皇帝陛下3
じいじから晩餐のお誘いが来た、気取らぬ格好で特にドレスコードの指定は無いと言われても正装の方が無難だろうと私はドレスに身を包んだ、襟元には拝受したばかりの功一等銀皇大勲章を着けて行くのが礼儀だ。
銀皇という名の通り、書類上は皇帝の印璽を賜った勲章なので皇帝陛下であるじいじとの会食にこれ程適している勲章は無いだろう、勿論キャプテンも同様に正装と勲章を着けて同席する。
晩餐のお誘いにはシェフィとニーナの名前もあったので、シェフィも珍しくメイド服を脱いで清楚なドレス、ニーナは軍服を着ての参加となった。
中々ニーナがドレスを着る機会が無いのが残念だ、流石に今回は軍服以外の選択肢は無いから仕方ないけど。
晩餐の御料理は本当に凄かった、食べたことのある料理なのに味や風味が段違いに良く楽しめたのだ、使っている材料も聞けば同じなのに料理人の腕の違いなのか素材の差なのかとても美味しい。
「美味しいかノワ」
「うん!」
「そうかそうか、おかわりもあるからの好きなだけ食べなさい」
終始上機嫌なじいじと並んで食事をする内に相手が皇帝という意識も薄れて、普通の祖父と曾孫みたいな感じでリラックス出来ていた。
「それにしても良い伴侶を得たのう、仲良くするんだぞ」
「んぐっ!? げほ、な、なに、じいじ、突然」
「ふあはは、ニーナとは良い関係なのだろう、儂は何でも知っておるぞ」
話題に出た途端ニーナの背がピーンと伸び、手が止まった、うんまあ皇帝陛下だもんね、私は身内だけど、それでも畏敬の念が残ってちょっと遠慮が出てしまう、私でさえこうなら一般人のニーナに取っては恐れ多い事だと思う。
「う、うん、仲良くしてるよ」
「うむうむ、男ならすり潰していたがおなごなら赦そうぞ」
「すり潰・・・?」
「陛下、今時そういうのは流行りませんぞ、邪魔しようものなら馬に蹴られて死んでしまえとまで言われております故な」
「なんと、儂も流石に馬には蹴られて死にたくはないな、だがノワ、男を選ぶ時は先ず儂が見極めてからだ、良いな?」
「あ、はい」
なんか恐ろしい単語が聞こえたので、私は絶対男の人を選ばないと心に誓った、多分連れて来たその日には存在自体が宇宙から消されてしまうだろうからね。
「ニーナは良いの?」
「うん? うむ、ノワが選んだ相手なら赦そうぞ」
「ええ・・・?」
それなら男の人もセーフにならないのかな、ならないんだろうね、我ながら目は肥えてると思うよ、ニーナだって絶対信頼出来る人だし間違いないと思っているからね。
男の人はダメですか、そうですか・・・
「あとシェフィもなんだけど」
「うむ、良し!」
良いんだ!?
「ノワール様、意図的に皇族的判断で御相手を選んでおりませんよね?」
「え? 皇族的? 特には好きな相手ってだけですけど」
「素晴らしいです、元から備わっている資質か教育の結果なのか、ふうむ」
ショーンさんが感心したように頷いている、どういうこと?
「つまりだなノワ、皇族的に種をばら撒く阿呆は論外だ、もしノワが妊娠でもして現れておったら儂はどの様な手を使ってでも相手をすり潰しておったろうよ」
・・・それ、私の遺伝上の父親の話じゃないですかねえ、ばら撒いた結果の私が立場も定まらない内に妊娠しながら皇帝陛下と会談するなんて火種しかないじゃん。
ああ、だからニーナとシェフィはオッケーなんだ、今時性別や種族を問わず伴侶を選べると言っても女性同士や相手が人造機械だとメディカルコロニーに行って煩雑な手続きをしないと子孫は得られないもんね・・・。
そういう意味では酔った時に致したキャプテンもセーフだね、うんうん、アルコールには本当に気を付けよう。
「うめぇ・・・、なんだこの酒・・・」
キャプテンは静かにお酒に夢中になっていた、口を開いたら怖いことになりかねないので安心だ、横で心得ているかのようにシェフィがお酌をしている。
うんうん、口に何かを詰め込んでおけばしゃべれないもんね、じいじが席を立つまでそれでお願いします!
宴もたけなわ、料理もデザートを美味しく頂いていると
「ノワにプレゼントがあるのだ、受け取ってくれると儂も安心出来るのだが」
「プレゼント?」
「うむ、ショーン」
「はい、こちらに御座います」
ショーンさんが持ち出してきたのは一振りの短剣だった、全長30cm前後で装飾は控え目、鞘と柄に皇家の紋章が着いた、正に質実剛健といった様子の短剣である。
「これは?」
「勅剣である」
「ちょくけん?」
「うむ、簡単に言うと皇家に一目置かれた証だのう、これがあれば大抵の面倒事は片付くのでな、儂としてはノワにこれを持っていて貰いたい」
「えっ、そんな、かなり立派な物じゃ・・・、それに私は皇家とは関係の無い一般人って話じゃないの」
「なに、功一等銀皇大勲章を受けたなら持っていても不思議では無い物よ、本来なら勲章だけでも良いのだが、勅剣もあれば更に安心と言う訳だ、それに血筋上はノワの名前が皇家に載らないだけで儂は縁を切ったつもりはないぞ」
た、確かに、電子書類の項目の中でも、あくまでも皇族を名乗る事を禁止する、ノワールと言う一般人としての身分証明書だけだった、じいじが言う通り縁を切って二度と会わない、知り合いではない、っていう話では無かった。
つまり帝国において貢献した者に拝受される勲章と、扱いとしては大差がないって事になる、但し皇家の紋章が刻まれた物は一般的に出回っていないので、誰が見ても納得の下賜品となる。
貴族が下賜された品を常に身に付けているのと同じ意味になるね、大体は歴史の長い貴族家だと刃物を腰から下げている事が多い、女性なら皇后様から下賜されたアクセサリー類とかかな?
じいじとしては下賜品を持たせることで私を少しでも守りたいと言った、
「ありがとうじいじ、皇家の名に恥じないように頑張るよ」
「うむ」
穏やかに笑ったじいじは私の頭を撫でると満足気に頷いてお酒を呷った。
皇族としてではなく、勲章や下賜品を拝受されたからにはそれらに相応しくないとね、帝国の名を落とす様な真似は控えないといけない。




