アニマトロン男爵家
「ぬあああー!?」
壮年の男性が頭を抱えて蹲った、彼はママのお父さんアニマトロン男爵、私から見て祖父に当たる人だ。
「また変な事に拘って、この人は・・・、ノワール、おばあ様ですよー」
「おばあさま?」
「ええ! やっぱり可愛いわねえ女の子は、あんのクソ皇子はクソだけど、容姿だけは褒めてやってもいいわぁ」
「! ぬあああっ、皇子、コロス!」
壮年の皺を刻んだ女性はママのママ、おばあ様だ、ママの実家アニマトロン男爵家に来ると私は歓迎して貰えた。
ママの弟、ジュドウさんにも叔父として歓迎するよと言われ、ゆっくりして行きなさいと暖かく迎えてくれたのだ。
問題はママのパパ、おじい様が『皇子』のワードを聴くとトラウマを発症して、皇子コロスマンに変貌してしまう事だ、それ以外は普通の優しいおじいさんなのに、15年前から皇家ワードは地雷で未だに快復しないらしい。
おばあ様からも何やら不穏なワードが出た気がするけど、まあ気の所為だと思われる、頭を撫でて抱擁してくれる優しいおばあ様だ。
「お父様がこんな調子だから上手く和解も出来なくてね、いい機会だから、もうジュドウに爵位を渡して、って話はしていたのよ」
「じいじは私を利用する気は無いって言ってたけど、それなら私からアポ取る? いつでも皇宮に「ぬあああ!」・・・来ていいって言われてるよ?」
「あら、いいじゃない、いい加減先延ばしにするのも良くないでしょ」
「そうだね、父さん、良いよね?」
「・・・」
「おじいちゃん?」
「ぬあああっ!?」
え、それは私も発作のトリガーなの? 困ったから叫んだのどっち!?
「今のは可愛い孫に頼まれて苦難の「ぬあああ」ね」
「そ、そうなんだ・・・」
まあ男爵が皇家ワードを聞くとコロスと言います、なんて正直に言えないもんね、ジュドウさんに世代交代しても15年前当時の関係者としてはママとおばあ様とおじい様の3人は立ち会い必須になるし、和解の話し合いにしても皇家の方は皇族の誰かが立ち会いを希望しているので、代理人を通してお終いともいかない難しい問題だったらしい。
「ノワをみてセーフ(アウト)なら、慣れるまでは皇族「ぬあああ」ワード言ってやれば治るんじゃないんかい?」
「えー、おじい様」
「なんだい、ノワール」
普通に話し掛けるとニッコリ好々爺なんだけどね
「皇帝陛下に会えないの、さ?」
「ぬ、ぐうう!? コ、コロッ」
あ、いい感じに怒りと苦悶と私の前だから表情がまじって・・・・・・、コレどんな感情!?
「うわ、お父様気持ち悪い」
「あなた気持ち悪いわ」
「父さん、気持ち悪っ」
うん、家族からも散々だ、これ続けるの私は構わないけどおじい様の尊厳やら威厳がゴリゴリ削られていくけど良いのかな。
「そう言えば、こういうのはどうかな」
おじい様の様子を見た時から思いついていた考えを私は提案した、それは・・・
「あら、良いの? その権利はノワールにだって十分有るのに」
「うん、私より相応しい人がやった方がいいと思うし、本当ならママが良いかなと思っていたんだけど」
「私は大丈夫、ふふ、ふふふ、お父様に好きにさせれば良いわ」
「う、うん?」
ということで、じいじにこっそりと交渉していたとある権利はおじい様に譲る事にした、本来なら譲渡したり出来ないものなんだけど、アニマトロン男爵家の誰かなら、じいじは許してくれるだろう。
実際じいじに通信して確認すると快く頷いてくれたので問題は無かった。
「なんだと、そんな権利を!? ぬおおおお!!」
その話をおじい様にするとこれまでの恨みを晴らすかのように運動を開始した、既にサンドバッグが1つダメになるほどに打ち込んでいて、それが良かったのか発作も落ち着きを見せ始めていた。
因みにキャプテンはホテル住まいで悠々自適に過ごしている、主星が近いと治安も良くて傭兵の仕事もそこまで多くは無い、アニマトロン男爵家で過ごすのは肩が凝るし、実家は機動騎士の一家で星に散り散りに住んでいるから会うつもりもないとの事だそうだ。
ニーナも軍への報告が滞っていたので、惑星の軍施設へと泊まり込みで報告等をする為に男爵家には居ない、「家族水入らずで」と気を使ってもくれたみたいで、図らずともアーククルーの長期休暇のような形に落ち着いていた。
シェフィは相変わらず私の傍に居て、ママとおじい様おばあ様、ジュドウ叔父さん、ジュドウさんの奥さんエリィス義叔母さんと静かな生活を送っていた。
ママが殺されてサジタリウスコロニーを出立して以来の落ち着いた時間だった。
「きゃー!! ノワちゃん今度はこっちね!」
「着飾り甲斐が有るわぁ」
「あなた、私子供は娘が良いわ」
「流石ノワ様、素敵です、さすのわ」
いや、落ち着いてはいないか、おばあ様とママ、エリィス義叔母が私を連れてありとあらゆる服飾屋さんに連れて行って毎日毎日着せ替え人形の日々だったもんね。
でも、育てのママが生きていた時は着れれば良いって投げやりな感じだったのも、今となっては構って貰えるのも幸せな時間だと認識した私は一緒に騒がしくも楽しい時間だと感じていた。
ずっと此処に居れば良いと言う家族に心を惹かれながら、私が傭兵として色んな星を見て回りたいと真剣に伝えると最終的にはしっかりと思いを受け止めて許可してくれた、この辺りはじいじより強くウチに居たら良いと言われてビックリした。
シェフィによると皇家と男爵家では求められる意識が違うので、そういった背景の差があるのでは無いかという事だ、決してじいじも引き取りたくなかった訳では無いとフォローしてくれた。
***
「皇家、皇子、最高」
「はっはっはっ、どうしたんだ突然、皇家がどうした?」
そうしておじい様がトラウマの克服をした頃、顔と声に憎悪が出ていないだけで背中にメラメラとしたものが見えているのを克服したかどうかの判断は脇に置いておくとして、だ。
そろそろ主星に行こうかとなり、行くのはおばあ様おじい様とママで、調整した日程をニーナとキャプテンに送った事で事件は判明した。
「はい、こちらも丁度休暇も終わりますので同道致します」
と、ニーナからはすぐ様返事が来たのに対して、待てど暮らせどキャプテンからは返事が無く。
私達の扱えるキャプテンへの連絡手段の全てを駆使しても尚、キャプテンとの連絡は取れない事が分かった。
そう、キャプテンが私達の前から姿を完全に消してしまったのだった・・・




