行方判明
「あらー」
電子カタログでじいじへの御礼品をニーナと肩を並べて見ていると、ムフフと口元を抑えたママが部屋の入口で立ち止まっていた。
「仲良くね、ごゆっくり~」
スーと静かに戸締りをして出て行ってしまった
「お母様ー! 曾孫も近いうちに見られるかもー!」
「あらあら!」
「なにィ! ・・・いや、ニーナさんなら構わないか、男だったらコロシてるところだが」
廊下から叫び声が聴こえた、違うんですけど!? いやニーナは確かにパートナーだけど、まだまだ子供なんて考え・・・
「えへへ、曾孫だなんて」
あれえ、ニーナは満更でもないや、いや21歳だとそうなのかな、私は15歳成人になったばかりだけど、うーん近い内にシェフィと相談していた方が良いのかもしれない。
て言うか1人掛けのソファーで2人で座ってるのってそういう風に見えるのかな、私としてはいつもの通りニーナの膝の上に乗せて貰ってるだけなんだけど。
ニーナって人体置換技術で基礎値が高いから、さっきみたいに膝に縋り付くと脇の下に手を入れてヒョイっと膝上に乗せてくれるだけなんだよ。
「ベールガールはお任せ下さい、祝詞も多言語複数同時展開可能なので」
「「え」」
「ふふふ」
サッと現れたシェフィがサッと去って、待って待って待って何しに来たの、ツッコミ!?
「失礼、幸せ空間に嫉妬致しました、偶には構ってくださいね」
「う、うん、じゃあ今度ね」
「はい、いいえ、違います、キャプテンの行方が判明致しました事をここに御報告申し上げます」
「え!本当に」
「はい、いいえ、正確にはワームホールドライブ中の通信を受けたので正確な日時は測れません、少なくとも主星方面へ向けて移動したとだけ」
「分かった、ありがとうシェフィ」
「はい」
ワームホールドライブ中は空間がねじ曲がっているので通信がとても不安定になるんだよね、これはシンクロドライブと同じ現象で一瞬のズレが最大数日間のズレを呼び起こすせいだ。
特に通信系は影響を受けやすくて、せめてワームホールドライブに入る前に通信してくれれば問題は無かったんだけど、シェフィの予測だとシェフィ(球)のメンテナンス時間にキャプテンが動いた可能性が高く、キャプテン自身がワームホールドライブ中に「あっ」となって通信したっぽいよね、これ。
この刹那的というか思い付き即行動した感じだと、多分シェフィやママの予想通り、掘り出し物のお酒の情報を手に入れて光速ドライブドォン!
そのままワームホールドライブにも突入、あ、そう言えば連絡してなかったけどシェフィ(球)がやってるだろ、あれ寝てる・・・、って感じが最有力感が半端ないよ。
取り敢えず無事って事は分かったから良いけどさ、キャプテンもう少し周囲の気持ちも考えてよね、もう!
「ふふ、キャプテンさんらしいですね」
「そだね、はあー、心配して損したよ」
「そうですね、まあ急がず騒がず向かえるので良かったのでは?」
「ね、そこは良かった」
E星系からA星系へ向かうアークの中でホッと一息、ッ!?
「あ、あのうニーナさん?」
「はい」
「その手はなんでしょう」
シェフィ居なくなった途端にニーナが私のお腹の前で手をがっちりホールド、そして首筋にちゅーっと吸い付いて・・・
「私が居るのに次の人と約束なんて」
「あ、シェフィに嫉妬してるの?」
「してません」
むー、としたニーナは膝上に乗せた私の腰を片手で捕まえたまま空いた手で頬を撫でた、んふ、くすぐったい、ニーナかーわーいーいー!!
その後存分に仲直りのにゃんにゃんをした、拗ねたニーナも可愛いにゃー。
***
ノワ達が惑星で一家団欒、ニーナも軍の仕事をこなしている間、アタシは悠々自適に呑み生活を送っていた。
コロニーでは手に入らないアテに普段飲まないような酒を楽しむ、いつも小うるさいシェフィも本体は居ないから静かなもんだ。
シェフィ(球)はブラックダイヤで留守番だし、朝からカッと飲めるのも最高だねえ、なんだかんだでノワもニーナも堅物だから朝から飲むのも控えていたし、たまにはこういう生活も悪くない。
惑星のあちらこちらを飛び回って地酒を楽しんだり、近くのコロニーへ足を伸ばすのも良いもんだ、地酒だと科学的な手があまり入ってないから癖が強くて堪らないし、コロニー酒のような洗練された味わいも捨て難い、アテもまた同様だ。
住まいは基本ホテルだから航宙艦住まいの時のように他に気を回すこともなく極楽極楽、全く良い暮らしだよ。
「お客様、耳寄りな情報が」
普段なら一笑に伏す話も顔見知りになったバーテンダーとなっては無下には扱わない、ある日本当に耳寄りな情報を手に入れた。
主星で行われる「とある大会」で副賞のひとつに昔から飲んでみたかったクラシカルアルコールがあったのだ、アタシが航宙艦を駆る傭兵と知っていたバーテンダーが、これはどうかと話を持ってきてくれた。
「へえ、そりゃー本当かい?」
「はい、御心配なら大会ページをご確認しては?」
と、言うので念の為自分の情報端末で大会概要を確認すると確かに上位入賞の副賞としてクラシカルアルコールの名が載っていた、賞金も悪くない。
「サンキュー、こいつは例だ、とっときな」
アタシはチップを多めにバーテンダーに支払うとすぐ様ブラックダイヤに乗って主星へと向かうことにした。
大会参加の申し込み期限がギリギリだったが、今から光速ドライブを使ってゲートを使用したワームホールドライブなら間に合う。
「シェフィ! 主星に行くからノワにメッセージ送っておきな! ヒック」
ほろ酔い加減のアタシはいつものようにブラックダイヤの出力を上げてゲート使用申請を出し、コロニーから発艦した、勿論長年探し求めていた酒を見付けたアタシは上機嫌にスロットル全開だ。
「イーヤッハーー!!!」
「(・・・)」
シェフィがメンテナンス中で連絡も何も無しに出発したと気付いたのは、気持ち良く寝てワームホールドライブが終わったその時だった。
アタシの情報端末にはシェフィ、ノワ、ニーナ、なんならアニマトロン男爵家と数日前のメッセージやコールの大量の履歴が残っていて、朝から頭の痛い状況になっているのは明白だったのだ・・・




