽和攻撃が着弾する直前にブラックダイヤ号の土手っ腹に大穴が空いたという撃墜判定、これはどうしたぁー!?』
『これは・・・、凄い、いえ、気持ち悪いです』
『えっ、どうしました!』
『こちらの映像をご覧下さい、明後日の方向へ撃たれた電磁加速砲の質量弾が、複数の重力場を経由して・・・』
『うわぁ、弾丸がぐにゃぐにゃと曲がって最終的にキャプテンドレイクのブラックダイヤに直撃、これは気持ち悪い!神業を超えた気持ちの悪さ、キャプテンノワのグロ技炸裂だ!!』
『キャプテンノワの頭の中がどうなってるか訳が分かりません、スパコン数台積んでいるのでは?』




